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第28話 学園祭では何をするんですか?

 2泊目からは光さんの甲斐甲斐しいサポートのおかげもあってか、初日のようなヘマをすることなく宿泊研修を無事に(?)乗り切ることができた。


「何とかなりましたね……」


 帰りのバスの中でも光さんが僕の隣をピッタリガードしてくれている。いやほんと2泊3日の行程とは思えないほど濃密だった。


「そうですね……何度早く終われと願ったことか……」


 みくるさんはもっとお泊まり会したかったな、ってしょんぼりしてたけどね。危うく先生にあと1泊伸ばすようにお願いするところだった。そんなみくるさんは遊び疲れたのか小鳥遊さんと肩を寄せ合いながら寝ている。


「でも明日からしばらくは学園祭の準備期間で短縮授業なので安心ですね」


 準備期間の2週間は午前だけの授業で午後からは各自で活動していいんだっけ。図書館や多目的室に篭っていても何も思われないのは確かに安心だ。


「飛鳥と光は生徒会の方でもやることがあるんじゃない?」


「あっ……」


 でも何をするか聞いてないんだよなぁ。生徒会の出し物もそうだけど、僕たち(主に麗華様)の名前が入った作品も出展しないとだから意外と忙しいな。



 学校に戻ると早速生徒会の招集がかかる。何をどうするという話し合いだろうか。


「ライブやるで」


 夏奈さんがこともなげに言う。え? これ決定事項? いやいや、準備期間とか足りなくないですか?  


「栞に歌わせん選択肢はないやろ〜」


「あ、栞さんってたしかお母様が演歌歌手の」


「せやで〜。子役時代もよう歌ってたしな〜」


「子役時代? 栞さんって子役もやってたんですか?」


 僕があんまりテレビは見なかったから知らないだけかなぁ。でも光さんもピンときてないみたいだ。


「あれ? ふわりちゃん知らん?」


「ふわりちゃん!? えっ!? 毎週見てました!」


 光さん、さっきまでと違ってすごい食いつきようだ。でもふわりちゃんなら僕も聞いたことくらいあるな。不思議の国からやってきたふわりちゃんが色々な国の料理を食べたり作ったりするって設定の女児向け教育・食育番組だ。アニメパートと実写のドラマパートがあって、その実写ドラマパートのふわりちゃんが歌って踊って料理してと大人気だったけど……栞さんがふわりちゃんだったのかぁ……。


「2人ともふわりちゃんはふわりちゃんと思ってたんやろ〜?」


「なっちゃん、もう恥ずかしいからやめてよ〜」


 そ、そっか。ふわりちゃんはあくまであのアニメのキャラクターの名前か。完全に勘違いしてた。


「栞さんの歌については理解しました。けどライブというからには演奏はどうするんですか?」


「うーん、光と飛鳥は何ができるん?」


 それはちょっと無茶振りが過ぎますよ夏奈お姉様。別にお嬢様学校だからと言ってみんながみんな音楽経験があるわけじゃないんですよ?


「ぴ、ピアノなら……」


「ほな光がピアノやろ? で、ウチと風がバイオリンや」


 言い出しっぺの夏奈さんが経験者なのは分かるけど、風香さんも当たり前のように音楽経験者なんだ。でも麗華様も週1回はピアノのお稽古をされていたし、なんなら僕も練習に付き合わされたんだよな。しかしここで練習に付き合わせるだけじゃ終わらないのが天上天下唯我独尊の麗華様。


「僕はピアノとギターですね」


 そう。僕はギターも少しだけ弾ける。それは連弾に飽きた麗華様が「他の楽器とセッションしてみたいわね」と僕にギターを始めさせたのだ。ちなみになぜギターなのかと言うと、一徹様が買っただけで全く弾かずに音の鳴るオブジェにしていたアコースティックギターを「これ使わないなら貰うわよ」と半ば強奪するように貰ってきたからだ。麗華様曰く有効活用らしい。


「ギターをしてる人って珍しいですよね〜」


「弦楽器と言えばだいたいバイオリンやもんなぁ。まぁウチは若い頃は琴もやっとったけど」


 いや若い頃て、夏奈さん今も若いでしょうが。というかお姉様方、ここが特殊なだけで世間ではギターよりもバイオリンをやってる人の方が珍しいんですよ? 


「練習時間も少ないですから、全員が知ってる曲とかの方がいいですよね」


「せやな〜。楽器の構成的にバラード曲がええかもな。栞がふわりちゃんでカバーしてたアイダボタンの『奏でる』とかでええんちゃう?」


 ふわりちゃんの人気に拍車をかけたのが、月毎に変わるヒット曲をカバーしたエンディングだ。その中でもふわりちゃんの代名詞的な歌が、番組最終回で放送された奏でるという曲だ。


「あっ! 私その曲大好きです! ふわりちゃんのアルバムで何回も聴きました!」


「うえぇっ!? アルバム持ってるの!? やめてぇー! 自信満々に下手な歌を世に公開してしまった私の恥ずかしい過去を思い出させないでー!」


「いやいや。全然下手じゃないですよね」


 僕の音楽センスで上手いとか下手とか評価するのも烏滸がましいんだけど、世間でもふわりちゃんの本格歌手デビューが期待されていたくらいだからね。ふわりちゃんの最終回が話題になったのも、そんなデビューまで秒読みと言われていたふわりちゃんが突然芸能界を引退するというニュースが相まってのことだったし。ふわりちゃんロスなんて言葉が流行語の候補になっていたから世間の注目の高さが伺えるだろう。


「ううん。小学生にしては上手ってだけでプロでやっていけるレベルではなかったから。仮にあれで通用したとしたら、それは私がふわりちゃんで滝波文代の娘だからってだけ。そもそも私がふわりちゃんなのも、業界の忖度が働いて選ばれただけ、私の実力なんてそんなもんだよ」


 そうなんだろうか……。確かにきっかけは忖度があったのかもしれないけど、ふわりちゃんとして獲得したファンや知名度はそれこそ栞さんが実力で手に入れたものなんだから、その知名度や好感度を利用するのは悪いことじゃないと思うんだけど。まぁでも栞さんはそれだけ歌に対してストイックと言うことか。


 けど、それだけじゃない気がする。ただの実力不足で栞さんがここまで卑屈になるだろうか。何があったかまでは分からないけど、それが惨憺なものであったことは何となく察せられる。


「ってごめんね! なんか暗い感じにしちゃって。うん、選曲はこれでいいと思うよ。時間も限られてるし、練習頑張ろう!」


 ……しまったな。僕の思考が表情に出てしまっていたせいだろうか、栞さんに無理に明るく振る舞わせてしまった。蒸し返すわけにもいかないし、そもそも他人様の過去をずけずけと踏み荒らすような真似がしたいわけでもない。


 その後、栞さんがアカペラで『奏でる』を歌ってくれたんだけど、そこに可愛さやあどけなさといったふわりちゃんらしさは一切なく、もはや別次元の上手さとしか言いようがなかった。というか、これは僕たちの演奏は必要なんですか?

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