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最果ての地へ  作者: いらは
出会い編
5/14

【出会い】4

空中で赤く燃えたかと思ったら、グレアの後ろから炎が上がった。

グレアの背後が燃えて一瞬イザナが見えたと思ったけど、バキバキと木々の折れる音が響き、振り払ったグレアの腕にはイザナの剣が刺さっていた。

少し眉をひそめたグレアは、刺さったイザナの剣を腕から外し、飛ばした方向を見た。

ボクもイザナが飛ばされたと思う方向に、彼の名を呼ぼうと思わず身を乗り出そうとしたとき、風切り音がした。

グレアが片ヒザをついていて、宙から現れたイザナの手には剣が戻っていた。

いつのまに取り返したんだろう。


決まる!


そう思った瞬間、痛みと共にいつの間にかボクの目の前にイザナがいた。

「へ?」

「!?」

振り下ろされた剣はボクの前髪を斬り、地面にめり込んだ。

何が起きたのか…

ボクは確か、邪魔にならないように隠れていたのに…

そういえば身体が痛い。見るといつの間にか身体に蔓のようなものが巻き付いていた。

イザナがボクの目の前に現れたのではなく、ボクが一瞬で引き寄せられたのだと理解した。

引き寄せたグレアも凄いけど、それを咄嗟に避けたイザナはどういう運動神経なのかな?そのお陰でボクは死ななくて済んだけど…

「さて…そのままその剣を捨ててもらおうか?」

感心してたのもつかの間で、蔓が巻き付いたボクは宙吊りにされちゃった。

あー、これはヤバい展開…

「…えーと。ボクはちゃんと隠れていたんだよ?」

一応弁解をしてみるけど、イザナの顔は見るからに不機嫌だった。

そんな顔されても仕方ないじゃないか。

まさかこんな事になるなんて、思ってもいなかったんだから。

イザナは地面にめり込んだ剣をそのままにして立ちあがり、手のひらを見せた。

「で?どうしたらいい?降参って手を上げればいいのかな?

しかし、魔人が人間を盾にねぇ…恥ずかしくないのかい?」

「…ククッもう、お前の軽口には乗らないさ…」

腕を頭の後ろに回そうとしたイザナの腕と足に蔓が巻き付き、両手両足を空中に引っ張られる形に固定された。

「これなら貴様も妙な小細工は出来ないでだろう。」

「はぁ…参ったね。束縛は嫌いなんだ。どうせならキレイなお姉さんが良かったけどね」

「この状況でも口が減らないとは大したヤツだよ。

ハンターにしては、動きもなかなかだしな。」

グレアは地面に刺さったイザナの剣を抜き、宙に張り付けにされたイザナへと近づいていく。

イザナの前で立ち止まったグレアは、手に持っているイザナの細い剣を眺めた。

「だいたい、今までのハンターはオレの技に魔石を使い果たして、オレの腹の中に収まって行ったが…貴様は尽きるどころか、力を増していく…不思議だよな…」

「そりゃーオレが、ランク“S”のハンターだからだ。」

「そうか…」

今までイザナの剣を眺めていたグレアはいきなり、その剣をイザナの腹部に突き刺した。

あぁ!なんてこと!どうしよう、どうしよう。

このままでは、イザナが死んじゃうよ。

イザナが死んだらボクの命もここまでだよー!

どうにかしなきゃと、もがいてみてもボクに巻き付いている蔓は緩みもしなかった。

そんなボクの行動など何とも思っていないグレアは、ボクを見ることもなくそのままイザナに語りかける。

「人間が魔族に勝てるとおもったのか?人間は大人しく魔族に飼われ喰われていればいいんだよ。

それなのになぁ…魔族は人間から生まれと伝わってるじゃないか。気に食わねぇ…ふざけた話しだよなぁ!」

一人でワタワタしていたけど、グレアの声にボクは身がすくんでしまった。グレアはその刀身を一度イザナの身体から抜き、また深々と押し込んでいく。

細い刀身の先がイザナの身体から長々と姿を現した。

ボクはその光景に耐えられず、目を反らした。

「ホント、お前は面白いヤツだ。この状況でも顔色を変えやしねーとは。

ハンターだからといっても人間だ。その人間が魔石を多様にこなすなどおかしくないか?

なぁ…お前が噂の合の子ってやつじゃないのか?」

その言葉にボクは思わずイザナを見た。

イザナは表情を変えることなく、グレアを見ていた。

細い刀身からイザナの血が滴り落ちているのに、イザナはそれでも表情を曇らせていなかった。

「答えないのは、当たりだからか?」

「さぁな…自分で試してみたらどうだい?」

「フフフ…

あー、大したヤツだよ!お前ってヤツは!この状況でも減らず口を叩けるとはな!

良いだろう!喰ってやるよ!」

そう叫んだグレアは突き刺した剣を抜き、その腹部へと腕を捩じ込んだ。

「ひぁ!」

思わずボクは叫んでしまった。

グチュリと、不快な音が耳に響く。

「このまま貴様の心臓、肝と引き摺りだして…?!な、なんだ?」

グレアの言葉が気になり、恐る恐る何が起きているのか視線を戻してみた。

確実にグレアの腕が体内にあるのに、イザナはさっきと同じように顔色が変わっていなかった。

え、いくらなんでも顔色変わんないって…痛覚どうなってんの?


「で?どうした?引き摺り出すんじゃないのかい?グレアさんよ」

それどころか挑発しているなんて!信じられない。どういう事なの?

そんなイザナとは対照的にグレアの顔色が変わり、必死にイザナから腕を抜こうとしている。抜けないってどういう事なの?

一体何が起きてるの?

「ど、どういうことだ?ち、力が…力が抜けて…いく?」

「何故…人と魔族の合の子を喰えば強くなるのかは知らんが…」

静かに話すイザナの髪の毛が、まがまがしい赤い色へと変わっていった。

それと同時にグレアの身体が小さくなっていくようにみえた。

イザナとボクを吊るしていた蔓が枯れ、ボクは地面に落ちた。

「いた…た」

イザナの身体から、腕が抜けたグレアは片ヒザをつきイザナを見上げていた。

「そんな…バカな…魔力を吸い上げる…だと?どういう…」

「残念だったな…目の前にお目当てがあったのにな…」

そう言ったイザナのその目はひどく冷たく、魔族そのものだった…

イザナの左手の甲にある飾りがひかり、その中から剣らしきものが出てきた。

それを見たグレアは尻餅をついた状態で下がっていく。

「うそだ…うそだ!オレが!オレが負け…!」

その叫びは最後まで響くことなく、グレアの身体は灰となり風に流れ消え、その場には拳ほどの濁った光を放つ魔核石が落ちていた。

「……」

いつの間にか髪の毛も元の鮮やかな水色にかわっていたイザナは、無言でその場に座り込んだ。

ボクは慌ててイザナに駆け寄った。

「大丈夫?止血…!止血しなきゃ」

「…すぐに治る」

その言葉通りに、先程まで滲んでいた血が止まり、さっきまで魔族の腕が突き刺さったとは思えないほどにキレイに傷が消えていた。

ボクは思わずその傷口があったところをマジマジと見つめ、触っていた。

「…いつまでも触るなよ…」

よくよく考えてみたら、ボクは知り合って間もない男性の素肌になんてことを!

恥ずかしさのあまりに後退りをした。


イザナはゆっくりたちあがり、魔核石を拾った。

初めて見る魔核石は不気味な光を放っていた。

「…やはり色が薄くなったか…」

そう呟くと、襟元と同じマークがある袋を取り出し、その中へと入れた。

服はボロボロで汚れていたけど、身体にはかすり傷もまったく見えなかった。

「…いつもあんな戦い方をするの?」

ボクがポツリと呟いたその言葉に、イザナは無表情で振り返り答えてくれた。

「…時にはな。今回はお前を騙して囮につかったから、お前を死なす訳にはいかなかった。」

あ、そう言えばそうだった。ボクは囮にされたんだった。

だけど、その事に対してはなぜか怒りは出なかった。

「‥ねぇ、あんな戦い方してたら、いつか死んじゃうよ?」

お節介なセリフだとはわかっていても、言わずにはいれなかった。

怒られるかもしれないと思ったがそうでもなかった。

「死ねるのならとっくに死んでるさ…。」

笑ったと思ったけど、それは自分を蔑む顔にも思えた。淡々と語るイザナは、他人事を話す顔に見えてしまった。

「人間でもない、魔族でもない中途半端な存在だ。

生きてるだけでもムダなのさ。

ただ、欲望の為に産まれた存在だからな。」

「そんな事ない!」

ボクは言葉と同時にイザナの服をつかんでいた。

「な?!何をしやがる!」

「どうしてそんな風に言うんだよ?中途半端とか、ムダだとか」

「あ?力を求める為だけにオレを生んだ以外何があるんだ!

異形のモノと交わるなんて普通の人間が出来たことじゃない!」

出会って間もないけど、イザナが感情を出したような気がした。ボクが言える事ではないのかもしれない。

だけど、ここに存在するのなら…

「イザナはちゃんと愛されて育ったんだよ。」

「…は? 」

「もし、力の為だけに、欲望の為だけに産まれたとしたら、なぜ今生きているの?」

「!?」

「きっとイザナの両親はお互いを必要としたから…イザナは産まれたんだと思う。

それに…どうでもいい存在って人が、ハンターになって人を救うなんてことはないと思うんだ。」

「お前に!出会って間もないお前なんかに!オレの何がわかると言うんだ!」

「わからない…うん。魔族との間に産まれたイザナの気持ちはわからない。」

「…ならこれ以上…」

「でも!古代種のボクは、イザナの気持ちを他の人よりは理解出来ると思うんだ!」

「…」

「村を焼かれ、死にかけたボクは、自分以外を信じる事が出来なかった。だけど、育ててくれた義父は、ボクを我が子のように愛してくれた。そのお陰で今のボクがある。

ボクはそれをイザナにも分けたいんだ。

だから、自分をどうでもいい存在なんて言わないで?」

「…ガキに理解してほしいとは思わん。」

「な?!ガキって!ボクはもう15才で立派な!」

「そう言う所がガキなんだよ。」

「むむ」

ふて腐れるボクを見て、軽く微笑んだように見えた。

え?微笑む?その表情に何が隠れているのか考えようとしたが、イザナはボクに近づき、

「“赤きモノ”…か…」

そう呟きボクの頭を軽くポンポンと叩いた。

「どういう意味ですか?」

その質問にイザナは黙っていた。

「さて…行くか」

「えーと?」

今から山を降りるって事なのかな?ボクはその言葉をどうとらえたらいいか考えていた。

落ちている剣を拾い鞘に納めたイザナは腕を組み、ボクをみた。

「最果てまで行くんだろう?実はオレも行く所だったんだよ。」

「それって…!一緒に行ってくれるの?」

イタズラな笑みを浮かべ、先に歩きだしたイザナは手を軽く振る。

「行かないのならここで別れてもいいんだぞ」

先程のイタズラな笑みはこれか!

イザナは意外と分かりやすい性格なのかもしれない。

そう思い、ボクは慌ててイザナに駆け寄り、後ろから抱きついた。

「な?!何をする!抱きつくな!」

イザナは顔を見ることなく、必死にボクを振りほどこうとしていた。ボクはそれが可笑しくて可笑しくて、笑ってしまった。

「ね?何々?照れてます?ん?照れてる?」

「前言撤回。置いてく」

顔はまともに見えなかったけど、耳が赤くなってたのは確かだった。



そんなこんなで、ボクがイザナと出会って半年が経つけど、相変わらずではあります。

思い返すと、ボクもまぁ…恥ずかしい事をさらりと言ってるよなぁ…イザナの口は悪いけど、きちんとフォローはしてくれるから…邪魔じゃないのかなって。

すこしでも、イザナがボクといて良かったと思ってくれたら嬉しいな…


イザナが呟いた“赤きモノ”はどういう意味なのか、未だにわからないけど、そのうち話してくれると信じてますが。

という訳で、こんな二人の物語ですが、これからもよろしくね!



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