出会いと重なり
「はじめまして。皆川琉花です」
その言葉に反応できなかった。
目の前にいるのはクラス、いや学校一の美少女である皆川琉花だった。
しばらく無言の間。
とりあえず、自己紹介しなくては。
「どうも、はじめまして。原作小説を書いています。日田光です」
よし、何事もなかったかのように……。
「あの〜、私のほうからはじめましてと言った手前言いづらいのですが、もしかして、同じクラスの新田くんですか?」
バレてやがる。
とりあえずここはと、
「え? 誰のことですか?」
しらを切る。
クラスの美少女と面識を持って、面倒事に巻き込まれるのはゴメンだ。
しかし、
「クラスの窓側から二番目、一番うしろの席に座っている新田光さんのことを言っています」
よくごぞんじで。
(周りをしっかり見ていすぎだろ。これで同級生か)
どうやら長引かせると不利なのはこちらのようだ。
情報戦で勝てる見込みがない。
「わかった。お前の言うとおりだ。原作小説作者の日田光あらため新田光だ」
しょうがない。
こればっかりはお手上げだ。
「よくおれの名前知っていたな」
「授業中にずっとタブレットを触っている生徒なんて嫌でも目立ちます」
「たしかに」
もしかしたら、おれは意外と有名人なのかもしれない。
悪い方意味での。
「同じクラスでも話すのは初めてじゃないですか?」
「おれが基本的に他人と関わりを持たないからな」
悲しい現実を突き立てるな。
悲しくなんて思ってないけど。
「というか、ちょっと待ってください。同じクラスに話題の小説家がいたとか驚きです」
「話題ってほどでもないけどな」
アニメ化したぐらいじゃ原作者の名前は覚えてもらえない」
「こっちも皆川が声優やっているとか驚きだよ」
「学校はなるべく休まないようにしていますからね。まあ、この前はしょうがなく休みましたけれども」
この前休んだときは、オーディションの日だったらしい。
そこらへんは大人たちに任せていたので知らなかった。
なるほど。
声優をやってりゃ、そりゃ声に惚れる人も出てくるだろう。
声が商売道具なんだから。
「それにしても」
おれのほうを観察するように見てくる。
キュン、目と目があっちゃった。
おい、ひくな。
ジョークに決まっているだろう。
光の悪ふざけに琉花はため息。
「本当に新田さんがこのお話を作ったんですか?」
「失礼な言い方だな」
だが、疑うのも無理はない。
同じクラスに声優と小説作家がいるとかどんな確率なのだろうか。
光だってまだ、半信半疑のようなものだ。
「なんなら、作りおきのストックがまだ溜まっているからいま目の前で投稿しようか?」
「え!? いいんですか!?」
光の言葉に琉花は目を輝かせた。
そのまま身を乗り出す。
もしかして、
「お前、小説好きなのか?」
「はい。家で良く読んでいます」
そう言う琉花の表情はキラキラ輝いていた。
(笑顔が破壊兵器とかどんだけだよ)
この少女の笑顔はまあまあ危険らしい。
いまの笑顔はクラスでしているようなきれいな笑顔ではなく、大輪が咲くような笑顔だった。
少なくとも、クラスの男子が見せられたら、二、三人は言葉も発せなくなるだろう。
光は仕事モードでなんとか切り抜けた。
「ほら」
「へぇ〜。こうやって投稿しているんですね」
「慣れれば簡単だぞ」
琉花に説明をしながら、小説投稿サイトに新しいストーリーを投稿する。
「これで完了だ」
「おぉ〜。本当に作者さんなんですね」
琉花が感心したような声を出す。
どうやら信じてもらえたようだ。
「おれとかネットに小説を投稿する人は、やる気がないと続かないからな。おれとかはやる気のあるときにストックしておくんだよ」
「なるほど。勉強になりました」
いいものを見れましたと微笑む琉花。
光の心臓に悪い。
それからはしばらくはお互いに、物語の好きなところや特に重要なところなど色々なことを話した。
そんなことをしているうちに、解散の時間になった。
「もうそろそろ解散だな」
「そうですね」
今日一日で、かなり打ち解けただろう。
孤高の天才美少女は意外とフレンドリーだった。
「今日はわざわざ悪かったな。これからヒロイン役、よろしく頼む」
「はい。こちらこそ、よろしくおねがいします」
「がんばるのはアニメスタッフの方々だけどな」
笑ってタブレットを閉じる。
すると、琉花はしばらく考える素振りを見せる。
「どうしたんだ?」
「いえ、私だけ新田さんの仕事を見せてもらっちゃって不公平な気がして」
「いいよ別に。お前が疑ってたことも納得できてるし」
「いえ、そういうわけにも行きません」
そう言うと、琉花はポニーテールに結んでいた髪をほどいた。
きれいな黒髪が揺れる。
「何をするつもりだ?」
「私の演技も見てもらおうと思いまして」
そう言うと、まっすぐ光を見つめる。
その瞬間。
世界が塗り替えられていく。
「ねえねえ、きみ」
眼前に広がるのは、あの子と初めてあったときの情景。
遊具がたくさんある公園の中で、ぼくはひとりベンチに座っている。
そんなときだった。
「ひとりで何しているの?」
目の前に少女が現れた。
でもおかしい。
きみとぼくが会ったときはまだ五歳だったはずだ。
「もしひとりならこっちに来てさ〜」
目の前の少女は、高校の制服を着ている。
いや、そんなはずはない。
だって、きみは、
「いっしょに遊ぼ」
きみとお前が重なる。
一応、書きたかったところまでは書けました。もちろん、まだまだ続きますよ。