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最果ての地へ  作者: いらは
マヨイノモリ編
7/14

マヨイノモリ2

「申し訳ありません。先日から部屋のメンテナンスを行っていまして空室が─」


「個室で今空いてるのは高級感満載の─」


「2名様ですか…現在、空いておりますお部屋は、ツインルームで─」


そこまで大きい町ではないものの、ハンターが討伐後の魔核石を換金、もしくは浄化をするために寝泊まりすることもあるせいか、数少ない宿は満室だった。

数軒回って予算にあった宿はあるにはあったが、一部屋しか空いておらず、シャナは気まずそうな顔をしイザナを見上げた。

だが目線の相手は相変わらずの無表情で、何を思っているのか感じ取れなかった。

何かを話すこともなく、沈黙のまま指定された部屋へと二人は足を運んだ。

一緒に旅をして野宿をしているのに、同室に抵抗するのは今更なのかもしれない……

そう思いながら部屋の戸を開けると、ベッドはそれぞれで適度な距離があり、それを確認したシャナはちょっと安心した。

荷物を下ろしベッドに座ったシャナは、長いため息をはきながら頭のターバンを外した。

一つに束ねた長い髪が落ちないように頭に巻いていたが、それがほどかれると、鮮やかな赤い髪が肩を伝ってさらりと背中に流れていく。

荷物や武器を整理していたイザナは、シャナのその様子を見て口を開く。

「ずいぶん長いが、それを短くするという考えはないのか?」

思ってもいない質問をされ一瞬驚いたが、少し不機嫌な視線をイザナに投げた。

「手入れで時間かかるから切れってこと?それだけは嫌。ぜったい譲れない。」

「…」

「ボクはこの色がすごく好きだし、本当は隠したくない。

だけど、この色は…赤い髪は嫌われてるし、隠さないといけないのは解ってはいるよ?

だから…切るのだけは嫌なの…」

最後はポツリと呟き、毛先をくるくると指に絡ませうつむいた。

「…メシを食いに行くぞ」

いつものように強めの意見でも言うのかと思っていたが、それ以上言わず、扉に向かうイザナに拍子抜けしたシャナだった。

先程解いた髪をまた束ね、ターバンを頭に巻きなおし、急いでイザナの後を追いかけた。



換金所で得た話の更なる情報を得るのと空腹を満たすため、酒場へと足を運んだ二人。

宿が満室であった分、やはり店の中も人が多く、空いてる席は入り口近くの壁に寄せた小さめの四角いテーブル席だった。

仕方なく二人は座り、近寄ってきた店員にイザナがささっと注文をする。

店員が下がったあと、イザナは有益な情報を持っていそうな人物はいないか店内を見渡した。

様々な人物を見ていたが、ふと、一人の人物と視線が合った。

視線先の相手はイザナと視線が合ったことを嬉しく思ったのか、ニカッと笑い、イザナ達の席へと寄ってきた。

「おぉ!!久しぶりだな。まさかこんなところでお前に会うとは思わなかったぞ!オレってばツイてるな!」

片手にジョッキを持ちながら近寄って来た人物は、話し方は雑であったが、金色の髪に碧眼の顔立ちのよい女性だった。

だが、その顔立ちのよい顔の右側の目を中心に痛々しい傷跡があった。

首元に太陽と月を模した協会の紋章を付けていたが、身体のラインに沿った装備の合間から所々に見える勇ましい傷跡が、それが無くともハンターの雰囲気を出していた。

「…で?いい情報あったか」

「久しぶりの再会なのに相変わらず冷たい態度だな!?何年ぶりだ?お前あれからずっと…?」

イザナの素っ気無い対応に気にもせず、女性はウキウキと喋りながら空いてる席に座わったが、ビックリした顔で自分を見ている視線に気づいた。

女性と目線が合ったシャナはオドオドしながら挨拶する。

「どうも…」

「ちーっす。オレ、サガミア。よろしくな」

ニカッと笑いシャナに彼女なりの挨拶をするが、シャナを見たあと不思議そうな顔でイザナに呟くように問いかけた。

珍しい…お前のツレか…?と。

「わけあってな。」

「なんだよ…お前そんな趣味があったのか…道理でオレの誘いを断っていたんだな?!」

「また妙な言い方を…」

呆れ気味に言うイザナを後目に、サガミアはまたニカッと笑いシャナを見た。

ジッとシャナを観る傷がある右目が淡く光ったように見えた。

ニヤリと笑いシャナの肩に軽く手を乗せた。

「せっかくならオレみたいに飾ればいいのに…もったいねーな。」

「え?えーと」

「フフン。この目は義眼だが魔石が埋め込まれていてな。ちょいと色々便利な機能があんだ

しっかし、いいなぁ。…オレも同行しようかな。面白そうだし」

「これ以上うるさいヤツはいらない。それより…いい情報あったのか?」

イザナのため息交じりの返答につまんねーとサガミアは不貞腐れた顔をしたが、そこへイザナが頼んだ料理がテーブルへと置かれた。

サガミアはそれをツマミながら話しだした。

「だいたい一緒さ。この町に来る前の、別なトコでも似た事案だったね」

「あんたはどう見る?その森は」

「オレとしちゃぁ、やっぱ魔族だと思うね」

そうしてまた二人が話し込む。

それを黙ってシャナは見ていた。

自分の知らない世界。

昼間からのモヤモヤが収まらず、ズキンズキンと痛みも出てくる。

ボクは何やってんだ…

ある程度食べ終わり注いでもらった飲み物を飲み干すと、話しこむ2人に、部屋に戻ると呟きそのまま席を立った。

イザナは不思議そうな顔でシャナの背を見ていた。

面白そうにサガミアはイザナと過ぎ行くシャナを交互に観た。

「何が言いたい?」

「いやー別に。なるほどねェ」

「さっきから締りのない顔で、意味わからん事を。」

「ニヤけちゃうさ。お前がそういう風になっちゃうんだからさ。」

また意味の分からない事を…そう呆れながらイザナは話をきりかえた。 

「ある装飾品を探しているんだが、あんたなら知ってるかもしれないな」

 そっと耳打ちされたサガミアは、不思議な顔でイザナをみた。

「任務で使うのか?」

「いや、ちょっとな…」

珍しく言葉を濁すイザナに、サガミアは驚きながらもすぐにしまりのない顔をした。

「バディの為か。ふーん。ホーント変わったなぁ。」

また…とため息交じりにつぶやき、少し不快な表情のイザナを見て、サガミアはニヤニヤとしながら残りの食べ物をつまんでいく。

「そのままさ。

ちょうどいいや。姪っ子にお土産で買っていたのがある。色は選べんが半永久的という代物がね。

もちろんお代はお前の体で」

パチリとウインクしてイザナを見るが、イザナは引き気味にサガミアを見て長いため息を吐いた。

「…変な事を」

「あはは!!一度言ってみたくてね。」

イザナの反応は予想していたようで、また豪快に笑っていた。

「イザナもあの国に行くんだろう?オレもちょっと気になって。

協会から何も通達はないが…調べる価値があると思ってな。それでチャラってのはどうだ?」

「いつ行くんだ?」

「浄化がおわったらな。1週間はここで滞在することになるが」

「そうか…先に行っておく。現地で」

「成立だな。」

お互いのジョッキを傾け一気に飲み干した。

 美味そうに飲み干したサガミアはもう1杯追加をしようと店員を呼ぼうとしたが、イザナはそのままジョッキを置き、席を立った

「なんだもう帰るのか…あの子はそんなに大事な子か?」

「ただの依頼人だ。」

その依頼人に装飾品をねぇ…

そうつぶやいたサガミアの顔は、今までとは違う笑顔だった。

その表情を向けられたイザナは何も言わず、コインをサガミアの前に置いた。

「えー一杯分じゃん」

「はァ…そうだな。あんたには少ないかもな。」

呆れ気味に呟き、追加のコインを置いた。

「まいどあり〜」


部屋に戻ると、シャナは壁側のベッドで頭から布団を被って寝ていた。

イザナは空いているベッドに座り、しばらく考えていたが、シャナに背をむけたまま横となり目をとじた。

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