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最果ての地へ  作者: いらは
マヨイノモリ編
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マヨイノモリ3-2

宿を出たイザナはシャナの気配を追っていたが、人がまばらに行き交う道では大まかな方向しか掴めなかった。

時間はさほど経ってはいないが、移動速度から脚力強化を使っているのだろうと推測できる。

今からそんなに使うとあとが持たないと、半ば呆れたイザナだったが、それもシャナらしいと思う自分がいた。

しばらくしてイザナは人目を避け、草木に覆われたけもの道に足を踏み入れた。高くそびえる木々の間を飛び跳ね、彼は一つの木に飛び乗り、目を閉じて深呼吸をした。イザナの周りの空気が一変し、禍々しい雰囲気に包まれた。そして、吐き出す息と共に、彼の髪が赤く染まっていく。

その色はシャナのものとは異なり、禍々しさを帯びていた。

いろいろな光が彼の頭に浮かび上がり、その中にシャナの髪と同じ鮮やかな赤い光が輝いていた。その光は糸のように細く、イザナの手元に伸びてきた。

元の髪色に戻ったイザナは、その糸を辿って行くことにした。



「どうしよう…」

ポツリとつぶやくシャナの目の前には、一人旅を邪魔するように大きな岩山がそびえ立ち、行く手をさえぎっていた。自身が方向音痴だと言うのは重々分かっていたため、迷わないように道なりに進んだはずだった。

なのに辿り着いたのは登れそうにもない岩山。文字とおり行きつまってしまったのだった。

─迷ったら来た道を戻れ─

毎回迷うシャナに、イザナから散々言われた言葉が浮かんだ。

先程から霧が立ち込めてきたが、イザナに言われ続けた言葉通りにこのまま来た道を戻る事にした。行き止まりを戻るだけだから、難なく修正出来そうだ、と楽観的に鼻歌交じわせくるりと向きを変えた。

「よう兄ちゃん、ご機嫌だな。ご機嫌ついでに金目の物を置いていきな」

いつの間にか、ニヤニヤしながら刃物をチラつかせた山賊達がシャナの前に立ち塞がっていた。シャナは言葉を返すことができず、彼らの威圧的な態度と不敵な笑みに、身構えざるを得なかった。

もしかすると、この道はわざと作られた道なのでは?と、一瞬思った。

シャナのように方向音痴や、旅に慣れていない人達をわざと迷わせ金品を奪う。そんな悪質な手口に引っかかってしまったのかもしれない。

単独で旅をする危険性を忘れた訳ではなかったが、少しでも距離を稼ごうという焦りと、イザナと旅をして気が緩んでしまったと思った。

だが、それを今さら後悔しても仕方がない。今の状況をどう切り抜けるかが先決だ。

唐突にシャナは叫びながら山賊達の後ろを指さした

「皆さん!後ろに魔物がいます!」

その言葉に驚いた山賊達は、一斉に後ろを振り向き確認した。その隙に逃げようと脚力強化を発動したシャナだったが、走り出したところを1人の山賊に腕を掴まれてしまった。

「どこへ行こうってんだい?」

山賊はそのまま掴んだ手を引っ張り、地面へとシャナを投げた。投げられた衝撃でシャナのターバンが外れ、隠していた赤い髪が広がった。山賊達は一瞬驚き隠せなかったが、そのうちの一人が口を開いた。

「よく見れば女じゃないか。金品がないなら、その分楽しませてもらおうか。」

男の言葉は陰惨で、シャナの心を凍りつかせた。

「お前も物好きだな。赤い髪は魔族って言うじゃないか。」

別の男が不安そうに言ったが、男はフンと鼻で笑った。

「魔族ならこんなトコで捕まったりしねぇし、仮にそうだとしたらオレ達はとっくに殺されちまってるさ」それもそうだなと、山賊達はニヤリと不気味な笑みを浮かべ男たちの悪意に満ちた視線が、彼女を凌辱するために集まっていた。

シャナは尻もちを着いたまま後ずさりを続けたが、岩山が再び彼女の進む道を塞いだ。

逃げ場のないシャナをつかもうと男がかがんだ瞬間、シャナは砂を掴み、その男に向け投げつけた。

「ぐあぁ!」

シャナが放った砂塵は男の眼に入り、男は後方に仰け反って隙を露わにした。シャナは即座に男に突進し、腰に携えた剣を抜き出し、倒れ伏した男の太ももを一突きした。

「この女ぁ!」

山賊たちは、まさかの反撃に一瞬動揺したが、すぐに剣を抜き、シャナに向かって突進した。

シャナは山賊たちの猛攻を交わしながら戦い続けた。だが、惜しいことに、決定的な傷を負わせることはできないでいた。

剣が弾かれ、その太刀筋が容赦なくシャナの体に向けられた。攻撃が命中する瞬間、金属音が響き渡った。そして、山賊は苦痛の声をあげて倒れた。

シャナの瞳には、透き通った鮮やかな水色の髪が映し出された。

「イザナ…!」

名を口にした瞬間、彼女から涙がこぼれた。

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