マヨイノモリ5-1
両手両足をツタに縛られたまま、自分の体力が無くなるまで魔族の動きはないと思い、静かに待っていたイザナだったが、何かが自分に近づいてくる気配を感じた。
霧で霞んでいた視界はいつの間に晴れ、イザナは重い体で音がする方を見ると、その何かは人のようだった。だが、近づくにつれ"それ"はツタのような木の枝にも似たものが、人と同じような構造形を作っていた。半身の所々に人の皮膚のような膜が見え、頭髪とも思えるようなツタは魔族の力を表す禍々しい赤が半分を覆っており、今まで見たことの無い種類の魔族だった。
「アナタを探していた。ヤっと逢えた。」
魔族はそう言いながら、引きづるような、ぎこちない歩きでイザナの側へと寄ってきた。その声は、この場へ着いた時に聞こえた不思議な声と同じだった。まさか植物みたいな魔族が、自分を探しているとは想像もつかずにいた。
「悪いが、オレはあんたを知らない。人違いだろ?」
「アナタよ…その髪色…そしてアの人と同じ力がアナタの中に感じる」
魔族は見下ろしながらイザナの髪を撫で、頬に手を這わせた。這わされた手からは、血の通う温かみは感じられなかった。魔族はその手で、イザナの頬を撫でながら喋り続けた。
「アナタが欲しいの。アの人と同じモノを持っているアナタと交われば、わタシはアの人が求める完璧に生まれ変わル」
「どういうことだ。何を言って─」
魔族はしゃがみイザナの心臓近くに手を置き、どこを見ているか分からない瞳でイザナを見つめた。
「アナタと同じモノがワタシを作った。アナタの中にあるその力で…でも、その力だけじゃダメ。ワタシがカンペキになるには本物がヒツヨウ。あナタのものが欲しい」
と、魔族は続け、胸に置いた手でイザナを押した。体力を奪われた体では抵抗出来ず、手足のツタにも引っ張られ地面へと倒された。そして、その上へと覆い被さるように魔族が這い寄ってきた。
イザナにまたがり、顔を両手で触る魔族は、表情のない顔で喋り続けた。
「アナタと交わり、種を宿す。そうしてワタシは、アの人が求める完璧に産まれ変わる」
頬から首筋、そして胸元へと撫でながら移動した手は、イザナの服を脱がせていこうとする。
この魔族が語る「あの人」という存在。そして、この魔族自身が生み出された経緯。この魔族が追い求める「完璧」とは何かは理解できない。だが、魔人族ではないこの魔族は、イザナとの交わりによって、完璧な存在へと生まれ変わることを信じている。
イザナ自身が魔人族との間に生まれた存在であるため、異種族で命が宿る可能性を否定することはできなでいた。
だが、この魔族の望むことには従うつもりはない。
「悪いが、そう言う事に興味は無い。子作りなら他を当たってくれないか?」
その言葉に魔族は人ではあり得ない角度に首を傾げた。
「人を取り込んで分かたことがある。それぞれ希望する形があると。アナタが望むものは…?」
魔族が言葉を発すると同時に、その姿は変化し始めた。この魔族は記憶を読み取り、変身することができるようだった。次々に見た事のある姿に変え、その中にサガミアもいた。
「いくら姿を変えようと、その気はないと─」
「そう…コレが好みなのね…」
その言葉に思わずイザナは息を飲み、言葉を失った。
目の前に映る姿は鮮やかな赤い髪をした─傍に横たわっているシャナの姿だった。




