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第9話 カンファにメイド服は着ていきませんよ

 今更な話ではあるが、東雲グループというものについて少し話をしておく。東雲グループ(株)は傘下にあらゆる業種の子会社を持つ大企業であり、そのため手掛けている事業は飲食店、アミューズメント施設、IT関係、ゲーム、アパレルブランド、百貨店と多岐に渡る。

 業種が違うので細かな方針は各会社の社長に一任しているわけだが、そんな社長達が一同に介する会議が年に数回行われる。


「社長、おはようございます」


「おはようございます。あと僕は代理ですけどね」


 そして、僕はその会議に東雲グループの社長として出席している。今日の議題は損益報告の他、僕も開発に携わっている東雲グループの今後の進退に影響する重大イベントの告知がある。


「早乙女社長、よろしくお願いします」


「では、皆さんお手元にレジュメは行き渡ってますでしょうか」


 題目に『SHINO COINの運用について』と書かれた15ページ程度の資料だ。COINという名前の通りこれは通貨である。


「まず『SHINO COIN』というのはブロックチェーン技術を用いた仮想通貨で、顧客には専用の財布(ウォレット)を使って管理してもらうものになります」


 東雲グループ系列店であればどこでも使用可能な通貨、それがSHINO COINだ。


「既存のポイントではダメなのでしょうか?」


「ポイント制度では出来ないことをするために開発したのがこの通貨です。今後のブロックチェーンゲームの開発やNFTの売買にこのSHINOを使っていきたいと思っています」


 今後東雲グループはGameFiやplay to earnと呼ばれるいわゆる遊びながら稼げるゲームの開発や、デジタル資産の売買に着手していくつもりだ。インターネットで販売するとなると、円やドルよりもなんらかの共通通貨があるほうが便利なのである。


「通貨の取得方法は記載してある通りです」


 手順としてはウォレットをダウンロードして既存のポイントを通貨に変換する方法や、仮想通貨で購入する方法、東雲グループ関連アプリでの取得がある。また、これらで獲得したSHINO COINは預入(ステーキング)することで年利10%で増やす事も可能である。


「また、NFT売買やゲーム内課金を含めユーザーが東雲グループ系列店でのサービスの購入にSHINOを利用した場合、その一部を焼却します。そうすることで通貨の全体供給量が減り価値が上昇します」


「既存の仮想通貨のように使える、という認識で間違いないでしょうか」


「その通りです。そして、SHINOは送金に特化しているため個人間の受け渡しもスムーズに行えるのが特徴です。最終的には、治安が悪く現金を持ち歩くことがリスクになるような発展途上国などでもSHINOを利用していって貰いたいと思っています」


 僕は東雲グループを世界一の企業にするつもりだ。なら何をもって世界一とするか、時価総額というのが1番分かりやすいが、それよりも世界一信用されている企業にしたいと思った。

 なので、上記したようにSHINOが世界で認められ、当たり前のように世界的に使われるようになればそれはもう世界一信用されている企業だと言えるだろう。


 もっとも、世界レベルまで発展するのはまだまだ先の話になるだろう。なので、そこに至るための実験の準備もしている。莫大な費用が掛かるため、東雲グループの資金力が無ければ不可能な構想だった。


「そこで、まずは生活圏の全てでSHINOを利用できる小規模な実験都市計画を始動します」


 都市内には義務教育や高等教育をはじめ、資格取得のための専門教育を学べる大学が設置されているほか、高度医療を提供する専門病院、大型のショッピングモールなど人の生活に必要な施設が全て東雲グループ系列で揃えられた街だ。また、ベーシックインカムとして街に居住している家族には居住している人数分のSHINOが配布される。さらに労働者は給与をSHINOで受け取ることが可能だ。


 実験都市とSHINOを世界にアピールし、そして日本が、いや、東雲グループが最先端だと世界にアピールする。実験都市で暮らすのはステータスだと認めさせる。


「少なくともわたしには一生出てこない発想だ……」

「社長のお話を聞いていると老いを感じさせられますな……」

「しかし、こんなことをする必要はあるんですかねぇ……」

「うーむ」


 子会社を纏めている社長が頭を抱えて唸っている。もちろん100%の理解を得られるとは思っていない。東雲グループはすでに日本一の地位を確立している。変にリスクがあることをしてその地位や信頼を失っては何をしているのか分からない。

 けど、それでは世界一にはなれない。もっと言えば、日本一の立場で甘んじていては、世界の企業に置いていかれるからだ。


「僕は、東雲グループを世界一の企業にしたい。たしかに東雲グループは日本一の企業かもしれない。危ない橋を渡らないで堅実なやり方を選んでもその地位を守っていくことはできるでしょう。しかし10年後20年後は? 仮に日本一のままだったとして世界は? 想像出来ていると思いますが、きっと30番は順位を落としていることでしょう。皆さんはそれで良いんですか?」


 ここにいる面々は世間的に社長と呼ばれる人と比べると年齢層が若い。10年後、20年後はまだ現役だろう。自分の代で東雲グループが落ち目になっただなんて、そんなことはあってはならないという矜持がある。


「東雲グループにとって停滞することは衰退しているということに他なりません。これは東雲グループが世界一の大企業に飛躍するための第一歩です」


 どうやら受け入れてもらえたらしい。日本人がスタンディングオベーションするくらいには熱が入っちゃったな。


 会議が終わって僕もようやく一息つける。もっと難色を示されると思ったが、予想よりも好感触でホッとした。緊張しちゃう時点で僕もまだまだだなぁ。

 子会社の社長たちが席を立って出て行くなか、僕は大仕事が終わったと安心してのんびりと座っていた。


「ひゃうん! 何するんですかユリカさん!」


「冷たいお飲み物です。社長、このあと部署には寄られますか?」


 気を抜いて安心していたところに背後から冷たい飲み物の奇襲を受けた。ちなみにユリカさんには僕の秘書としてついて貰っている。秘書検定には上司に冷たいお茶で奇襲しましょうなんて項目があるのかな?


 で、部署に来るかだっけ? そういえば4月は僕もバタバタしてたし、新入社員とはまだ顔合わせをしてなかったなぁ。


「連休なのに仕事してるんですね……」


「世間では4月の晦日、5月の1日と2日は祝日ではありませんよ?」


 いや、休ませてあげようよ……。もしかしてだけどユリカさんって毎日働いてる(労働基準法違反)から休みって感覚分かんないのか……?


「とりあえずユリカさんはもっと休暇をとってください」


「はぁ……充分休みは頂いておりますが」


 あなたが休んでいるところなんて見たことないんですが……。土日どころか盆も正月もずっと屋敷にいるのに……。


「ユリカさんって実家とかにも帰らないですよね」


「両親からは嫁に行くまでは家に帰ってくるなと言われています。私には結婚願望がないので、つまり家に帰ることはないですね」


 冷めてるなぁ……。個人の自由だからとやかくは言えないけど。


「仮に結婚して子を産んだとしても、飛鳥様より可愛いと思えなさそうなので」


「何ですかそれ……」


「冗談です」


 クールな顔をしながら何を言ってるんだこの人は。あと、うちのスタッフには強制的に休ませる日を作ってあげないといけないかな……。

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