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第十八話  死神の背を悪魔が追う

聖騎士サイファはミソノ・ユニバの無法地帯を歩いていた。ここの治安に貢献する気はほとほと無いが、サイファが執拗に過去の返礼を行った結果、随分と風通しが良くなったようだ。先日返礼した宿屋の金銭を与え、そこに住み着いているであろう子どもたちが露店を開いている。香ばしい焼きトウモロコシの匂いが辺りに漂っていた。



「あ! 騎士のおじちゃんだ!」



露店から子どもたちが駆け寄ってきた。おじちゃん? 少し気になるが、ともかく子どもたちが店を放ってサイファを取り囲み、彼に商品の焼きトウモロコシを突き立てる。それは槍兵に囲まれた魔王にも見えた。



「おじちゃん! あのときはありがとう!」

「おじちゃん! あのお金でお店を始めたの!」

「おじちゃん! おいしいから食べて!」

「おじちゃん! 今度いっしょに遊ぼう!」



聖騎士サイファの顔は兜で見えないが、おそらく天使と魔王の形相だろう。" おじちゃん " はせめて三十路を超えてからにしてくれ、そう言いたい気持ちを堪えるサイファは、焼きトウモロコシを手にその場を去った。人目のつかぬ裏路地でそれを口にする。一身上の都合により味はしないが、美味いはずだと疑わない。


少し歩き、ずっと後を付けてくる男に向き合った。信濃守千代丸。彼は邪魔にならない程度の距離を空け、身を隠すわけでもなくサイファの後ろを歩いていた。



「……如何な要件かうかがって良いか」


「ぼ、ボクを側に置いてください!」



実は千代丸がサイファの後を付けることに明確な理由はなかった。ただ勝手に足が向き、目が離せないだけだ。そしてサイファの足跡に見える彼の優しさや人柄に、千代丸は益々彼のことしか考えられなくなっていた。



「戯言を、失せろ」



聖騎士サイファは冷たく言い放つ。甲冑を脱いだ千代丸は、少年と呼ぶには逞しく、青年と呼ぶには幼かった。恐らく俺に稽古をつけて欲しいのだろう、確かに筋は悪くない、鍛えれば、伸びる。


それだけに突き放したかった。まず俺に関わって欲しくない。悍ましい俺の正体を知られたくない。そして " 我々 " に関わって欲しくない。真っ当に生きて幸せに暮らせばいい。知らない方が良いことなど、それこそ知らない方がいい。



「お願いします! 貴方みたいなひとになりたいんです」


「強さと教える上手さは別だ、良き師を探せ」


「嫌です! 何でもしますから! 側に置いてください!」



刹那。それは一瞬を表す刻の最小単位。聖騎士サイファが抜いた魔剣フラグが、信濃守千代丸の喉に触れていた。千代丸は風を切る音を聞いただけで、避けるどころか見ることも出来なかった。



「俺は失せろと申した、貴公、聞こえなんだか」



千代丸の首筋を鮮血が垂れる。薄皮一枚切っただけだが恐れてくれればそれでいい。聖騎士サイファの食欲が湧く。騎士を忘れケダモノとしての本性が情欲を沸き立てる。俺が俺を押さえられるうちに、早く失せろ!


信濃守千代丸は迷わなかった。首の血を拭うことなく前に出た。ずっと貴方を見ていた、だからわかる、貴方はボクを切れない。貴方はそういうひとなんだ。それに死んでもそれはそれでいい、貴方は永遠にボクを忘れられなくなる。


千代丸は狂っていた。聖騎士サイファが狂わせた。一途な少年剣士を知らず禁忌に誘い込んでいたのだ。さらに若輩とはいえ彼も騎士、腕は未熟でも読み合いは鋭かった。サイファは剣を引く。



「勝手にしろ、目障りに思えば、其処で切る」


「ありがとうございます!」



聖騎士サイファの後を信濃守千代丸は追う、その有様は先程と変わらないが、その距離は少し近くなっていた



◇◇◇



「姫姫姫さまま、こここここは道がが悪いででですねね」

 (姫さま、ここは道が悪いですね)


「せやろろろろ、昔かかかからやねねねねねん」

 (せやろ、昔からやねん)



狂気山脈の周辺は、道と呼ぶには難のある、なんとか通行可能なだけの崖 (がけ) が多い。モフモフは少々のデコボコ道なら振動を和らげてくれるが、ここは限界を超えているらしく、二人の会話も非常に聞き取りにくいものになっていた。


ある程度進むと若干マシな場所に出て、そこで一気に距離を稼ぐ。この地の生物は危険、いや生物ですらない。生物を創ろうとした誰かが失敗作を破棄する場所なのだ。



「姫さま! 前に何かいます!」


「やっぱタダでは通してくれんか!」



モフモフが走る前方に人影、いや、距離感がおかしい。近づいて初めてわかるその異形、足は二本あるが腕が無い、人という漢字をそのまま3mの大きさにしたその赤い物体は、上体を傾け足を交差させて近づいてきた。



「あ、あれは何ですか!」


「知らん! 足の少ない大タコや!」



アーカシ姫さまがタコと評したように、それは突き出した口を持ち、魚類を思わせる感情の読めない目が付いていた。足、胴、口、目。それがこの物体の全てである。


【Уншигчдад аз жаргал ирдэг】


モフモフの指導詠唱機が作動、アクセル全開、前方に多重魔導防壁展開、FCRによる魔素混合燃焼器臨界、正面から突っ込む、体当たりじゃない、強硬突破、 モフモフ最大の破壊力にして単純極まるこの技は、記憶回路にこう記されている。


【 VENOM STRIKE 】(雀蜂乃一撃)


あっさり一撃で粉砕される二本足のタコ。微塵に砕け散った残骸は狂気山脈に茂る草木の肥料となるのだろうか。食物連鎖の行きつく先を想像するオリビアの前に現れたのは、数百体はいる二本足のタコだった。みなこちらに向かっている。


アーカシ姫さまはモフモフを止めた。



「あちゃー、今日はコイツらの同窓会やったんかな」







【 VENOM STRIKE 】

──注釈

ANTHEM7枚目のアルバム

「DOMESTIC BOOTY」の一曲目「VENOM STRIKE」

この神曲について、もはや語る言葉が無い

熱い。ただただ、熱い

日本語HMの頂点


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