気になる男の子
初めて彼と会ったのはいつだったか。
……たしか第3小団の人選が決まった日だった思う。
会議室に入って来た彼は、普通の男の子って感じで気にも留めなかった。
気になり始めたのは、私が食事当番になったある日のこと。
当番はグループを作り、それぞれ1品ずつ作って最後に組み合わせて定食として出す決まりだ。
私のグループは主菜になる魚の調理をやる事になった。
私はその時、生まれて初めて見る魚を調理する事になる。
うそ、初めてじゃ無い……。
私が住んでた村は山に囲まれていて、山から流れるホントにほっそーい水流で魚を見た事がある。
だから初めてでは無い……でも、それは私の小指にも満たない大きさだった。
調理する事になった魚はどデカかったから、初めて見たと言っていいと思う。
しかもヌルヌルしてて、臭かった。
ホントもう2度と触りたくない。
調理の方は、とりあえず塩をまぶして焼いた。
その時はまだ、鱗を取ることも、捌かなきゃいけない事も知らなかった。
主菜担当の他の者が、私は調理が出来ないと知ると、罵ってきた。
女でその歳になるのに、調理の1つも出来ないのかと言われた。
私の父にも似たような事を言われたのを思い出した。
幸い皆が皆そう言って来た訳じゃなかった、私に調理の仕方を教えてくれる優しい人もいた。
その甲斐あって、2匹目からはちゃんと出来た。
でも、私が失敗してしまった1匹目が入った定食は、誰も手に取らなかった。
それはそうだろう。
明らかにおかしいもの。
他の定食の主菜は切り身なのに、1つだけ頭から尾まで、まるまる付いてるのだから。
仕方ないと思いつつも、
勿体ないから後で私が頂こうかと思っていたら。
1人の男の子が、定食が乗ったお盆を手に取って持って行った。
彼はそのまま空いてる席に座り、魚にかぶりついた。
私はそんなアホなと思っていたが、彼は本当に食べているのだ。
ボリボリゴキゴキと普通じゃない咀嚼音が、口を閉じながら食べてるのに聞こえてくる。
痛そう。
でも彼は笑顔だ、本当に美味しのかな。
彼はあっという間に食べきってしまった。
頭から尾まで、骨も、目玉も。
さすがに目玉を食べるのはちょっと気持ち悪い、どうかと思う。
でも、それを差し引いてなお、私が彼に興味を抱かずにはいられなかった。
何度か会う機会があり、その頃ようやく彼が私と同じ小団の人員だと知った、特に話をする事は無かったけれど。
機会が訪れたのは、敵国に落とされた城塞を取り戻すための道中だった。
夜、見張りをしていた私の所へ何故か彼は来たのだ。
初めに名前を聞かれて、教えてあげると、
彼は笑顔を見せながら、自分の名はイサミだと言った。
その笑顔を見たせいか、何なのか分からないが、
話そうと思ってた事を忘れてしまった。
それどころか、会話の仕方さえ覚束無い。
何度も話しかけてくれたのに、口が開かなかった。
理由は私にも分からない。
きっと私が黙ってたせいだ。
彼もどうすれば良いのかと、狼狽えてるように見えた。
その頃になると、ようやく私は落ち着きを取り戻したので、恐る恐る聞いてみた。
好きな食べ物とか、どうして兵士になったのか、などだ。
そして、どさくさに紛れて好きな人のタイプを聞いてみる。
イサミは目線を私から見て右斜め上に向けながら、うーん、とか、んー、とか。しばらく唸ってから口を開く。
私はそれを見て、あぁ、誰かを思い出しているのだと感じた。
途端、私は彼の言葉が耳に入らなくなった。
きっと聞かない方がいい。
もっと仲良くなってから、もう一度聞いてみよう。
もしかしたら、変わってるかもしれない。




