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最果ての地へ  作者: いらは
出会い編
4/14

【出会い】3

******

回りは火で囲まれ、幼かったボクは、ただ泣くことしかできなかった。

何度呼んでも返事をしない母にすがり、熱い空気で喉がいたかった。

喉がヒリヒリして、咳き込むと痛みと共に血が出てきた。

「お…が…ぁ…さん…」

呼びたいのに、出てくる言葉は言葉として出てこない。それでも、母を呼んでいた。

崩れ行く扉から音がし、見上げるとそこに鎧を着た剣士がボクを見ていた。甲冑で表情は見えなかったが、ボクは母にしがみつき、覚悟を決めた。

「──────」

******


岩風呂の底からゆらゆらと動くボクの赤く長い髪を眺めていた。

ボクの髪色は、この世界では忌み嫌われる存在でしかない。

だからといってボクが魔族と言う訳でもない。

人間なんだ。

昔、神様の力を奪ったとされる赤い髪の種族は、ウィディア人と言われていた。

ボクはそのウィディアという古代種の血を引く。

もともと、大きな大陸にウィディア人はたくさん居たそうだ。

だけど、魔人が現れてからはウィディア人は身の危険を感じ、僻地へ逃げてきたと、幼い頃に村で一番長生きしてる人から聞いた。大きな大陸でウィディア人を知るものは、ほとんど居ないことも。

何故、ウイディア人が魔族と言われたらのかは、聞きたくてもボクが育った村はもうない。

ボクが小さい頃に、ウィディア人狩りにあい、全て消えてしまった。

当時の出来事は炎の中で、泣いてる事しか思い出せない。

息をする度に喉が焼けたこと、そして、目の前に現れた鎧の剣士…


さすがに息が苦しくなって来たので、ゆっくりと湯の中から頭を出した。

こんな時間にきっとボクら以外居ないと思うのだけど…

案の定、特になにもなく周りはシンと、静かだった。

ボクは広い岩風呂から這い出ると、急いで身体を拭いた。

そこまで外気は寒く無かったけど、何が起きるかわからない。

水滴を拭き終え、髪の毛をタオルで包み、胸当てを着けようとしたときに背後から音がした。

ボクはあわてて振り返り音がする方を見たが、薄暗く何もなかった。

いつもなら変装用に胸当てを巻くのだが、音がした以上、この場に居てはいけない。

いくらハンターのイザナがいるとはいえ、この姿を見せるわけにもいかないのだ。

「イイモノ見ズゲダァ!」

急いで服を着ようと上着を掴んだと同時に、いきなりボクの腕をヌルッとした物体が巻き付いてきた。

変な声と共に巻き付いた物体は生ぬるく、ベトっとした感触に思わず叫んでしまった。

「うあぁぁぁぁ!なにこれぇ!!」

叫ぶと同時にその物体が身体にも巻き付き、ボクは空中に引き上げられた。

その時に、ちょうどイザナが小屋から出てきた。そして、出てくるなりボクの姿を見てすごく驚いた顔をしていた。

え、イザナってそんな顔出来るんだ?クールな無表情かと思ってたのに、とボクはナゼだかイザナの表情に感動に似たものを覚えたが、イザナが言った言葉でそれどころじゃなくなった。

「え?!ちょっとまて?お前、女?!

クソ!道理で違和感があると思ったんだ!」

「!!」

そうだった!ボク、胸当てを着けてない!

だから、現在進行形でイザナにおもいっきり胸を見られている。

「わぁぁぁぁ!!みないでくださあい!」

隠したくても腕も一緒に巻かれて、唯一自由な足をバタつかせる事しかできなかった。ぬるぬるしてるから、動けばずり落ちるかと思ってたのに、全くそんなことはなかった。

「ちょっとぉぉ!早く助けてください!」

じたばた暴れていると頭のタオルが外れ、赤い髪の毛が広がった。

それを見て、イザナの顔が青ざめたように見えた。

「グヘェ!イザナァ!ゴデ、貴様ノ女ァカァ!グヘヘェ!コレハ良イ。グレア様ニィ、ケンジョー!ケンジョー!」

「いやぁ!放してぇ!助けてくだぁ───」

最後までボクの叫びは届かなかった。

鬱蒼とした木々の中へ、叫んでる最中に引き寄せられたのだ。

目の前には全体的に、ヌルッとした粘液を纏ったカエルに似た姿で、ギョロりとした丸く飛び出た目をし、頭に角が生えた魔物がいた。

大きさは子供くらいだったが、その容姿でその大きさだと不気味さが増していた。

ボクを巻き付けたヌルッとした物体は、この魔物の舌だと分かると余計に気持ち悪くなった。

「サァサァ!グレア様ニアゲルンダァ!ギザマハ、光栄ニ思ウンダァ!」

魔物は力強く、とまっていた枝を蹴り、空中へと跳ね上がった。

ボクを巻いたまま、何事もなくジャンプを繰り返す。

あまりの早さに目が回りそうにもなった。

かなりの高さから地面へと着地をする。なんとも言えぬ感覚が身体に走り気分が悪くもなったが、それ以上に恐怖心がボクを支配した。

近づく地面へとボクは叩きつけられて死ぬのでは?と。

見た目はアレだが、ボクを拐った魔物は、弾みで大地に叩きつけたり引きずることはなく、献上と言う言葉通りに扱いは丁寧だった。


何度空中を飛んだか。

魔物は地面に着地したあと跳ぶことなく、歩きだした。

ペタリペタリと足音が暗闇に響く。

目的地に着いたのかな?

ボクは動く範囲で回りを見渡した。

相変わらず、魔物の頭上でぬるぬるした物体を巻き付けれたままではあるが。

だけど、ここまでボクを落とさないで飛んで行くからすごい筋力(と言っていいのか分からないけど)下等であっても魔族なんだなと、変な感心してしまった。

そんなへんな感心をしてると、視界に古びた建物が入ってきた。

どこが入り口なのか、分からないほど崩れた建物だった。

ボクを担いだ魔物は、崩れかけた壁伝いに中へと入っていく。

「グレア様!モッデ来ダドォォ!アノ忌々シィハンターノ女ダッテ!」

ピョコピョコと嬉しそうに跳ねながら、魔物はグレアと呼んでいるほうに駆け寄ったかと思うと、最後の最後にボクを地面に投げ出した。

「痛ぁぁ!なんで最後に放り出すんだよ?

それに!ボクは関係ないってば!イザナとは今日あったばかりなんだって!」

自由になり、なんとか手放さなかった上衣を身につけ、文句を

いきなり魔物は長い舌でボクを地面へと押さえつけた。

「オデガ喋ッテルンダ!黙ッテロ!」

え、怒るんだ。と呑気なことを考えてしまったが、そんなことはすぐに消え去った。

「ほう…あのハンター…戻ってきたのか…」

いきなり響いた声に思わず、身体が恐怖で震えた。声だけで、人は恐怖に陥るのだろうか?

初めての感覚だった。今まで旅をしてきたけど、こんな感覚にさせる魔族に出会った事はなかったから…

「だとしたら、これは罠だな。」

恐怖で固まった身体だったけど、なんとか頭だけは動かせた。

ボクは声がした方に顔を上げ視線を向けた。

その先の暗闇で、大きな塊が動いた。

ゆっくりと暗闇の中の黒い塊が、ボクの方に向かってくる。

その大きさに、目を瞑りたくなった。だけど、ボクは視線を反らすことも出来ず、ゆっくりと近づく塊を見ていた。

その塊に赤い3つの光らしきものが見える。ナゼだかひどく冷たく感じる。

先ほどまで暗かった空が明るくなり、いつの間にか大きな月が登っていた。

いつもなら淡く慈悲に溢れた月の光は、今は崩れた建物の間から冷たく光を指し、見たくもない魔族の姿を鮮明に照らした。

暗闇で赤く光っていたのは眼だった。良く見ると左目側の額から頬に切り傷があり左目らしきモノが2つ閉じていた。暗闇で3つ光っていたのは残された額にある目と右の目だった。

身体は緑色で鱗みたいなモノが着いている以外、人間と同じ姿だった。そして、頭部で纏められた黒い頭髪には、自分とは違う、禍々しいどす黒い赤い髪の毛が一筋混じっていた。

初めて見る人型の魔族、いわゆる魔人…。

そうか、魔人は普通の人間が対峙するとこんなにも恐怖ですくむんだ…

グレアと呼ばれる魔人は、左目の傷を触りながら、ボクをジロッとみた。

ボクは思わず息を飲んだ。

「ヤツはオレの居場所が分からず、わざとその女を拐わせたか。」

「え?な?わざと?え?ボクは騙されたの?」

思わずボクは声を出してしまった。

それを見て魔人はケラケラと笑いだした。

「ハハハ!囮だよ、囮。だからもうすぐしたらヤツがここに来る。

オレはな、あのハンターが付けた傷が治らねぇんだ。だからお前を喰って回復してあのハンターを殺してやる。

あいつが来るまえにな。」

「えぇ!嫌です!ボクを食べても回復しないですよぅ!お願いだから、食べないで!」

「ネ!ネ!グレア様!コイツゥ、噂ノ合ノ子デスカネ?」

後ろで律儀に待っていたカエルの魔族がピョコピョコ左右に飛びながら、嬉しそうに言った。

そのお陰で、ボクは自由になり身体を起こした。這いつくばっているよりはいくらかはマシだ。なんとか隙を見て逃げ出さないと。

まだ死にたくないですから。

だけど、カエルが言う噂の子ってなんだ?

ボクはまだこの大陸に着いてから日が経っていないのもあるけど、極力、人と接触しないようにしていたから、ハンターの魔族化しか聞いたことがなかった。

よせばいいのに、ボクの探求心は恐怖心より勝っているようだった。それでも恐る恐るボクは聞いてみることにした。

すると、またグレアは大きく笑った。

あー、魔人も大きな口開けて笑うんだ…と呑気に考えたが、これは魔人の雰囲気にも慣れたのかもしれない。

ボクが先ほど感じた恐怖は、いつの間にか薄れていた。

そんなボクに巨漢がズイっと近づく。

「魔人と人間の間に生まれたのがいるんだとよ。

まさか食料となる人間と交わり子を産むとは…イカれた魔族がいたもんだ。」

「人と魔人に…子供?」

「そうさ、自分が強くなるために人間と交わり、その産まれた子を喰らう。

昔からささやかれていたんだが…

まぁ、おれはそんなことより食った方がマシだがな。」

ニヤリと笑うその顔は先ほどと違い、完全なる捕食者の顔だった。

「お前から魔力はまったくないが…その赤い髪…今まで見たことがないからな…人間のクセに真っ赤な髪。

お前が噂の合の子だとしか思えん。

ま、喰ってみればわかるだろ。ちがったとしても少しは回復の足しにはなるだろう。」

「ちょぉぉぉぉぉ待って!

ボクはホント普通の人間ですって!この通り魔力ないでしょ?

確かに髪の毛は真っ赤ですけど!

でもウィディアっていう昔からいる種族なんですよ!

だからね?食べてもね?うん、強くならないから。」

ボクは必死に色んな言葉を考え、どうにかこの場から逃げ出そうとするけど、あいにく何も浮かばない。

ジリジリ迫ってくる魔人グレアからどうすることも出来ず、座り込んだまま後退りをしていく。

「コラァ!逃ゲルンジャナイイ!」

カエルが叫び、長い舌でにがさないようボクを巻き付けた。

「さぁ、オレの血肉になれ。」

太い手がボクの首へと伸び、ボクは目を閉じた。

(あぁ…ゴメンなさい…義父さん…ボクの運命はここまででした…)

目を閉じた時に、ボクの横を風が通り抜けた気がした。

「ギィ?」

ボクの後ろにいた魔物が変な声をあげたのが聞こえ、ボクはというと痛みも何もなかった。

不思議に思い目を開けると、ボクの顔をすれすれで背後から見覚えのある細い剣がグレアに向かっていた。

ただ、刃先はグレアを貫くことはなく、グレアの首をかすめただけだった。

「口を閉じてろ。飛ぶぞ」

不意に横から声がしたと思うとそのまま腰を担がれ、一瞬で景色が歪んだきがした。気づくとグレアとの間にかなりの距離ができていた。

ボクがいた場所には小さな魔核石と、地面に拳をめり込ませたグレアが映った。

ほんの僅かな差で、グレアの拳を交わしていたのだ。

まともに当たったらきっと、全身の骨が粉々になったかも知れない…

ホッと息を吐くと、視界に薄い水色の長い髪がなびいた。

「イザナ…」

ボクは彼の名を呼び顔を上げると、彼は口の端を少し下げボクをそっと降ろした。

そして踵を返し細い独特な剣をグレアに向け、イザナはボクに見せた表情とうって変わって、ニヤリと不敵にわらった。

「よぉ。やっと見つけたぞ。

オレから受けたキズはもう治ったかい?

しっかし、でかい図体のわりにはかくれんぼが得意だな。お前の魔核石を持てばかくれんぼの王者になれそうだ。子供が喜ぶぞ?」

「相変わらず口の減らないハンターだ。

…だが、残念だったな。また仕留め損ねたぞ。」

「安心しな…今回こそ石にしてやるよ。」

そう言い、イザナはグレアの懐へと瞬時に入り込んでいった。

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