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第二十八話  " Justiφ " Standing by ……Error!

午前5時 55分


早朝というほどではないが、学院のみんなは眠っているだろう。今しかない。モフモフのダークマターコックをON・チョークを引く・セルを回す・イグニッションコイル作動



キュカカ……ゴゥン! ゴルゴルゴルゴルゴル……



魔導エンジン点火・暖気開始・おはようモフモフ・アーカシ姫さまが跨る・レバーを確認・右足でリアブレーキを踏む・OK・両足で支える・オリビアが姫さまの肩に手を添える・右手でブレーキを握る・オリビアがタンデムシートに座る・リアサスペンションが沈む・モフモフの車体を真っすぐに起こす・エンジン音が変化・チョークを戻す。



グルッグルッグルッグルッグルッグルッ……



さらば我が母校、また遊びに来るからな。なあに、モフモフがいればいつでも来れる、楽しかったで!ほな、おおきに!サイドスタンドを払って出発や!



カコン。 グロゴゴゴガガガガガガガガァァァァァァン……



湿っぽいのが苦手なアーカシ姫さまは、誰にも見送られることなく聖エスカルゴ学院を後にした。少なくとも本人はそう思っている。姫さまの背中に頬を寄せるオリビアは気付いていた。じつはみんな起きていて、こっそりふたりを見送っていたことを。


白煙を残し走り去っていく二人が遠く見えなくなった頃、みんなぞろぞろと校庭に出てきた。学長、教師、司書と保険室の魔導士、そして貴族令嬢たち。レイコ・クリスティーヌと海野アケミは手をつないで、旅を続ける二人に聞こえるはずのない別れの言葉を送った。



「みんな何時でもここにいるよ! また遊びに来てね! 」



♪ 別れはいつでも 寂しいけれど

  二度と会えない わけじゃない

  記憶をたどれば いつでも会える

  だから君たちは 先に進むんだ


  君の背中を 見守ってるよ

  君の行く先にボクらはいない

  君の未来を 導く人が

  君の行く先で待ってるはずさ




「ごめん、忘れもんしたわ」



数分もしない内にふたりは学院に帰ってきた。アーカシ姫さまの日本刀が部屋に置きっぱなしだった。最近手に入れたばかりだったので、存在を忘れていたらしい。オリビアは羞恥に耐えかねて顔を隠していた。



◇◇◇



アーカシ姫さまとオリビアは、聖エスカルゴ学院を遠く離れた森で休憩していた。モフモフは絶好調で走ってくれるが旅は長い、なまった体を慣らす意味でもこまめな休憩は必要だ。木陰で背を伸ばし深呼吸するオリビアの横で、姫さまが何やら困っていた。



「なあ、この刀がさやから抜けへんのやけど」



アーカシ姫さまが手に入れた日本刀(玄君七章刀)がさやから抜けない。姫さまがいくら引っ張ってもダメだった。歪んでしまったのだろうか……試しにオリビアが手にすると、あっさり鞘から抜けた。オリビアは刀を鞘に納めて姫さまに渡す。



「あれ? おっかしいなぁ……」



もう一度アーカシ姫さまが鞘から抜こうとしたが、やっぱり抜けない。ふたりは閃いた。もしかして姫さまが刀を学院に忘れていったことを怒っているのでは……どうやら不思議な力を持つ刀だけに、感情があるらしい。姫さまは取ってつけたようなお世辞を口にした。



「それにしても美しい刀やな、刃紋が見たいわ」



シュコ。すこし鞘から抜けた……が、ほんのわずかに刃を見せただけ。この調子ではいざというとき使い物にならない。なんとか機嫌をとって、何時でも使えるようにしなくては。でもどうやって……オリビアがここで突拍子もない案を出す。



「歌でもうたったら機嫌なおるかな、なんちゃって」


「……いや、それ案外悪くないかもしれん」



なぜこの異世界に日本刀が顕現しているのかはわからないが、日本刀は大和魂の結晶、きっと日本を感じさせることが好きに違いない。とはいえ何時の時代の物かわからんし、どうしたものか……あ!



──── 綺麗だな みんな大好き 日本刀 ────



ススス……。刀が勝手に鞘から抜けた。しかしアーカシ姫さまのセンスが悪く、3割ほど刃紋を見せただけだった。



「姫さま、これはどういうことですか?」


「俳句と言ってな、五七五で言葉を揃えるうたなんや」


「なるほど、確かにちょっと機嫌も直りましたね」


「オリビア、あんたもやってみい」



──── お昼だな 今日のご飯は なんだろう ────



スコン。日本刀は鞘に戻ってしまった。



──── オリビアよ ちゃんと刀を 褒めるんだ ────


──── わかったわ ようやく意味を 理解した ────



ごほん。オリビアは咳払いして、一句



──── いい子だね よくできました 日本刀 ────


──── オリビアよ 違うそういう 事じゃない ────



ごほん。オリビアは再度咳払い。



──── 抜けば斬る 抜かねど散らす 百合の花 ────



スルルルル。鞘から7割ほど抜ける。刃先が見えるまであと少し。なお、この句に対する刀の評価は、なんかそれっぽくてカッコいいけど、意味が解らないから七割、ということらしい。とはいえ中々の高評価。ここはひとつ、日本から転生してきた本場仕込みの一句をアーカシ姫さまに詠んでいただこう。



──── かっこい みんな欲しがる 日本刀 ────



スコン。日本刀は鞘に戻ってしまった。



──── 姫さまの センスあまりに 酷すぎる ────


──── オリビアよ 文句あるのか このやろう ────


──── 酷すぎて 笑い止まらぬ このセンス ────


──── もうだめだ 我慢限界 ぶっとばす ────



静かな森で取っ組み合いを始める二人。オリビアは学院で鍛えたため姫さまと互角に渡り合う。秋の木漏れ日が二人を包み、木の上で栗鼠が戦いの行方を見届けていた。



◇◇◇



オリビアとの取っ組み合いの途中で、アーカシは枯葉に足を滑らせた。そのまま倒れ込む二人だったが、アーカシは仰向けに秋の風景を見る。少し寂しく冷たい空に、オリビアが長い黒髪をたらし覆いかぶさった。


ブロンドの髪に枯葉がからむアーカシが可笑しくて、くすくすと笑うオリビアは額をアーカシの額にコツンとあてる。肌寒い秋の森のなか、お互いの温もりを額に感じ、二人は見つめ合った。



オリビアは枯葉の上で寝ころぶアーカシが

 いつもより儚く見えていた

  「ずっと貴女の側にいるわ」


アーカシは木漏れ日の影となって見つめるオリビアが

 いつもより遠く感じていた

  「お願いずっと側にいて」


オリビアはアーカシを鳥籠に閉じ込めて

 蛇が来ても追い払うつもりだった

  死が二人を別つまで


アーカシはオリビアが蛇にかまれても

 冥府まで迎えに行くつもりだった

  死んでも貴女を離さない



Memento Mori (死を想え)







【 蛇にかまれても冥府まで迎えに行く 】

──注釈

ギリシャ神話の吟遊詩人オルペウスの物語より

毒蛇にかまれ死んだ妻を冥府(死の国)に迎えに行くが

約束を破り出口の近くで振り返りってしまう……

日本神話のイザナギ・イザナミの話と同じ

神話は世界中で共通する内容のものがある

その理由については諸説ある(語り出すときりがない)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 歌といって俳句が来るのか! 「スコン。日本刀は鞘に戻ってしまった。」 好きです。
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