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監督と理由

遅くなってごめんなさい。これからは同時進行できるようにがんばります!!

「時間か」


 今週の学校も疲れた。

 いつもだったら本を読んでぐうたらしている。

 しかし、今日はそうも行かない。


「ちょっと外出てくる」


 一人暮らしの部屋に響く声。

 隅のほうにはひとつの机。

 お盆のときに作るような簡単な仏壇のようなもの。

 写真に写っている少女の笑顔が陰キャには眩しい。


「行ってくるよ」


 今日はアニメヒロインの声優との対面だ。

 光が高校生ということもあり、声優のオーディションはアニメ監督に勝手にやってもらった。

 だが、ヒロインだけは作り始める前に対面させてほしいとお願いした。

 今日の用事が終わったら、もうスタジオに行く気はない。


「だるいな。さっさと終わらせよう」


 自分がお願いしたのにこの始末。

 これぞ光スタイル。


 だが、これだけは譲れない。

 ヒロインだけはどうしても。


 カードをピッ。


 電車の中でゆらゆら。

 土曜日の中途半端な時間帯だったということもあり、人は少なかった。

 それでもスーツを着ている人がいる。


(ブラック企業からの脱出、今度のネタにしてみるか)


 光は基本的に短編小説しか出さない。

 長編なのは、それこそいま光が遠出している原因くらいだ。


 しばらくはそんなふうにネタを考えたり、本を読んだりしていたが。


(やばい)


 電車の揺れが心地よい。

 特に昨日、徹夜で本を読んだ少年には。


(アイアムネムシング)


 ようするに眠くなってきた。

 光が読書欲で抑えられないなんてよっぽどだ。


(おやす……)


 きっと、次に出る単語はやばいなのだろう。







「やばい」


 案の定。

 一応、担当の人に謝っておいた。

 それでも今回は光の用事なのだ。

 呼び出しておいて遅刻とかクズ人間にもほどがある。


「こういうときは」


 とりあえず新しい話を出す。

 必死の『仕事の疲労です』アピール。

 どうか届いてくれ。


 一時間前につこうと考えていたのでまだ大丈夫ではあるのだが。

 この調子だとかなりぎりぎりになりそうだ。


「間に合ってくれ」


 とりあえず信じてない神様に祈ってみる。

 パソコンを閉じたと思ったら急に目を閉じて祈り始める。

 はたから見たら変人の所業だ。


 電車の扉が開くなり真っ先に出る。

 ホーム内は早歩き。


 駅を出てからは猛ダッシュだ。


「国の首都ってでかいな」


 こんなに大きくなければすぐに目的地につくのに。

 信号が多い。駅間も近い。たまに下水臭い。


 というわけで超ぎりぎりだった。


「間に合った、のか?」


 ぎりぎり間に合った。

 神様に祈っておいてよかった。


 とりあえず中に入ってフロントの人に聞いてみる。

 すぐにアニメ監督が来た。


「お久しぶりです。(こう)先生」

「いえ、こちらこそ遅くなってすみません」


 人柄の良さそうな男性。


「お久しぶりです。鍵谷(かぎたに)さん」


 この人が光のアニメの監督だ。

 ちなみに『こう』は光のペンネームだ。


「すみません。無理言って対面させてもらえるようにしてもらったのに、こんなぎりぎりで」

「いえいえ。先生こそさっき新しいやつ出してたじゃないですか」


 効き目があった。

 じゃっかんの罪悪感。


 そのまましばらく監督と話をしていた。

 なんと、声優さんは一時間後に呼んでいたらしい。

 マジで良い人。


「先生はなんでアニメ化に賛成したんですか?」

「なんで、と言いますと?」


 対談中の最後、こんな質問をされた。


「これは私の個人的な感想なんですけどね。この話は小説で完成しているような気がして。なんというか、世界観が小説のためにできていると言うか」

「なるほど」


 すごい感性だ。


「たしかにそうですね。この物語は小説でないと表現しづらいかもしれません。つまらない話で良ければ聞いてくれますか?」

「ぜひ」


 この人には少しぐらい話してもいいだろう。

 なんてったって監督だから。


「実は僕、初恋の人がいましてね。その人のことが今でも忘れられないんですよ」

「ほう」

「この物語のヒロインはその人がモデルなんです」


 この物語の本当のヒロイン。


「忘れられない……ということは」

「はい。初恋が叶う事はありませんでした」


 そう言うと、鍵谷さんは頭を下げてきた。


「無神経でした。申し訳ない」

「いえいえ。いいんですよ。もう過ぎたことですから」


 そうだ。もう乗り越えた。

 乗り越えたはず。


「それでなんですけどね。恥ずかしいことに、今もその人の笑い声が忘れられないんですよ」

「なるほど。それで……」

「はい、その思い出をしっかりと思い出にするために今回のお話はいいのではないかと思いまして」


 そういうことだった。


「先生。必ず成功させましょう」

「はい。よろしくおねがいします」







 しばらくすると、ヒロイン役の声優が来たと連絡が届いた。


「では、行きましょうか」


 そう行って案内される。

 どうやら対談スペースを取ったくれたらしい。

 さっきから、この監督さんの好感度が上がりまくりだ。


(今度、差し入れ持っていこう)


 光は密かに決心した。


 そんなことを思っているうちについたらしい。


「鍵谷さんは?」

「私はこれから会議がありますので」


 ということで、一人で扉の前に立つ。


(なんか緊張するな)


 思い切って扉を開ける。


「失礼します」


 扉の先にいたのは一人の美少女。


「はじめまして。ヒロイン役の皆川琉花です」


 クラスの美少女を呼んだ覚えはないんだけど。

次はもっと早く出せるようにがんばります。

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