第12話 最大のピンチが到来しそうなんですが
翌日、麗華様といつものように登校し、いつものように教室に入ったわけだが、ここでいつもと違うことが起きた。
「飛鳥さん、お願いがあるんだけど」
「な、なに? 小鳥遊さんそんな改まって」
小鳥遊さんは学年3位の成績の才女だ。可愛い系ではなく美人系で、3年生のお姉さんと言われても納得出来るくらいには大人びている。
そんな彼女が僕にお願いをしてくるのは勉強で行き詰まったときくらいなのだが、今日はどうもそんな感じではないみたいだ。
「私のこと、光さんみたいに名前で呼んでみてくれる?」
「ふぇ……!?」
「とりあえず読んでほしい台詞も考えてきたから。あ、録音させてくれる?」
そう言って小鳥遊さんは僕にメモを渡してくる。なんなんだ一体……? えーっと……瑠美、一緒に勉強しない? って、小鳥遊さんはこんなセリフの中でも勉強するのか……。まぁ、変なセリフでもないしこのくらいならいいけど。
「瑠美、一緒に勉強しない?」
「……ッ! ありがとう飛鳥さん。よく分かったわ」
何が!? 僕はなんにも分かんないんだけど!?
「一体どうしたんですか急に」
「いえ、みんなが飛鳥さんの飛鳥様モードを体験してみたいって言っていたので、実際どんなものかと思いまして。正直、期待以上でしたね」
え、僕のあれ飛鳥様モードって言われてるの? なんか嫌なんだけど。
「とりあえず、勉強前にこれを聞いて飛鳥さんと一緒に勉強した気分になって楽しみます」
ごめん。あんまり女の子に言いたくないけどやってることが変態のそれだよ。というかそんな寂しい使い方するためにお願いしてきたの?
「そんなことしなくても、勉強くらい付き合いますよ」
「っ…………飛鳥さん、そういう不意打ちは良くないです。とりあえず、ご協力ありがとうございました」
え、僕何かした? まぁ満足してくれたならいいけど……。なんか様子が変だったのが気になるな。
「あ、あの、あしゅかしゃん……おはようございます……」
「あ、光さん。おはようございます」
光さんもなんだかいつもと様子が違う気がする。うーん、若干顔が赤いな。
「ちょっと失礼しますね」
僕は了承を得る前に光さんのおでこに触れる。うーん熱は微妙だな、体調が悪いというわけではないのかな。
「あ、あ、あ……」
ん? なんか光さんの顔がさっきよりも真っ赤になってる?
「かっこ良すぎるよぉぉ……」
「ちょっ! えぇ!?」
全力ダッシュで教室から出て行ってしまった。どうしちゃったんだ一体。というかもうホームルーム始まるよ!?
「んぁ? 今、村田がどっか行った気ぃすっけど、まぁいっか。うーしじゃあホームルーム始めるぞーい」
光さんと入れ違いに先生が入ってくる。相変わらず適当だなこの人。
「今日は楽しい楽しい宿泊研修の班決めだ」
宿泊研修……だと!?
さて、聖マリア女学院は毎年1年生はこの時期(7月)になると宿泊研修というイベントがやってくる。新生活が始まって3ヶ月、まだあまり仲良くなれていないクラスメイトとの距離を縮めるもよし、仲良くなった友人との親睦を更に深めるもよしというものだ。
しかしここは天下の聖マリア女学院。政界、芸能界、資産家の娘が通う一流の学院。一般宿泊客が利用しているホテルにお邪魔するなんてことはない。南の島(国内)にある聖マリア女学院が所有している別荘を使用する。プライベートビーチはもちろん、室内プールに大浴場、海が展望できる広いデッキもありとにかく設備が充実している。そこで2泊3日、みんなで楽しく生活するというまさに研修とは名ばかりのバグレベルの神イベントだ……僕が女装さえしていなければね。
当然、この2泊3日の期間には着替えや入浴の時間も含まれている。僕が年頃の女の子の裸体を見るのがダメだということよりもそもそも僕のリスクが大きすぎる。
「麗華様……」
「分かってるわ……」
流石は麗華様だ、事の重大さを理解してくれている。
ただここで欠席を告げるのは少々目立ちすぎる、当日に体調不良で欠席と連絡をいれるのが良いだろう。
「実はこのことを見越して飛鳥の下のくちばしを隠すための物を東雲グループの総力を上げて鋭意開発中よ」
何を上手いこと言った風に言ってるんですか……普通に品がないですよ。あとそんなんで大丈夫か東雲グループ。
「球技やコンタクトスポーツで急所をガードをするための技術として応用できるらしいわ」
流石は東雲グループだった。良かったよ麗華様の悪ノリだけじゃなくて。でもそうか、たしかに野球では急所を守るためにキャッチャーはファウルガードという股間をガードする蓋をしている。コンタクトスポーツでもマウスガードと同じように睾丸をガードするものの使用が認められている。今後は義務化の流れも来るかもしれない。東雲グループはちゃんと商機を考えていたんだね。多分、麗華様はそこまで考えてないんだろうけど。
「だから欠席は認めないわ、飛鳥がいないと楽しくないもの」
仕方ない、麗華様を退屈させるわけにはいかないし、リスク承知でやってやりますか。




