日常と小説作家
「はぁ〜、ねむい」
新田光はパソコンを触っていた。
いつもどおりの放課後だ。
光のみがいるこの空間。
放課後に一人、教室に残っている。
新しい高校生活にも慣れてこの教室も自分のクラスと言えるようになった。
幸いにも小学校の時からずっと仲のいいやつも同じ高校に来たので、ボッチになることもなかった。
それでクラスも一緒とか恵まれすぎている気がする。
さらに、光のクラスには学年一の美少女もいる。
前世の彼はどれだけの徳をつんだのだろうか。
光だけの人生を見ればそう思う人が出てくるかもしれない。
少し胸に痛みを感じながらも、光は指を動かす。
彼がパソコンを閉じたとき、とあるウェブサイトである本の続きが更新された。
その本は、ここ最近アニメ制作が始まった大人気小説のウェブ版だ。
光はウェブサイトに小説を投稿している作家だ。
それも数少ない書籍化のチャンスを掴み、さらにアニメ化の検討まで発展させた成功者だった。
「帰ろ」
今日も今日とて日課を終わした光は家に帰るために支度を始めた。
「おはよう、光」
「慧人か、おは」
次の日、光は友人と登校していた。
歩いて学校にも駅にも行ける距離にまあまあ高物件なアパートを借りている。
これでも売れっ子作家なのだ。
挨拶してきたのは森宮慧人。
小学校から仲の良い、光の親友だ。
一緒に投稿できる範囲に仲のいい友人がいる。
(恵まれてるなぁ)
そう感じてしまう。
だったらこの恵まれ体質はあいつが持つべきだった。
「はぁ」
「朝からため息か? 幸せが逃げるぞ」
「お前がいるから大丈夫だよ」
「やだ、キュン」
「キモイ」
「ひどっ、光が振ってきたのに」
ほら見ろ。
お前がキュンとか言うから腐女子がさり気なくこっち向いているじゃないか。
女子たちも女子たちだ。
等の本人たちにバレてどうする。
「ほら、お前はイケてる面なんだからそんな事言わないの」
「はいはい、どうもありがとう」
慧人はイケメンの部類だ。
男の光から見てもかっこよく見えるから間違いない。
「ほら、はやく教室行くぞ」
「ちょっ、光、おいてくなって」
そう言いながら今日も学校に向かっていた。
学校の授業中、光は大体タブレットを開いている。
人気作家の光だが、そのせいで自分が本を読む時間は限られてくる。
授業が終わって。
「新田くん、またタブレット開いてたでしょ」
「まあな」
話しかけてきたのは学級委員長の友沢千紗。
近代で珍しくちゃんとした学級委員長だ。
メガネ美少女で、面倒見も良い。
クラスの学年の中でもかなりいい女だろう。
「ホント絶滅危惧種だよな」
「ん? なんかいった?」
「いやぁ、慧人とお似合いだって」
「それはどうもありがとう」
慧人の彼女でもある。
慧人と千紗は小学校からの仲だ。
つまり、光とも小学校から面識がある。
光ともそれなりに仲がいい。
少なくとも慧人が購買に言っている間話すくらいには。
「ごめんごめん。おまたせ」
「うん、おそい」
「まあまあ、慧人も急いで行ってきたみたいだし」
お昼ごはんは大体三人で食べる。
「二人だけで食べても良いんだぞ」
「それ毎日言ってんじゃん」
「毎日思っているからな」
もう一度言っておくが、二人は恋人関係だ。
そうでありながら二人は毎日、光と三人で食事をとってくれる。
(恵まれてるなぁ)
また、そう実感した。
一段落したタイミングで、光は教室の違和感に気づいた。
そういえば、今日の教室はとても静かだ。
「なんか今日、静かじゃね?」
「今更気づいたの?」
どうやら委員長は要因がわかるらしい。
「今日は皆川さんがいないから」
「あぁ、なるほど」
「ほんとに気づいてなかったの?」
「まったく」
委員長ってスッゲ〜と思ったらおれも気づいたと慧人がアピールしてきた。
よしよしよしよし、イイコイイコ。
「皆川か〜」
「うん? ついに光にも春が」
「春は嫌いだ」
皆川琉花。
学校でトップの人気を誇る美少女。
成績優秀、品行方正、運動能力も高い属性もりもりの完璧少女。
特に声はとてつもなくきれいで声をかけられただけで緊張する人がリアルに出るという。
そんな彼女はクラス内でも人気が高く、何かと理由をこじつけて話をしようとする者が男女問わずいる……らしい。
というのも、光はがっこうでは本と少数の知り合いとしか関わってこなかったため噂を耳に挟む程度にしか彼女のことを知らないのだ。
「ところでさ〜、光は毎日菓子パンだけで平気なの?」
「あぁ、もう慣れたからな」
まぁ、今は昼食を楽しもう。
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