第7話 生徒会会計さんは珍しい人でした
1週間で投稿すると言ったな
あれは嘘だ(すみませんでした)
「ただいま帰りました」
生徒会の用事が終わって部屋に帰ると、ドアを開けた途端に紅茶の良い香りが僕の鼻腔をくすぐった。
おかしいな、麗華様は紅茶を淹れられないはずなんだけど……。けれどこの匂いは間違いなくティーバッグではなく茶葉を使用したものだ。
その疑問は中に入るとすぐに氷解した。
「おかえり」
「お邪魔してますわ」
麗華様は梅お嬢様と優雅にティータイムと洒落込んでいた。紅茶を淹れていたのは梅お嬢様のメイドの恵さんだった。他所様のメイドをホストが使っているのはどうなんだ。いや、元はと言えば僕がいないのが原因なんだけどさ。
「すみません。こちらがおもてなしをするべき立場なのに」
なので恵さんに謝罪する。こんなことで気を悪くするような人ではないとは知っているが、親しき仲にも礼儀ありだ。
「構いませんよ。それより……」
ん? なんか恵さんに全身くまなく見られている? 身だしなみに問題あったかな……?
「制服姿も良くお似合いですね」
僕が女装していることを知っていての感想だ。とても嗜虐的な目をしていらっしゃる。何故に僕の周りにはこんなドSな人しかいないのか。
更に巧妙かつ狡猾なのは上辺では褒めているように見えるので梅お嬢様は僕が恵さんにいじめられていることに気づいていないということだ。
「飛鳥さんもおかけになって。給仕はうちの恵にやらせておけばいいですわ」
「いえいえ! そんな!」
「飛鳥様も梅お嬢様のご学友なのですから、遠慮する必要などございません。どうぞおかけください、お嬢様」
ちょっとアクセントォ! 悪意が隠し切れてないよ!
恵さんが僕に対して慇懃なのもゾワっとする。全身鳥肌ものだ。なんか恵さんの笑顔が怖いからこのくらいで勘弁しておこう。
大人しく椅子に座ると恵さんが紅茶をサーブしてくれた。ハートが描かれたラテアートのおまけ付きだ。くっ! こんなんでドキッとしてしまう自分が情けない!
僕はあくまで冷静を装って飲んだが、恵さんがしてやったという顔をしている辺りおそらくバレているのだろう。年頃の男子の純情を弄んでも罪に問われないなんて何が法治国家だ。僕はギリギリ大丈夫だけどこれで拗らせちゃう男子は少なからずいるだろう。僕はギリギリ大丈夫だけど。
「ところで生徒会の件はなんだったの?」
「な、な、なんか生徒会のやや役員になって欲しいって」
「何を動揺してますの?」
ど、どどど動揺なんかしてないやい! まるで僕が拗らせているみたいじゃないか!
「あぁ、そういえば成績優秀者は生徒会役員になるって風習があったわね……いいわ、役員になってきなさい」
軽っ! メイドの仕事に差し支えるとか考えてたのに! いや良いなら良いんだけど。
「まぁわたくしは部外者ですので麗華さんがそれでいいなら良いのですが……メイドの仕事のこととか考えていますの?」
「別に飛鳥には学校では自由にしていいってことにしてるのよ。それに、飛鳥が認められれば所有者の私も鼻が高いわ」
所有者……? なんかその言い方だと僕に人権が無さそうだな。よく考えてみれば女装して女子校に通ってる男に人権なんてあるわけなかった。
「飛鳥のことだから光の手助けもしてあげたいって思ってるんでしょ?」
「……分かりますか」
「顔に出てるのよお人好し」
参ったなぁ……麗華様は全部を分かった上で僕の生徒会入りを認めてくれていたらしい。ほんと、素敵なご主人様だよ。だからみんなの見えないところで僕の太ももをつねるのはやめていただけませんか!?
翌日の放課後、栞さんと夏奈さんにはメールでも連絡をしたが、やはり直接お話をするのが筋だろうと思い生徒会室を再び訪れた。
「1人は緊張するなぁ……」
ちなみに光さんは昨日の時点で既に入会が決定していた。彼女にとっても旨味のある話だし当然の成り行きだろう。
生徒会室の扉をノックしたが返事が無い。ただ、会長さんからは今朝の時点で放課後に来てねという連絡は貰っている。
まだ部外者だから勝手に入るのは良くないか。仕方がない、少し待つか。
とりあえず3年生組に連絡をするべく携帯を取り出そうとしたところ、急に生徒会室の扉が開いて僕はおでこで迎え撃つことになった。
「あいたーっ!」
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか……?」
そんなに勢いよく開いたわけじゃ無かったのに突然だったせいで大袈裟なリアクションになってしまった。
「大丈夫です。ごめんなさい扉の前に立ってて」
目の前の人はネクタイの色から察するに2年生なのだが、すごく小柄だ。目算でクラスメイトのみくるさん(芸名)とそんなに変わらないように見える。145cmくらいだろうか。
「おでこぶつけちゃいましたか」
必死に手を伸ばして僕のおでこをさすってくれる。何この可愛い生き物。はっ! 僕はなんて失礼なことを!
「だ、大丈夫です。えっと……」
「柚木風香です。貴女は1年生の早乙女飛鳥さんですね」
あれ? 僕って有名人?
「学力試験で満点を出したのは学院の歴史上初の事件ですからね。先生方も慌てていましたよ」
事件なのか。出来れば偉業と言って欲しいんだけど。というか、僕は思っていた以上に凄いことを為してしまったらしい。
「でも、早乙女さんが優しそうな人で良かったです」
オノマトペを付けるなら『ぽわわ〜』というのがしっくりくる。癒されるなぁ……マイナスイオンとか出てるんじゃないかな。マイナスイオンにそんな効果があるのか知らないけど。
僕の周りにこういう癒し系の女性は珍しいというかいないんじゃないか?
みくるさんは若干近いかも知れないが癒しというよりかはアイドル系? なので少し系統が違うだろう。
風香さんには是非とも癒し系のままでいて欲しい。
僕たち二人が廊下で和んでいると、そこに3年生組がやって来る。
「なんや、2人してそんなとこに突っ立ってどうしたん?」
「私たちが来る前に仲良くなったみたいだね〜。うんうん、よきかなよきかな」
ちなみに風香さんは夏奈さんが手をわきわきしながら近づいてきたら僕の背後に隠れた。苦手なのか?
「なんや風、今日はえらい反抗的やなぁ」
「か、夏奈お姉様ぁ……後輩の前ではやめてください〜」
なんだ、何か普段はすごいことをやってるみたいだ。
別に僕の前でもしてくれて構わないのよ?
「後輩を盾にするんかぁ〜、しゃーないし飛鳥を可愛がったろうかなぁ」
「だ、だめー!!」
風香さんは小さい身体で夏奈さんに体当たりしていく。体当たり? へなちょこダッシュの間違いだった。体格差で負けたというよりただの勢い不足で難なく抱き止められる。そんなことあるぅ!?
「抱き枕が自分からやってきたわ〜」
「うううぅぅぅぅ」
なんだこれ!? ………なんだこれ!?(復唱)
風香さんは夏奈さんに全身わしわしと撫で回され顔を頬擦りされてとされたい放題だ。
「なっちゃ〜ん? 過剰なスキンシップはセクハラと一緒だからね〜?」
「ギリギリで止めとるから大丈夫やで〜」
「ギリギリアウトですよぉ〜!!!」
風香さんの服が半分はだけて肩まで露出している。僕はギリギリアウトという風香さんの言葉に完全にアウトでは? と内心でツッコミを入れつつ目を逸らした。
「栞お姉様ももっと早く止めてくださいよぉ〜……」
「まぁ女の子同士だし、流石に男の人がいたら止めるよ。というか、男の人がいたら2人を視界にいれさせないけどね」
あっ、僕男ですごめんなさい……なんか栞さんの語調がキツくない?
「栞は相変わらず男が嫌いやなぁ。飛鳥も気ぃつけや。栞に男の話題はNGや」
そ、そうだったのかー! 栞さん男性が嫌いなのかー! 僕が男だってことがバレたら大変なことになりそうだ。いや、これは栞さんに限らず大変なことになるから関係ないな。
「なっちゃんの言うことを鵜呑みにしちゃだめだよ? 嫌いというか苦手なだけでそれに男性の話題もNGってほどではないからね?」
ほどではないってことは極力避けたいってことでNGとほぼ同義なのでは? しかし意外な弱点というかなんというか。生徒会長って肩書きから勝手に博愛主義的な思想の持ち主だと思い込んでいた。
「ま、ここでは珍しい話でも無いんやけどね。風も男は得意やないし」
「だっておっきくて怖いじゃないですか〜」
グサッ! やめてくれ、その言葉は僕に効く。ま、まだ成長期だから……。いや成長期の男子よろしく1年で10センチとか伸びても困るんだけどさ。
「せめて私にあと10センチあれば……」
「風香さんはそのままでいてください」
「ふぇぇ!!? 何でですか〜〜!?」
「後輩に裏切られとる……」