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ドイツっ娘魔法少女とアマアマ奴隷生活♥  作者: 黄田田
第1章:非現実な人生の終わり
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榎本武Ⅰ

【榎本武、あなたに執行者としての任務が発生しました】


ポーンという音がしてちょうど入浴中の青年、武の脳内に謎のアナウンスが鳴り響いた


「は?」


武は体を洗っている手を止め、泡だらけの目を細めて困惑する。執行者?何の話だ、というより脳内に直接語りかけられたのに驚いたという感じである


【10秒後に転送を開始します…9、8、7、6…】


「え?え?」


当然のように始まるカウントダウン、武の脳は様々な可能性を模索するが頭の回転が速い方ではないのですぐにリミットを迎えてしまう


飛ばされる直前、視界が暗くなる最後に彼が思ったのは---全裸なんだが…それだけであった


コツンと音がして足に軽い衝撃を感じ、武が恐る恐る目を開けると、そこはいつも利用している通学に利用している最寄り駅、白宮駅であった


武は全裸のまま屋外に放り出されたと思ったが、パリッとした乾いたワイシャツの感覚がそれを否定する


武は今スーツを着ていた。それもただのスーツではなくマフィア映画などでよく見るような黒く上品に濡れたような光沢のあるスーツである。いきなり最寄りの白宮駅の改札前まで飛ばされて全裸であるはずがスーツを着ている、それだけで武の脳内はパンク寸前であったが秋の冷たい外気が彼を落ち着かせた


「えーとどういう状況?」


【榎本武、執行者の任務、区間の”堕天使”の掃討を行ってください。タイムリミットは20分です】


「は?」


再び聞こえたアナウンス、その直後戸惑う武の下に宙からごとっと物が落ちてきた。両手にすっぽりと埋まるような巨大なピストルである。サプレッサーのようなものもついておりそのせいか直径もすごいこともなっている。当然だが一般で使用されている拳銃とは全く違うものに見えた


(なんだこれ?銃?にしてはデカすぎるだろ、これで敵を撃てってか?)


そもそも敵ってなんだ、堕天使とか中二すぎるだろと様々な疑問が武の脳をよぎるが、とにかく駅周辺をうろついて、“敵”らしきものを探してみることにした


そうして一通りあたりを見渡して武は奇妙なことに気づく。真夜中に駅まで来ることはなかったため、雰囲気は違うのはわかるがそれにしたって人通りがなさすぎる気がする


現在の時刻は夜の12時。泥酔したサラリーマンや夜風をしのぐ浮浪者なんか何人かいてもおかしくないはずなのだが人影は全く見えない


いつも使う階段、いつも通る改札、見知った光景のはずなのになぜか初めてここに来たような錯覚を受ける。まるでここ周辺がまるごと異界に隔離されてしまったように感じた


(GA〇TZじゃねぇんだからさ)


仮に堕天使、とやらが星人のように簡単に人を殺せる危険性を持ってたとしておれは戦えるだろうか


(ないな)


武はもしヤバそうならすぐ逃げようと思った。まぁ…逃げられるならの話だが


(もしかしてこいつか…?)


武は駅の北口にある銀行にたどり着いた。ATM数台が取り付けてあるだけの小さなものだ。繁華街の近くということで利用者も多く、武にとっては見知った風景の一つだったのだがそこに溶け込むにはあまりにも異様な黒い物体が一つ


(なんだこいつ?熊か?あまりにも気配がなくてわからなかった)


吐息はする。生物なのは確かだ、これが『堕天使』とやらなのか?


「カチ」


武はとりあえず目の前の物体に向けて件のピストルで撃ってみたが、弾丸は出ず、間抜けな音が響いただけだった


(は?)


なんだこの役に立たない武器はと思った矢先、一斉にこちらを見る目!


「キシャァァァァ!!!」


武が見ていた姿は怪物の背面だった、振り向いた顔はメンフクロウのそれだが黒目が顔面全体に腫瘍のように埋め尽くされている


「うわァァァァ!」


必死でピストルを撃とうとする武だったがむなしくおもちゃのような軽い音が広がるだけで抵抗むなしく武は化け物フクロウの飛翔により店外へたたき出された


「ぐえっ」

「ギシャァァァァァァ!!!」


衝撃により地面にたたきつけられられ、その痛みを味わう間もなく武の眼前には猛スピードで迫ってくるフクロウ…堕天使の姿。絶望のまま役に立たないピストルをしまい込み武はただひたすらに逃げだした


(やべぇよやべぇよ!どうすりゃいいんだ、軽はずみに攻撃するんじゃなかった)


あれが堕天使だとして、あんな怪物どうやって倒すんだというどうしようもない絶望感が武の脳内に広がる


(倒せる可能性があるとするなら…!)


やはりこの特大のピストルだろう。先ほどから射撃を失敗してばかりだが使い方がわかってないだけで一応支給?されているのだから本来しっかりと武器として使えるはずなのだ。もしただ不良品をつかまされただけのだとしたら運が悪すぎる


(こういう武器とか装備品は使いこなせない奴から死んでいくんだ!はやくコツをつかまないと…やべっ!)


堕天使の爪が武の下腹部をかすめた瞬間だった。堕天使は黒き極大の翼を広げて低空飛行しながらひたすら走る武を追いかけてくる、猛禽類特有の狩りの執念。捕まるのも時間の問題だった


(とにかく撃ってみるしかない)


安全装置のようなものが機能しているままになっていないか。撃つ時の姿勢が間違っているのか、そもそも撃ち方が間違っているのか、いろいろ錯誤しながらひたすら対象に合わせて撃鉄を起こし続ける


すると、ピーーーという機械音がピストルから流れた、トリガーをおしっぱなしにしている最中である。この撃ち方が正解かそう思いサイトを除くと緑の小文字でうっすらとスキャン中、現在13%と表示されていた


(はぁ?あと87パー!?こいつに対して逃げながらずっと構えてなきゃいけないのかよ)


その通りだった。一発撃つのに相当時間がかかる、武は手を変え品を変え、身を隠しながら、時には大胆に逃げつつトリガーを押し、ピストルを堕天使に向かって向け続ける


(68パーセント、あとちょっとで…あっ!)


武は焦ってしまったのか道のちょっとした段差に躓いて転んでしまう。そんなすきを見逃す敵ではなく、凶暴な爪が武に向かって振り下ろされる


死んだ。そう覚悟した武だが生への渇望か、身体が勝手に回避しようと動き始める。そして武はその身に尋常ならざぬ体験を積むことになる


(今思えばそうだった…なんでこんな怪物から走って逃げられるのかって引きこもりのおれが)


身体能力が上がっている、走る速度もなにもかも違う。だがなによりも大きな変化は今、危機にさらされたその身に起こっていることだった


「シャァァァァァァァ!!!!!!」


堕天使は驚いたように空を見上げる。武は天に浮いていた、飛び上がったのだ。その羽で


まさに“天使”のような純白の翼。腹を裂かれそうになった武の窮地を救うべく生えた人間には当然ない機構。身体能力の上昇といいこれも“執行者”とやらの特殊能力なのか


(うぉぉ揺れる)


コントロールこそ不安定だがまるでもともと体に合ったようによくなじむ。これなら一方的な攻撃はされない


チャンスだ、ひたすらピストルを向け解析率を高める。80%、84%、88%…、あと少しと思った矢先で再び地上へ叩き落される


羽が生えてからは空中戦(ただ逃げるだけ)と相成ったのだがやはりあちらの方が飛行者としての錬度が高いのかすぐに攻撃を食らってしまう。ほとんどかすり傷程度だったが今のは効いた


頭を強く打ったのか、血がポタポタと髪をすり抜けて流れ始める。脳震盪により思考もままならぬなか堕天使による第二第三の攻撃がしかけられる


爪で肩をえぐられ、嘴による総攻撃を生身で受ける


「ギィヤァァァァァ!!!」


想像を絶する痛み、苦しみ。早く殺してくれと思ってしまうほどの拷問だった。だがなんとか体制を立て直し再び銃を構えながら空中へ


95%、97%、98%と刻一刻と迫る時計の針。これが終わったらどうなるのか、眼前のにっくき敵は倒せるのか、痛みの中で考える。だが一番思うことは


(頼む!早く終わってくれ!)


99%、100%


ビー!という音に【解析完了 アラエル】という文字。瞬間、目の前まで迫っていた怪物の五体がはじけ飛んだ。広がる肉片、アトラクションのように味わう血の雨


怪物の死体からあふれた青い炎が舞村の肉体に収まった


(終わったのか…ん、なんだこれ?)


武は安堵のままへなへなと地面に座り込んだ。すると再び天から聞こえてくるアナウンス


【対象の殲滅を確認しました。これにて任務完了です、執行者の方は天使と引継ぎをしたうち、解散してください】


(天使?引継ぎ?何をいって…)


と、疑問に思ったまま武はそのまま疲れからかその場で眠りこけてしまった


あたりの不穏な空気は晴れ、現との境界があらわになっていく。日が完全に上ったころには堕天使の死体も、戦闘の余波で受けた町の被害も、何もかも消えていた


「おいねぇちゃん、おいねぇちゃん。起きなって」

「ん…ううん?」

「ようやく起きたか、こんなとこで寝てたら風邪ひくぞねぇちゃん」


武が目を覚ますと浮浪者らしき爺さんが声をかけてきていた。まさかと思って服装を見るが全裸でもスーツでもなく家にある私服を着ていた。謎の配慮


「あ、ここは…」

「何って、白宮駅だがな。まったくこんなとこで若者が寝るんじゃないよ」

「すいません、ここらへんにでっかい動物の死体ってありました?」

「?何をいってるんだい君は」

「ぁあそういうことですか。すいません迷惑かけました、もう帰ります」

「帰る場所はあるのか、それより君、すごいかわいいね。なんならダンボールでも貸そうか」


最初こそあきれるような口調で会話していた爺さんだが武の顔をよく見たとたん、欲情しきったような赤ら顔を向けてきた


「いや大丈夫です。もう帰ります、あと…」

「?」

「おれ男です」





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