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第二十話  女忍!聖エスカルゴ学院

聖エスカルゴ学院。


狂気山脈の奥深く、貴族令嬢の学び舎、アーカシ・ウォンターナ姫さまの母校。学院内は王宮のような広さを誇り、食堂では食事しながら室内管弦楽団の演奏も楽しめるという。姫さまは到着早々学長室へ向かい、ドアをノック。だが反応はない。



「まいど、アーカシ・ウォンターナです」



アーカシ姫さまは勝手にドアを開けて入室、さらにこの挨拶。これが貴族令嬢の通う学校の卒業生が行ってよい作法なのか。侯爵家四女のオリビアは大いに疑問を持ったが、本当に恐ろしいのはここからだった。



「…………隙在りぃぃぃ!」



ドアの後ろに隠れていた長身の老婆が木刀でアーカシ姫さまを後ろから殴りつけた。不意をつかれ避けることも叶わなかった姫さまは後頭部に強烈な一撃、そのまま気を失った。



「いやー、ここは(エスカルゴ)相変わらずやな、久々で油断したわ」


「貴女もまだまだね、貴族令嬢不覚悟よ」


「うちは貴族ちゃうで、王族や」


「ホホホホホ!」


「ハハハハハ!」



ふたり揃ってバカなのかと疑ったオリビアだったが、学長室の窓から見える広い運動場をドレスで走り、ドレスで腕立て、そしてドレスで砂袋を叩く貴族令嬢の生徒たちを見て、間違いなく全員バカだと確信した。そもそも貴族令嬢不覚悟とはなんだ?



「ところで今日は何の用でこのエスカルゴに?」


「ちょっと聞いて欲しい話があるねん」



アーカシ姫さまは、魔導士の街で騒ぎを起こした白い魔人と聖騎士サイファの件を長身の老婆、聖エスカルゴ学院の学長に話した。なにやら思い当たる節がある表情で頷く学長、姫さまにこう忠告した。



「白い教会、その動向を探る必要があるわね」



◇◇◇



レイコ・クリスティーヌはこの学院で悪役令嬢と呼ばれていた。とはいえ脳が筋肉で支配されているエスカルゴでは、少々のイジワルなど上腕二頭筋で粉砕される。鍛え上げられた貴族令嬢たちのビルドアップされた筋肉は、淑女の嗜みとして日々鍛錬を怠らない結果である。


────こんなの、貴族じゃないわ


裕福な名家の生まれであるクリスティーヌは学院の在り方に疑問を持っていた。それは客観的に正しいのだが、結果として彼女は孤立していた。体を鍛えて何になるの、貴族は民を導いて幸福にするのが義務でしょうに。彼女はそう考えていた。


最近転校してきた貧しい娘がクリスティーヌをいら立たせている。学院に相応しくない服装で口調も乱暴、反抗的で何かと突っかかってくる。しかし強く暴力的で、腕力ではかなわない。


────許せないわ


レイコ・クリスティーヌは彼女のことで頭がいっぱいだった。どうやってイジワルしてやろうかしら、あの転校生の泣き顔はさぞかし醜いでしょうね。しかし筋肉が支配するこの学院で、クリスティーヌは何もできず妄想にふけるだけだった。


誰もいない教室でひとり窓際に座るクリスティーヌ。校庭を眺め頬杖をつき、小指で唇をに触れる。孤独だった。馴染めなかった。それは実家でも同じ。貴族として振舞えば人を傷つけ、令嬢として振舞えば甘く見られ、耐えきれなくなって逃げてきた聖エスカルゴ学院でも一人ぼっちのままだった。


気を引きたくて取った行動が悪役令嬢と呼ばれる起因となった。実はそう呼んだ同級生たちは冗談のつもりだったのだが、世間知らずで融通の利かないクリスティーヌは真面目に受け取ってしまい、繊細な彼女の心は傷ついてしまったのだ。


────死んじゃえばいいのに


それは悪役令嬢と呼んだ同級生に向けた言葉なのか、校庭を眺め涙を流す自分に向けたのか、クリスティーヌ自身にもわからなかった。



सूर्य देव का जन्म तो सृष्टि के प्रारम्भ हुआ है और आपका जन्म तो अब हुआ है



レイコ・クリスティーヌの腕輪に文字が浮かぶ。それは懇意にしていた教会の神父から貢がれたもので、時を光で刻む不思議な魔法の腕輪だった。今は見たことのない文字を浮かべ、彼女の体を白い輝きで包み込んでいた。



「あ……ああ……あ……」



口を開き震えるクリスティーヌ、体を白い霧がまとわり背中に翼を顕現する。白いドレス、白い翼、そして長いプラチナブロンドの髪。これを天使と言わずして、誰が神を信じようか。味わったことのない多幸感が、彼女の体を貫いていた。


本来ならここで彼女は人語を失い、神に与えられた使命を果す使徒となるのだが、どうしても捨てられない思いがレイコ・クリスティーには残っていた。


────転校生ヲ、殺ス



◇◇◇



学長室に血相を変えた教職員が入ってきた・


校庭に現れた白い天使の話を聞いて、アーカシ姫さまは魔人だと確信する。校庭を見れば白く輝く翼の女、そして倒れる生徒と教師たち。難を逃れた者が倒れた彼女らを素早く救助し引き下がる。この手際の良さは日々鍛錬の賜物だろう。


魔人と化した女は校庭の中央で一人立つ。まるで何かを待っているようだ。自分の出番かといきり立つアーカシ姫さまが目にしたのは、オリビアも見たことのない紺色の民族衣装を着た少女が一人、校庭に向かう姿だった。姫さまは絶叫した。



「セーラー服やて! そんなアホな! ありえへん! 」



アーカシ姫さまは激しく動揺していた。わなわなと震えている。姫さまのこんな姿を見るのはオリビアも初めてだった。しかしアーカシ姫さまは、セーラー服の少女が発する言葉に、更なる驚愕を味わう事となる。



「おいクリスティーヌ! 派手な衣装でゴキゲンやな!」



関西弁、だと?







【時を光で刻む不思議な魔法の腕輪】

──注釈

心拍数・消費カロリーも図れる上に万歩計としても使える

iPhoneの通知確認や送受信など便利な機能が多数ある


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― 新着の感想 ―
[良い点] 幻の名作(読みかけで神に召されてしまった)、聖エスカルゴ学院の登場に胸が熱い!
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