食事
三題噺もどき―ひゃくきゅうじゅうはち。
※色々注意※
お題:ジンジャエール・フォーク・心臓
真っ暗な部屋の中に。
1つの明かりが灯っている。
天井の上から落ちてくるその灯りは、その下にあるテーブルを、ぼんやりと写し出す。
「……」
一台の大きなテーブル。
その周りには、四つの椅子が置かれている。
―ここは四人家族の家。父、母、その子二人。それぞれの椅子にご丁寧に、それぞれの上着が掛けられている。
「……」
そこに、今は1人が座っている。
父または母にしては、少々若く見える。子2人のうちの1人だろうか。
家の中だというのに、フードを被っている。そのせいで、顔がよく見えない上、男か女かもよくわからない。
―あぁ、いやきっと。女なのだろう。
そのフードの端から覗く、薄い唇は、きっと女のそれだろう。
「……」
よくよく見れば、まだらに汚れた白いパーカーは、胸のあたりが膨らんでいる。
その袖から、覗く手のひらも、細く、白い。爪先は整えているのか、うっすらと赤く染まっている。
「……」
確かこの家は、父と母。
―男2人の兄弟だったと思われるが。
「……」
その女は、静かなその家で、食事をしていた。
白の丸い皿がいくつか並べられたテーブル。
どこから取り出したのか、銀の美しいスプーンとフォーク、ナイフを使って、優雅に。
「……」
深めの皿に、スプーンを沈ませ、その液体をこくりと飲む。
「……」
フォークで留め、ナイフをすらりと走らせて。留めていたそれを、小さな口に運ぶ。
「……」
喉が渇いたのか、すぐそばに置かれたグラスに手を伸ばす。
―中身は、黄色の液体。
もう、とうに炭酸も抜け、ぬるくなったジンジャエールだ。
そこはワインでも洒落込めばいいのにという突っ込みは飲み込もう。
「……」
実をいうと、この家にワインなるものはあった。飲もうとすれば、口にすることは出来たのだが。
この女は、どうもアルコールが苦手な人間なのだ。正直言うと、炭酸すらもだめらしい。しかし、このジンジャエールの味は好きだとか何だとかで。いつも食事をするときは、こうして炭酸をわざと抜いてから、飲んでいるらしい。
「……」
ぬるい、その液体を喉に流して。
今一度、食事を始める。
「……」
ス――と、美しい線を描く様に、肉を切り。
小さくなったそれを口に運ぶ。
小さな動きでそれを口の中でさらに細かく砕き。
遊び。
満足したところで、こくりと飲み下す。
小さな喉が、上下に揺れる。
「……」
スープを持ち上げ、どろりとしたそれを、一滴も溢さぬようにと口に運ぶ。
それもほんの少しだけ、口の中で泳がせて。
こくりと、飲み干す。
「……」
そのどれもが。
ベリーのソースでもかかっているのかという程に。
赤く。
生々しく。
どろりとしいて。
「……」
トマトスープのようなそれも。
赤く。
生々しく。
ぬろりとしている。
「……」
酷くゆったりとした食事を楽しむ女。
その周りには、4体の人形が転がっている。
そのすべてが、中身がくりぬかれ。
綿の抜けた皮のようになっている。
―その1人は、よく見れば、この家の大黒柱だった。
「……」
美しい木目の床は、赤い絨毯が敷き詰められ。
ときおり、水の跳ねる音がする。
「……」
食卓に並べられた皿には、4人分の肉の塊と。
1人分の皿がある。
「……」
女はそれらの肉を。
時間をかけ、ゆっくりと、堪能した。
その白いパーカーを、赤くまだらに染めながら。
その白く細い指を、その指先を、赤く染めながら。
「……」
最後に口にするのは。
ずっと、手を付けられずにあった皿。
「……」
そこにあるのは、1人分の心臓。
これは一等うまそうだったそうだ。
中身の血は抜いていない。
その管から、どろりと中身があふれている。
「……」
ずぶりとナイフを入れる。
どろりと中身があふれだす。
それをスプーンですくい、口に入れる。
袋もそれについで、口に入れる。
―薄い唇は、紅でも引いたように、赤く染まっている。
「……んま、」