表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最果ての地へ  作者: いらは
マヨイノモリ編
12/14

マヨイノモリ5-2

 何も纏っていないシャナの姿となった魔族は、口元に笑みを浮かべた。その笑みは、彼女が普段見せる温かみに満ちた笑顔とは対照的で、冷たく、無機質なものだった。その表情を見て、イザナは何故か嫌悪感を覚えた。

「記憶を読み取り、姿を変える割には貧相な表情だな。どういう理由でその姿になったか知らんが、たとえその姿だろうと無機質なのとヤる趣味はない」

 魔族は怒ることも悲しむこともせず、変わらずイザナを見つめ、彼の顔を撫でながら語り始めた。

「理由は、ただ特別な存在。あなたは、この姿の者を無意識に特別と思っている。だから、私はこの姿になった」

 シャナの姿をした魔族は、貼り付けた笑みのまま、イザナの頬、唇と指を這わせていく。イザナは首を振り、その手を払いのけた。魔族は払われた手をみつめ、首を傾げた。

「特別?違うな。今まで一緒にいる時間が、他のやつより長いだけだ。それ以上でも以下でもない。」

「焦らないで…この姿の者は深い眠りについている…己が望む甘い幸せな夢を。だから、目を覚ますことは無いの。」

 そう呟くように言い、再びイザナの身体に手を這わした。身体を触られ、イザナは不快な表情で魔族を睨んでいた。

「人間はその気はなくても、快楽というものに従順だとわかったの。それさえ与えれば素直に何もかも手放した。」

 ─だから、あなたは何もしなくてもいい─

 顔を近付け、イザナの唇に触れようとする。イザナは頭を後ろに逸らし、勢いをつけ魔族の頭に自分の頭をぶつけた。ぶつけられた魔族は、驚く事もなく顔色を変えずイザナを見ていた。その表情に余計苛立ちが募っていく。

「その姿で欲情などするか。全ての人間が従順だと思うなよ?今すぐその姿を変えろ。虫唾が走る。」

「私はただ愛して欲しいの。完璧になった姿で私を愛して欲しい…」

 魔人族とも言いがたい奇妙な魔族が、愛して欲しいと願う。発せられた言葉に、イザナは驚愕した。

「愛?魔族のお前が、愛というものがわかるのか?それは今まで食らった人間の思考で、お前から生まれたものではないだろ」

「いいえ、最初からあったわ。【私】が目覚めたときから。人間を取り込んでいくうちにこの感情が【愛する】というのを知った。」

 そう言い、魔族の姿がイザナの髪色に似た、青みがかった長髪の灰色の目をした女性へと変わった。出会った時から同じ髪色と魔族が言っていたが、イザナはこの女性に見覚えはなかった。

 そして、その女性の格好は聖職者であるように見えた。旅をしながら討伐をしてきたイザナだが、この服装はどの国でも見た事がなかった。

 魔族と聖職者という相反する者がどのような関係なのか、不思議に思った。

「私を作ったあの人は、この人間を好んでいた。アナタと同じ力のあノ人は…人間を…憎んで愛していた 。だから、私は憎んだ人間を取り込んで、あの人の望みになりたい。」

 憎んで愛して?どういうことだ?オレと同じとは─イザナが問いかけようとしたが、ツタが髪に絡み、頭部までも他の部位と同じように固定され、今まで以上に身体の自由を奪われた。魔族は、動けないイザナに覆い被さるように身体を近付けた。

「あの人と同じ力…そして、あの人が好んだ色。アナタはどっちも持っている」

 顔をのぞき込むように見つめながら囁き、無表情のまま唇を重ねた。その直後、身体から何かを抜かれる感覚に襲われた。今までの体力を奪われる感覚とは違い、なにかが引きずり出されるような、不快な感覚がイザナの全身を襲った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ