0話 転生
私、神楽坂慧茉は、高校2年生。
友達は多いし、高校生活は充実している。彼氏はいないが、容姿は優れていると自覚しているし、実際告白された回数も少なくない。勉強もスポーツもできるし、みんなからの人気も高い。
十分恵まれた環境で過ごしているという自覚はある。ただ、最近よくこう思ってしまう。
「人生が退屈だ」
と。
毎日毎日学校に行って、授業を受けて、友達と過ごして、放課後は遊んで。
こんな日常を繰り返しているだけ。もちろんそれが嫌な訳ではない。
ただ、変わらない毎日に嫌気がさしてしまう。贅沢な悩みだと思う。
そんなことを考えていると横から声をかけられた。
「ちょっと慧茉、聞いてる?」
彼女の名前は神代凪月、私の幼馴染だ。
運動神経抜群の彼女はいろんな運動部の助っ人によく呼ばれていて、学校で表彰されることも珍しくない。可憐な顔つきをしている彼女は、ボブカットの金髪を揺らしながら私にそう聞いてくる。
「ごめん。ちょっと考え事してて聞いてなかった。」
「もう、昔から慧茉はどっか抜けてるよね~。」
「ごめんごめん。で、何だっけ。」
「ああ、そうだった。○○駅の近くに新しくクレープ屋さんができたから一緒に行こうと思って。
慧茉は今日大丈夫?」
「もちろん。」
「そう来なくっちゃね。じゃあ今から行こ!!」
そんな会話をしながら交差点を渡っていると、トラックが私めがけて突っ込んできた。
「慧茉っっっ!!」
凪月が私を突き飛ばした。
「凪月っ!?」
彼女は私を助けてその場に倒れこんだ。
私は彼女を助けに行こうと思い、足を動かそうとした。
すると、
「「「キャーーーーーーー」」」
という悲鳴が聞こえた。
振り返ってみると、男がナイフを私の腹部に刺している。
力が抜け、地面に倒れ込む私。
凪月の方に目を向けると、トラックに撥ねられ、小柄な体が宙を舞っている。
私も力が入らなくなり、何もできない自分を恨みながら目を閉じる。
できることならば彼女だけでも守りたかった。
何もできない自分を罰したい。
そう考えていたとき、どこからともなく声が響き渡った
≪独自能力『守護者』『審判者』を獲得しました。≫
(こんな時によりにもよってこんな幻聴が聞こえるなんて。)
≪独自能力『預言者』の獲得に挑戦。成功しました。≫
(このまま異世界に転生しちゃったりしてね。)
≪独自能力『預言者』の権能、『予言』により、魂の生存を確認。界渡りを実行します。≫
(なんか眠くなってきた。私もここまでか。)
こうして私、神楽坂慧茉の人生は幕を閉じた。




