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第十五話  装甲のゴシック・アンド・ロリータ

オリビアは病室でアーカシ姫さまの着替えを手伝っていた。新調してさっそく酷い状態になった姫さまのドレスを、魔導士たちのアドバイスも受けながら作り直したのだ。オリビアのドレスに仕込んだ装甲のアイデアは魔導士たちにも評判がよく、彼らは惜しげもなく色々とギミックを追加してくれた。


オリビアはドレスのコルセットを後ろから締めている。これは耐爆性を備えた堅固なボディアーマーであり、腹部への圧迫感を感じさせない仕様となっている。そもそも引き締まったアーカシ姫さまの腰をさらに細く見せる必要はない。



「なんや今日は真面目に着替え手伝ってくれるんやな」



いつも邪な心でふざけているオリビアだが、今日の着付けは真剣だった。アーカシ姫さまの命を守る最後の防御壁、そんな装甲ドレスを甘い気持ちで着つけるわけにはいかない。今回だって姫さまは危なかったんだ。もう、あんな目に合わせたくない。



聖騎士サイファ・フェルナンデス



廃嫡家の長男にして人外の魔物、アーカシ姫さまを瀕死に追い込んだ憎きケダモノ。奴は必ず姫さまの前に再び現れる。魔剣フラグの爆発に耐える為にもドレス装着に妥協は許されない。オリビアは新調したブーツを姫さまに履かせる。



「このブーツ、見た目もええし履き心地も悪ないな」



アーカシ姫さまはそう仰るが、脛まで覆う黒いロングブーツは過剰な装甲部品も相まって武骨、姫さまの白く美しい足とのアンバランスな組み合わせは、優雅な貴族令嬢が獰猛な黒犬を散歩させている様にも見えた。実際そうなんだが。貴族どころか王族だし。



「襟元の飾りもかわいくてええな、ウチこれお気に入りや」



黒いゴシック調の装甲ドレス、その襟元に白いレースのチョーカー。オリビアが最初に服を作った時は、あくまでデザインとしてのアクセントだったが、魔導士たちのアドバイスにより魔導的ギミックを仕込んでいる。煌びやかな宝石が装飾されているが、これも魔導士から供与された。



「軽いしええドレスや、ん…………」



首の前でチョーカーを整えていたオリビアは、耐えきれなくなってアーカシ姫さまにキスをする。姫さまは少し顎を上げてくれた。すぐに唇は離れ、お互い無言でドレスの着つけを続けた。少し焦げた金髪は既にカットしている。



「姫さま、整いましてございます」



侯爵令嬢であるオリビアは、臣下の者として振舞い一礼して下がる。もちろんこれも彼女なりの悪ふざけである。しかし何も間違えていない行動にアーカシ姫さまは何も言えない。急にキスしてこの態度。



「ぐぐ……」



「如何なさいまして、アーカシ・ウォンターナ姫さま」


「覚えとけよ、オリビア・フェルナンデス」



黒い神殿でモフモフの調査が終わっている。組み立ても住んでご主人のお迎えを首を長くして待っているだろう、首などないが。さあ、ふたりで迎えに行こう。オリビアもモフモフにはじっくり聞きたいことがある。



◇◇◇



廃墟の旧都、ミソノ・ユニバ。聖騎士サイファは無法地帯を抜けて街の教会へ向かう。昨日、不思議な大火事で焼け落ちた無人の教会と違い、ここは敬虔な信者に溢れ、若い神父が熱心に説教を行っている。



「430年前に神はガンダラの地に降臨され、我々に知恵の実を授けて下さいました、やがてその種は育ち、増やし、我々は飢えを癒し、備蓄し、その管理の為に社会を形成するようになったのです」



聖騎士サイファにとって教会の教義が正しいかどうかは知らないし興味もない。ただそれが迷える人々の受け皿であり、彼らにとって最適解の神話を掲げていることは理解している。信仰を守る人々の為に身を尽くすのが聖騎士であり、彼はその誇りを捨てられないでいる。



「おや、もしかして貴方は白い教会の方ではありませんか」



老いた神父が声をかけてきた。鼻にかけた眼鏡を少しあげ、甲冑の紋章を見たその老神父は、サイファの所属を言い当てたのだ。聖騎士サイファ、兜を外し慇懃に一礼。



「聖騎士サイファ・フェルナンデス、以後お見知りおきを」


「おお、あのフェルナンデスの」



博識な老神父はサイファに面識はなかったが、名前は知っていた。もちろん彼の父が何をして、どうなったかも。しかし知っているが故に、それ以上は言わないし聞かなかった。



「ところで白い教会の方がなぜこの街に」


「はい、素晴らしい教会があると聞き参じました」


「これはこれは、ごゆっくりなさってください」



老神父は一礼し、礼拝堂の奥へ引き下がった。若い神父が彼を追い、老神父にさりげなく耳打ちする。



「いいのですか、アレをそのままにして」


「大丈夫だ、白い教会に管理されているらしい」


「人間として扱うのですか」


「放っておけ、害はない」



聖騎士サイファは教会のステンドグラスを見た。白い教会と教義を同じくするここも、祈りを捧げる対象は聖母メイ・ナンギ。彼女が描かれたステンドグラスが眩い光を放ち、サイファの心を乱す。


なぜ、この身を焼かないのか

なぜ、この身に制約を与えたのか

なぜ、この身に死を与えないのか

なぜ、我らの跋扈を見逃すのか


魔剣フラグは聖母がお気に召さないらしい。あの女を貫けと要求してくるようだ。ステンドグラスに穴でもあけたいのか?実在するかどうかもわからない、いにしえの存在を憎んでどうなるというのか。


聖騎士サイファは教会を後にした。実はこの街の住民だった頃からここに来ているのだが、何度見ても美しく素晴らしい教会だ、また来るとしよう。困ったことがあれば色々と博識な神父に相談しよう。



「俺が何かを知って尚、あの態度を取って下さる方だしな」







「聖騎士サイファ」

──注釈

(キリスト教文化圏内の)悪魔は一度足を踏み入れた場所に

以後招き入れられなくても自由に出入りすると伝承される

トラブルを招く隣人を安易に部屋へ招かないようにしよう


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