第1話 男なのにメイドですか?
TSではない男の娘ものです。
苦手な方はご注意ください。
主人公最強の要素は…………ありまぁす!
聖マリア女学院。女学院という接尾語の通りのお嬢様学校で、そこに通うのは官僚や財閥、医者、大物芸能人の御息女といった所謂上流階級のお嬢様だ。
学生はもちろん、守衛を除いた用務員、事務員、教職員の全てが女性という、なんと女性比率99パーセントというまさに女の園。
そんな男子禁制の花園に僕、早乙女飛鳥は明日から通うことになってしまった。
「お父さんお母さんごめんなさい。僕は犯罪者になってしまうかもしれません」
僕は今、その聖マリア女学院の学生寮の前にいる。建物の様相は学生寮というより高級ホテルだ。煌びやかな装飾が眩しすぎる。ここから一歩足を踏み入れた瞬間僕は立派な犯罪者の仲間入りだ。
「飛鳥、早く行くわよ」
もちろん僕だって好んでこんな場所に来ているわけではない。そう、今僕を率先して犯罪者にしようとしている彼女こそ、僕がここに来ることになった原因、東雲麗華お嬢様だ。
まずは僕と麗華様との関係について少し話したいと思う。
僕が麗華様と初めて出会ったのは5歳の時だった。僕の両親は10年前に交通事故で他界しているのだが、身寄りの無い僕に救いの手を差し伸べてくださったのが東雲家の現当主、東雲一徹様だった。
なんでも、母は父と結婚する以前は東雲家でメイドをしていたらしく、その縁もあって僕は東雲家に引き取られることになった。
一徹様は僕に自分の家だと思って寛いで良いと言ってくださったのだが、しかし僕はそれがどこか居心地悪かった。そんな僕は一徹様に仕事をくださいとお願いしたのだ。
とはいえ所詮は子供、出来ることなんて限られている。そんな当たり前のことが分からない、まぁ今でもなんて生意気な子供だっただろうと自分でも思うが、しかし一徹様は重要任務だと言って僕に仕事を任せてくださった。
それは麗華様の話し相手になることだった。
当時5歳の麗華様だが、麗華様は幼い時から良くも悪くも麗華様であった。
「麗華、ボディガードの件は考えてくれたか?」
「暑苦しいのは嫌よお父様。筋肉マンは可愛くないもの」
僕が初めて麗華様を見た時は一徹様とこんなやり取りをしていた。なんでも視界に屈強な男がいると言うのが嫌だそうだ。
そんな麗華様は目敏く僕を見つけて宣言した。
「その子ならいいわ!」
と。その時の一徹様の申し訳なさそうな顔は今でも覚えている。
そんなわけで、僕は1日にして麗華様の話し相手から付き人へとランクアップしたのだ。
さて、それが何故ここに繋がるかというと、それは聖マリア女学院が付き人の同伴を許可しているからだ。
また、今年から特待生という成績優秀者の学費免除や生活手当の扶助というシステムも導入されたのだが、これは東雲家には関係ない。
ちなみにその時の麗華様と一徹様のやり取りがこうだ。
「麗華、付き人はどうする? うちから誰かメイドを連れて行くか?」
「飛鳥を連れて行くわ」
「そうか……そうか……」
一徹様は反論しなかった。何故?
また、付き人で来たメイドは寮で甲斐甲斐しく主人の部屋を掃除したり、休憩時間に紅茶をいれたり(一体何を言ってるんだと思った)といった仕事をするのだが、麗華様はあろうことか僕を同級生として入学させた。
そのため僕は麗華様と同じ学院の制服を着ている。当たり前だがズボンではなくスカートだ。これは危うい。
「女装がバレたら麗華様の立場も危ないんですよ?」
「大丈夫よ。そのスカートも似合ってるじゃない」
なんだろう全然嬉しくない。どうせなら僕は燕尾服が似合う男になりたかった。
あと麗華様に「女装? ここには女の子しかいないわよね?」と釘を刺された。なるほどそのワードを口にするなということらしい。
「メイクもウィッグもしないでそれだけ可愛いんだから、もっと堂々としてればいいのよ」
あぁ、今日も麗華様のメンタルが強靭すぎて辛いです。
覚悟を決めて僕は木製のドアを開ける。雰囲気あるなぁ。まず目についたのは建物の中央に大きく聳え立つ大きなシャンデリアだった。
「どこのホテルですかこれ……」
って僕が踏んでるこのカーペットもペルシャな絨毯じゃないですかやだー。
中央のシャンデリアを囲むように2階3階4階と円形の通路が見える。凄い吹き抜けだ。某夢の国の有名ホテルの内装かな。麗華様に聞いてみたら設計者はその人らしい、んなアホな。
「私たちの部屋は3階の301よ」
そう言って麗華様はスタスタと歩き出す。ちょっと待って、今少し不穏というか、いやだいぶ穏やかではない単語が聞こえた気がしたのだが聞き間違いだろうか。
「……ちょっと待ってください麗華様。今ちょっと所有格が変だなぁと思ったんですけど……」
嫌な予感がする。なにせ麗華様は僕を困らせる天才だ。ダメだ不安しかない。
「わたしたち? 正しい日本語よ?」
うわぁすごい笑顔。分かっててやってるよこの人。
「あの……もしかしてですけど僕と麗華様って同じ部屋だったりします?」
「さ、行くわよ」
口答えするなと言うことですね。わかりました。
学生寮なので僕たち以外にも学生がいる。当たり前だが全員が女性だ。
なのですれ違う度にバレるんじゃないかとドキドキした。
「ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう」
ごきげんようて、レパートリーに無い挨拶するのやめてほしいんだけど。
僕のぎこちない発音がツボだったのか、前を歩く麗華様が笑いを堪えていた。無表情装ってても頬に力が入っているの分かってますからね。
あと全く疑いの目で見られないのは喜んでいいのか微妙な気分だ。
そして結局誰にも見咎められずに部屋までついてしまった。
部屋は延べ30畳ほどの1LDKだった。学生の二人暮らしだよ? 広すぎない? そして寝室にはダブルベッドが二つ。
うーん、お金持ちの感覚は未だに分からない。
早速備え付けのクローゼットに衣類を片付けていく。
衣類などの嵩張る荷物は事前に搬送されていた。
麗華様もただ座っているのは暇だからと手伝ってくれている。お優しい。
そんな麗華様の手には白と黒を基調としたフリフリした洋服が握られていた。
「麗華様、それは?」
「メイド服。あなたの部屋着よ」
「…………」
訂正。どこも優しくない。麗華様が数日前に「自分の分は自分でやるわ」と言っていたのはこれを仕込むためか!
「というか僕の服が一個もないんですけど!?」
「当たり前じゃない。男物の服なんて持っていけるわけないんだから」
全部検閲されていたのか……! ということはここにあるものは全て麗華様プレゼンツ……。
「あの、下着も無いんですけど……」
「………(ニコッ)」
その無言の微笑が怖い。いや大体分かっちゃったけども。嘘でしょこの人、そこまでやる?
「ここには女の子しかいないものね」
「せめてスパッツに、いや最近は女性用のボクサーパンツなるものがあるそうですのでそれで勘弁してください!」
僕は土下座で乞い願う。僕は日頃からこういう時のために綺麗な土下座のやり方を練習している。
「チッ、最初はそれで許してあげるわ」
そんな露骨な舌打ち!? でもありがとうございます麗華様! 土下座してみるもんだ。
「早くメイド服に着替えなさい」
どうやらこれ以上は妥協できないらしい。僕は諦めてメイド服を手に取った。
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