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最果ての地へ  作者: いらは
マヨイノモリ編
14/14

マヨイノモリ5-4

 ─イザナ─

 また、誰かが自分の名を呼んでいる。

 そう思い目を開けると、シャナが泣きそうな顔でイザナの名を呼んでいた。その顔を見てイザナは軽く息を吐くように、泣くな生きている、とつぶやいた。

 イザナが意識を戻し、その声を聞いた途端、シャナの目からは堰が切れたように涙が溢れだし、彼女は慌ててその涙を拭いた。

「だって、目が覚めたら誰もいないし、イザナは倒れているし、変な色の魔核石はあるしで、何が何だか分からなくて…」

「換金所で聞いた魔族の仕業だ。」

 イザナは体を起こそうとしたがまだ力が入らず、そのままシャナとの会話を続けた。

「幻覚や夢を見させ、気づかないまま捕食する。誰もこの魔族から逃れる事が出来ずにいたようだな。たまたま討伐できたから良かったが…」

「夢…」

 シャナはポツリとつぶやき、顔を赤らめイザナから視線を離した。イザナは気にもとめず、先程の魔核石を見つめた。軽くため息をつき、自分もアレが夢なら良かったんだがと思い、魔核石を握った手をおろした。

 ふと、魔族が言った事を思い出した。記憶が無い部分と半分の力。魔族との間に生まれたとすれば、力が半分なのは当たり前と思っていたが、それとはまた違った意味なのだろうか。

 そして、最後に見たあの魔人族は何者だったのか。イザナの記憶にはない姿だったが、魔族の言う『あの人』があの魔人族だったとすれば、なぜ奪われた力を戻したのか。

 今、考えた所で答えは出そうにないと思い、少し回復した体を起こそうとした。俯いていたシャナが慌てて手を貸し、イザナを起こすのを手伝いながら申し訳なさそうに喋った。

「ありがとう…また助けてくれて。あんな風に一方的に言い放ったのに…」

 シャナの手を借りながら上体を起こしたイザナは、座ったまま服の砂埃を払いシャナを見た。

「…そうだな。訳分からん事を一方的に言い放って、勝手に飛び出して…それでお前は、これからも一人で旅をするつもりか?」

 その言葉に、シャナの体が強ばったように見えた。俯き黙り込むシャナに、そのままイザナは言葉を続けた。

「お前が一人で行くと言うのなら止めはしない。だが、お前がまだオレと共に旅をしたいなら、オレは…オレは、契約解消と思っていない。」

 その言葉を聞き、俯いていたシャナは顔を上げ、思わずイザナを見つめた。

 イザナはまだ、自分と一緒にいることをゆるしてくれる。それが契約義務からだとしても、嬉しく思うシャナがいた。

「また一緒に旅をしたい。最果ての地へ、イザナと一緒に向かいたい。」

 イザナの目を見つめ、少し泣きそうな表情でシャナは微笑んだ。イザナはその表情に、戸惑いを覚えながら視線を落とした。どんな感情から来ているのか分からずにいたが、イザナはその思考を払うかのように軽く首を振った。

「これからも共にと言うのなら、先に見習いを卒業してしまわないとな。その前に…手を出せ」

 イザナは、小さなカバンから何かを取り出し、言われるがまま手を出したシャナの手に、取り出したものを乗せた。

「コレは?」

 シャナの手には魔石が付いた髪留めが置かれていた。不思議そうな顔で、手に置かれた髪留めとイザナを交互に見た。

「解消しようが一緒だろうが、渡すつもりだった。髪色を変えられるアイテムだ。ただし、色は決められない。」

 なぜ、これを渡されたのか理解していないかのような表情のシャナに、イザナは少し眉間に皺を寄せ話しを続けた。

「次に行く土地で、その服装は目立つ。これからは好きな格好をすればいい。その代わり、サガミアとこの後合流だ。」

 シャナはサガミアの名を聞き、豪快に笑う彼女の姿が浮かんだ。そして、彼女の名をつぶやきうつむいた。その姿を見てイザナは、ため息混じりに話した。

「その装飾品は、サガミアから譲って貰った物だ。その代価として一緒に任務をする事となった。お前がどう思っているかは知らんが、アイツは単なる戦闘狂だ。常に強い者を追い求めているだけで、オレとアイツとはなんの関係もない。」

 そう言われたシャナは手を目の前で振り、別に嫉妬とかじゃなくて、と慌てて喋った。だが、手を振るのをやめ、その手で自分の顔を隠し、消えそうな声で喋った。

「ううん…嫉妬してた…だって、ボクの知らない話しばかりだし、ボクの知らないイザナを知っていたし…」

「…アイツは特殊な魔石持ちだ。言っていただろ?目に魔石を着けていると。あれは物の違和感を見つける。それに加えアイツは野性的感が鋭いからな。任務の時は良いが、あの性格は合わん。」

 そう言ったイザナは、少し困ったような表情で眉間に皺を寄せていた。そんなイザナを見て、今朝までシャナの中にあったモヤモヤが晴れた気がした。


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