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最果ての地へ  作者: いらは
マヨイノモリ編
6/14

マヨイノモリ 1

■■■■ニナ…リ…たイ………モウ…い…イチ…ど…アノ……■ヲ………


霧が立ち込める森の中で、“なにか”が通る。

人間なのか、魔族なのか、その姿は濃い霧に遮られ確認する事ができない。

その中から聞こえてくる"何か"が這いずる音が、この霧の不気味さを増していた。

濃い霧が晴れると不気味な音がした森は、何事もなかったように草木が生い茂っていた。

そう何も無かった。何かが這いずったはずなのにその痕跡が全く無かったのだ。

霧が魔族そのものなのか…この霧の存在をまだ誰も知らない。






イザナとシャナは以前に採った魔翼獣等の魔核石を換金するために、とある町へ立ち寄った。

町に入るとすぐ目に入る場所に換金所はあった。

軒先には営業を許可する協会のマーク、月と太陽を模したモチーフが飾られている。

このモチーフが一種の結界の役割もしており、浄化されていない魔核石を数日置いても、精神に異常をきたすことはない仕組みとなっていた。

中に入ると様々な魔核石が並んでいる。小さい町にしては品揃えがいい方だ。

店の奥に店主らしき中年の男が、イザナの持ってきた魔核石を鑑定している。特殊な計りの上に乗せると、魔核石から魔物の姿と、様々な数字が浮かび上がった。

その数字とイザナの首もとにある協会の紋章を見比べて、協会のマークがついた手袋で魔核石を掴むと、残念そうにため息をついた。

「お前さん…魔翼族の魔核石は珍しいんだけどな。ちょっと色づきが薄いのがなぁ…あんたのランクならもっと濃い魔核石をー」

「それはあれだ。仕方なく直接使ってしまったからだよ。」

イザナが店主の言葉をさえぎる。その言葉に店主は驚き、シャナはばつが悪そうな顔で店内の魔核石に視線を移す。

「!?」

店主は驚き過ぎて危うく魔核石を落としそうになったが、なんとか持ちこたえた。

「いくらSランクだからといって、直接は危ないぞ?最近はまた、魔核石に魅入られ狂人化したヤツがいるとか…」

落とさずにホッとした店主は半分呆れた顔でイザナをみた。イザナは特に顔色も変えず、飄々と答える。噂じゃないのか?と。

「火のない所に煙はたたず…ともいうからねぇ。長年蓄積されたら、いくらSランクでも狂人になるやもしれんぞ?」

通常の人間ならあり得るのかもしれない。だが自分は…そう思いながら、店主の持つ魔核石に視線を落とした。

あ、そうだったと店主は思い出したようにカウンターの下から紙を取り出し、イザナの目の前の広げた。

「最近、森に迷ってそのまま不明になったという事例が出ているようだ。ただおかしなことにその森の場所を特定できないらしいんだ。今のところ討伐の報酬は出ていないが、気をつけるよう通達が来ている」

「ふむ…報酬がないのは残念だが…その魔族の魔核石…どういうものか気にはなるな…」

「行くのかい?」

「オレ独りなら行きたかったが…」

言葉を濁し、隣でカウンターに広げられた通達を覗き込んでいたシャナに視線を落とす。視線を向けられたことに気づき、シャナは苦笑いをした。

店主はその反応を不思議に思い、イザナに連れはハンターじゃないのかと問いかける。

「見習いさ。だから魔核石もその有り様でね」

その言葉にシャナは明らかに不服な表情をし、カウンターから離れ店を出ようと扉へと向かう。

「あー、行くなら先に宿を探してくれよ」

呼び止めるでもなくフォローでもなく、宿探しをしろと。シャナにとってどうでも良くはないが、今の自分に掛ける言葉がそれだと思うと振り返る気力も無く、シャナは勢いよくドアをしめた。

「おっと失礼…まだまだお子さまでね」

閉まった扉を見つめ、呆れた顔を向ける。店主は苦笑いをしていた。

「しかし、連れは変わった格好だったな…」

「あぁ、地方から来たんだ。そういえば、これ以外になにか変わったことってないか」

先ほどの魔核石から出た数字を計算し、紙へと書き移すと奥から出てきた青年に渡した。青年はまた奥へと戻り、店主はあごに手を当て、暫く考えていた。

「そうさねー。ある国の話だが、急激に力をつけてきた所があるらしい。風の噂ではその騎士団長がえげつない強さらしくてな。まるで不死身とも。ま、石で強化はしているんだろうが。」

「さっきの狂人したのと関係あるか?」

「さぁねぇ。そこらへんはここではわからないなぁ。あとは」

「なるほど…ためになった。」

話しが終わる頃、先ほどの青年が金貨をもって奥からでてきた。袋に入れ立ち去ろうとするイザナに店主は、大きなお世話かも知れないが、と話しを続けた。

「どこまで旅なのか知らんが、あの坊は気をつけんとな。見た目…と言っておこうか。あんたは強そうだからいいが、あの坊は“カモ”になりやすい。気をつけた方がいい」

思っていない事を言われ思わず首を傾けたが、軽く礼をして店を出た。


先に店を出たシャナだったが、ふと、店の前を行き交う人達が自分に向ける視線に違和感を感じた。

この格好…やっぱり目立つのかな…

この町の人々は軽い格好をして、華やかな雰囲気で何もかもが楽しそうにしていた。シャナの頭部を隠す出で立ちに、怪訝な表情をする町人に納得はした。

イザナのように、ハンターのマークでもついていれば、そこまで異様なモノを見る視線を感じなくて済んだかもしれない。

いつも前向きなシャナだったが、今回はそれが出来ないでいた。いくらイザナと共に旅をしていたとしても、女性だとわかると迷惑をかけるのではないか?おまけにターバンを外して赤い髪をさらせば尚更かもしれない。

そう思いながらも今さら外見を気にしてる自分がいることに、心の奥で何かがくすぶっていた。


なんだ…まだ宿を探していないのか…


店から出てきたイザナは、店先で立ち止まっているシャナに一言言おうとしたが、シャナの視線の先を見て黙った。身なりを整え、カラフルな衣装と髪飾りをつけた女性達が楽しく会話をして歩いていく。

イザナは軽く息を吐いた。

その気配の気づいたシャナは彼から頼まれ事をまだしていないことを思い出した。

あぁ…きっと小言の一つ、いや三つほど言われる

そう思い振り返る事なく肩を落とした。

「さっさと宿を探さないと、日がくれるぞ。」

俯くシャナの頭にに軽く手をおき、行くぞと視線で促し歩き出した。

イザナが触れた頭に手を置き、複雑な感情のままイザナの後を着いていった。


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