お姉さんと好感度稼ぎ
こんな連続で投稿してもいいんですか? 本当にいいんですか?
「へぇ〜、なるほどねぇ〜」
奏が面白そうに光のほうを見ていった。
現在、光たちは光のとなりの部屋に移動して、ふたりの出会いの話をしていた。
声優と小説作家というところは伏せておき、仕事の繋がりであったということにいしておいた。
「つまり、たまたま仕事であった子がクラスメイトだったってわけね〜」
「そ。だからただのクラスメイト」
そう弁明する。
あくまで光と琉花はクラスメイトである、と。
「そんなついこの間まで話したこともないようなふたりが、雨の日に相合い傘なんてして帰ってくるかな〜?」
その問いに対して、今度は琉花が答える。
「それは、たまたま傘が傘がなくて困っていたら新田さんが傘を貸してくれようとしてくれただけでして」
「そう、そこなのよ」
そういって奏は光のほうを見る。
「警戒心の強い光くんが、少し話したぐらいで傘を貸そうとするかな?」
「それは! その〜……」
うまい言い訳が出てこない。
ふたりの関係が、まさか声優と原作者だなんて言えるはずもない。
だが、光の警戒心が普通の人より強いのも確かだ。
(あいかわらず、鋭いところをついてくるな)
この人は、光がここに住みたいと言ったときもそうだった。
どうやってお金を稼いでいるのか、子供の一人暮らしのためにこんな高い物件を買うのか、そんな感じの質問をしてきた。
『君、なにをしてお金稼いでいるの〜?」
そう尋ねられたことがもう懐かしい。
負さんはほんわかお姉さんという感じなのに、変なところで鋭いのだ。
(どうやってごまかそうか)
奏は半分ぐらい光と琉花は恋人同士の関係だと思っている。
だが、実際の関係はいわば、ビジネス的な繋がりだ。
そう、ビジネスだけ。
至近距離でのいい匂いだったり、サラサラで長い黒髪がたまに風でこちらに当たったりしても別になんとも思わなかった。
断じてなんとも思わなかった。
そんなことはさておき。
本当にどうやってごまかすか。
先程から何度も言っている通り、奏は勘がいい。
(おれらの関係的に自然で、なおかつ今の奏さんの感情にもマッチするもの)
そうなると、自然と選択肢は絞られてきて……。
(やっぱりこれしかないか……)
光はふたりには見えないようにため息を付いた。
そして、なるべく言いづらそうな雰囲気を出して言った。
「彼女、学年一の美少女なんですよ。やっぱり男としてはその〜……、お近づきになりたいじゃないですか」
「!!?」
琉花がとてつもない速度でこちらを見てきた気がするが、この際そんなものはどうでもいい。
どっからどう見てもこうするのが一番自然だ。
あまりのに大きな嘘に若干口調が怪しくなった気がするがそんなことは関係ない。
奏の青春脳、琉花の激高顔面偏差値、陽衣の警戒心、どれをとってもこれが一番自然だった。
果たして、その効果は、
当の本人である奏はと言うと、
「あらまぁ、やっぱりそうなのね〜」
とてもいい笑顔をして大きく頷いてきた。
少し心が痛い。
それでもそんな心情はかけらも表に出さずに、
「えぇ、そうなんですよ。これでおれもクラスの羨望の的ですよ」
「ふふっ。光くんも男の子なのね〜」
「ええ、そうなんですよ〜」
なかば投げやりに返す。
もう光は琉花の方を見れない。
かなり気まずい。
(勘弁してくれよ〜)
心のなかで叫びながら、雨が弱まるのを待つ光だった。
それからしばらく立って、
「ん? 奏さん、雨、いつの間にか雨止んでるぞ」
「あら、本当だわ」
いつの間にか雨は止んでいた。
「それでは私はもうそろそろ帰らないと親に心配されてしまいますので」
「うん。また話、聞かせてね。光くん、こっちは片付けておくからお見送りしてきなよ」
「いや、何でおれが」
「好感度稼ぎ、するんでしょ?」
それを言い出されたら光はなにも言い返せない。
光は渋々アパートの入口まで琉花を見送ることにした。
ふたりで入口まで行くと、琉花は振り向いて聞いてきた。
「好感度稼ぎ、でしたっけ?」
「おいおい、お前まで言うなよ」
「ふふっ。冗談ですよ」
笑いながら言ってくる。
かなりたちが悪い。
「勘弁してくれよ〜」
「すみません。いつもと違って慌てている新田さんが新鮮で」
そう言いながらなおも笑っている。
その笑い顔に不覚にもドキリとしてしまう。
そんな光の心境を知ってか知らずか琉花は光に学校のときよりきれいな笑顔で話しかけてくる。
「そういえば、小説でもこういうシーンありましたよね?」
「よく覚えてるな」
たしかにそんなシーンもあった。
あのシーンは、あの子だったらこんな風なのだろうな、という希望的観測で書いたものだ。
そこだけではない。
光のあの小説の全てはそんなものだ。
(結局、まだ過去に縛られているんだな)
一瞬だけ琉花が目の前にいることも忘れて思いにふけてしまった。
そんなことを考えている光に、いつの間にか琉花が近づいてきた。
そのことに気づいて光が顔を上げると―――。
『またね』
そう言った。
いつの間にか髪を結んでいたシュシュは外れている。
長い黒髪が雨上がり特有の風になびく。
その姿はまるで……。
「今日の傘のお礼です。また明日」
「お、おぅ」
遠ざかる姿を見つめる。
また重なった。
雨宿りが終わりました。これで一段落。