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第19話 なるべく見ないようにはしていたのですが

 水着から着替えた僕たちはどこにも寄り道することなく最短経路で大浴場に向かう。暖簾が男女に分けられていることなんてことはなく、脱衣所も当然一つしかない。まぁ分けられていたところで、「あ、僕はこっちなんで」とは言えないんだけどね。


 分かっていたとはいえまずいことになった。

 このままでは僕は年頃の女性と混浴することになってしまう。


「麗華様……」


「バレなきゃいいじゃない? 役得だと思っときなさいよ」


 開き直れと!? バレなきゃいいって倫理観どうなってんの!? というか麗華様が少しも恥ずかしがらないのもそれはそれで問題だと思うんですけど!?


 あぁぁ……そんなこと言ってる間に脱衣所に入ってしまう……!


「飛鳥さん! 行きましょう!」


 光さんが僕の腕を引っ張ってくる。こんな時に限って積極的すぎるよ。


「僕はお手洗いに行ってから向かいますので、先に入っていてください」


 とりあえず遅延して牛歩戦術だ。結局お風呂には行かなきゃだから何も好転はしないけど一緒に着替えるよりはマシだ。流石に至近距離だとバレるリスクもあるからね。


 トイレに避難してついでに股間のカバーの状態を直しておく。万が一外れでもしたらおしまいだ。このシリコン製のカバーが最後の生命線だなんて心許なさすぎる。でもこうなったら東雲グループの技術力を信じるしかない。


「ふぅ……行くか」


 覚悟を決めたところで脱衣所に戻る。念には念を入れて脱衣所に誰も居ないことを確認してから服を脱ぐ。備え付けのボディタオルを持ってお風呂場へと続く扉の前に立つ。

 この扉を一枚越えたところにみんなが無防備に一糸纏わぬ姿でいるわけだ。


「皆さん、ごめんなさい!」


 僕は何度目かわからない覚悟を決めて扉を開けた。

 大浴場というだけあってスペースは広い。温度の違う大きい浴槽が3つに洗い場が10個ほど併設されている。


「あ! 飛鳥さーん!」


 僕を発見した光さんが浴槽から手を振ってくる。麗華様と小鳥遊さんも一緒だが何故かみくるさんの姿がない。


「みくるさんは?」


「真っ先に露天風呂に行っちゃいました……」


「みくるさんらしいですね……」


 体を洗ったらみくるさんのところに避難させて貰おう。正直、小鳥遊さんのグラマラスボディが目に毒だ。いやみくるさんならいいのかって話だけどさ。


 一人洗い場で身体を洗っているときにも背後からガールズトークが聞こえてくる。なんだか盗み聞きしてるみたいだ。


「大きくするための秘訣とかあるんですか?」


「うーん、どうかしら。私の場合は遺伝だと思うわ。あ、でも下着は既製品じゃなくてオーダーメイドで自分に合ったものを着けているわね」


「あと、肩甲骨あたりから寄せるって言うわよね。胸の周りの肉は背中まで逃げてるから、それを持ってきてあげるだけで2サイズくらい大きくなるわよ」


 光さんが小鳥遊さんに育乳方法を聞いていた。女性特有の悩みだな。麗華様も美乳だしそう考えるとレディメイドのものよりも個人に合わせたもののほうが効果があるのかもしれない。


「ごめんなさい。ちょっと揉んでみてもいいですか? ご利益がありそうなんで」


 !? ちょっと光さん何言っちゃってんの!? あーもうここは危険な気がするから早く避難しよう! 露天風呂に逃げるんだよぉ!


 露天風呂は海側に位置しているため外に出ると潮の香りが仄かに感じられる。風情ある岩風呂に見渡す限りの蒼い海、そして初夏の青空。なんとも優雅な景色に可愛らしい全裸の少女。趣があるなぁ……(白目)。


「あ、あすあすだ〜」


 いつも元気なみくるさんにしては珍しくぐで〜っと気怠そうにしている。そんなに気持ちいいのだろうか。

 そういえばここのお湯は近くの源泉から引いてきている温泉だそうだ。疲労回復、神経痛、筋肉痛、冷え性、美肌効果が期待できるらしい。


 あっつ! みくるさんが気持ち良さそうにしてるから油断してた。 43度くらいあるぞ。


「お風呂ってなんだか眠くなっちゃうよね〜……」


 僕は逆に眠気飛びましたけどね。


「寝ちゃダメですよ。最悪溺死しちゃいますから」


「うぇぇこわいよ〜」


 口では怖いと言いつつも眠そうな雰囲気は全く抜けていない。というか今にも船を漕ぎ始めそうだ。ん? みくるさん? あなたなんでこっちに来るの?


「えへ〜、あすあすが支えてくれれば安心だね〜」


 近い近い近い近い近い!!!! いやぁぁぁ寄りかかってこないでぇぇぇ!!! 


「み、みくるさん?」


 返事がない。嘘でしょ!? こんな一瞬で寝るとかあるの!? 気絶してないよね!? 呼吸は……あ、良かった胸は上下してる、…………いま見ちゃったのは不可抗力だから! ごめんみくるさん。


 さて、身動きが取れなくなってしまった。まぁ起こすのも可哀想だししばらくはこのままにしてあげよう。


 しょうがない、このまま浸かっているか。





 今思うと起こしてちゃっちゃと部屋に戻っておくべきだった。


 背後で扉が開く音が聞こえてくる。談笑している声から察するに光さん達が来たみたいだ。ちょっと待ってここだと僕逃げ場無くない?


「飛鳥さ〜ん!」


 あ、詰んだ……? 後ろを振り向くのが怖い。いや振り向いたら全裸の光さんとフェイストゥフェイスしちゃうから振り向かないけどね。


「熱いわね……」


「私は家でもこのくらいだけど……あら、来栖さんは寝てしまったのね」


 と思ってたらこの人たち横じゃなくて正面に来たんだけど!? わざとなの!?


「飛鳥、目が死んでるわよ」


「すみません、ちょっと疲れちゃったみたいです」


 指摘しないでくれませんかねぇ……頑張って遠いところで焦点を合わせてるんだから。


「みくるちゃんに付き合ってましたもんね」


 いえ、疲れたのは体力面じゃなくて精神面です。皆さんに気取られないように視線を逸らし続けるのが大変なんですよ。


「完全に飛鳥さんのことを信頼しきってますね」


 みくるさんを犬か何かだと思ってる? 犬だったら尻尾をぶんぶん振り回してそうだよね。そんな眠り姫はビクッとジャーキングするとカッと目を開いた。


「はっ! ほんとに寝ちゃってた!」


 寝るつもりは無かったのか。一瞬で落ちてたよ?


「あれ? みんながいる……」


「気持ち良さそうに寝てましたね」


「なんか恥ずかしいよ〜」


 意外だ。羞恥心とかないと思ってたけどがっつりと寝顔を見られるのは恥ずかしいみたいだ。


「夜ご飯までお部屋で仮眠しますか?」


「んーん、もう目が覚めちゃった」


 数分しか寝てないのに凄いな。僕としては起きたなら寄りかかるのをやめてくれると精神衛生上ありがたいんだけど。けどやめてって言うほどでもないし、何より嫌というわけではない。そう、嫌というわけではないのだ。win-winなのに安易に拒絶して傷つける必要性なんてない。僕がちゃんと理性を保っていればいいだけの話だ。


「そろそろ熱くなってきましたね」


「温度が高めなのであまり長湯しない方がいいですよ」


「うんー、私もうあがる〜」


「あ、じゃあ僕も。一度お部屋に戻りましょうか」


 とはいえだよ、僕の股間の防御力の関係上お湯の中に浸かっている方が安心なのだが、このタイミングだけはどうしようもないか。なので僕は可能な限り距離を取ってわざわざ手すりのあるところからあがるようにした。


 バレてない……よね? まぁよっぽど股間のところを凝視しないと分からないだろうし、流石にそんなデリカシーがない人はここにはいない。


 の、乗り切った……。あとはみくるさんにだけ気をつけて服を着てしまえば安心だ。僕は半分勝利を確信して脱衣所へと繋がる扉を開く。


「あら、飛鳥さんたちもお風呂でしたのね」


 う、梅お嬢様ぁぁぁ!!!???

 無警戒だったために直視してしまった……! なんというか、成長しましたね……。

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