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4話 ゴブリンたちとの戦い、始まる

 村では普通に歓待された。


 なんだかんだ言っても、魔剣士だって冒険者であることに変わりはない。


 一般人にとってはゴブリン族だって脅威だ。しかしそんな連中を討伐するのが冒険者の生業なりわい。そしてそれは魔剣士にも可能である。相手次第だが。


 村人たちは尊敬とわずかに畏怖が混ざった瞳で俺たちのことを見ていた。


 でも他の冒険者たちからは哀れみや嘲りの目を向けられるんだよなあ……。


 ねえ村人さんたち、信じられる? 俺たちって普段はクソザコ扱いなの。肩身が狭いの。


 ああもういっそこの村で暮らすか。そうすればずっといい気分でいれそうだ。


「がんばってー! おにーちゃんたち!」


 そんな後ろ向きな思考に支配されつつあった俺のことを知ってか知らずか。


 小さな子どもが手をぶんぶんと振って、今からゴブリンの住処へと向かう俺たちを見送ってくれる。


 仲間たちの表情もどこか誇らしげだ。あのおっさんですらその表情に少しだけ力が宿っている。ああ、そんな顔もできたのだな、おっさんよ。


 俺は振り向いて笑顔で拳をつきあげ、声援に応えた。


 そして憧れの視線でこちらを見つめるその子に対し、そっと心の中で言葉を投げかける。


 もし冒険者に憧れても魔剣士にはなるなよ? 絶対だぞ?


      ◇


「そろそろ敵地か。やっぱりワシ、サポートにまわっていい?」


 先ほどは少し活力が戻っていたように思えたおっさんだったが、いつのまにか怠惰で無気力な雰囲気をあたりにまき散らしていた。あんたのやる気はほんの一時いっときも持たんのか?


「最初の打ち合せどおり、あんたはホブゴブリンを優先的に対処することを心がけてくれ。トーメに複数のホブゴブリンが近づくと厄介だしな」


 怒りを押し殺しながら、おれはおっさんことヤムロイに指示を出した。おっさんはやれやれと言いたげにトーメに視線を向ける。


「しかたないねえ……トーメくんがワシくらい強けりゃ良かったんだけどねえ?」

「す、すみませんヤムロイさん」


 黙れおっさん。総合的なレベルの数値はトーメと互角だろうが。


 トーメ、お前もこいつの言うことは真に受けなくていいぞ。年齢的に考えればお前のほうが遥かに優秀だ。


「じゃ、予定通り私がサポートするね。ゴブリン程度なら支援しながらでもさばけるから、ある程度はこちらにまわしてくれても構わないよ」


 まったく気負いのなさそうなルビィが言う。ルビィにとってはゴブリンなど物の数ではあるまい。


「ぼくもただのゴブリンくらいなら平気です。剣術でも魔法でも戦えます」

「分かった。まあホブゴブリンはきちんと抑えておくから心配するな。後ろに抜けたゴブリンはトーメに任せるぞ」

「はい」


 トーメは強くうなずいた。やる気満々といったところだ。


「ククク……われが敵陣にファイアーボールをうちこみ、始まりの狼煙としよう。任せておくがいい」


 いつものように尊大かつ芝居がかった言動のモルグナン。


 最終的に、モルグナンには攻撃魔法メインで行ってもらうことにした。戦士としての力量もあるが、やはりその黒魔法スキルを最大限に活かしたい。


 魔剣士のスタンダードな装備は片手剣と盾。鎧は軽めのものを好む。


 俺たちも全員がその基本を踏襲した、似たような恰好だった。さすが魔剣士パーティーだ。


 ようやくゴブリンたちが住処にしている廃砦が見えてくる。俺は皆に一度足を止めてもらい、4レベルの白魔法、ディテクトを使って周囲の敵を探知した。一匹たりとも逃がすわけにはいかないからな。


 ディテクトのおかげで敵の配置が分かる。数はざっと数えても四十体はいる。ただし、この魔法ではそこまで詳しいことは分からない。少なくとも大型の魔物がいるということはなさそうだが。


 上位の魔法なら敵の位置だけでなく詳細な種族や状態なんかも分かるのだが……。


 まあ無いものねだりをしても仕方がない。俺は敵の配置をルビィたちに伝えた。


 ロード種がいるとはいえ、まともに戦えばゴブリン程度に負けることはない。俺たちは打ち合せ通りに動き始めた。


      ◇


「ファイアーボール!」


 モルグナンが魔法で生まれた火球を撃ちこみ、宙で爆発したそれが砦の前にたむろしていたゴブリンの集団を焼き払った。


 不意をつかれたゴブリンたちは慌て、騒ぎはじめる。一部のゴブリンは朽ちた砦の中に襲撃を知らせる叫びをあげた。


 効果時間が切れて再びかけなおしたディテクトが、敵の動きを知らせてくれる。どうやら中にいる連中も、俺たちが襲撃した砦の入口の方にそのまま向かってくるようだ。ありがたい。

 逃げられた時に誰が追いかけるかといった行動は決めていたが、あちらから向かって来てくれるほうが楽だ。普通に戦えば勝てる相手だしな。


 俺たちはまず外で騒いでいた連中を真っ先に片づけた。そして砦の中には突入せず、野外で待ち受けることにする。それならモルグナンも大がかりな魔法を撃ちやすい。


 ……つっても、魔剣士が使える攻撃魔法なんて、さきほどのファイアーボールが最強なわけだが。


 砦の内部からこちらへと向かって走ってくるゴブリンたち。それに大柄のホブゴブリンの姿も見える。ホブゴブリンは鈍足なほうだが、ゴブリンたちはホブゴブリンに足並みを合わせて駆けてくる。


 さすがにホブゴブリンをトーメのそばに近づけるわけにはいかない。それとルビィにもな。


 俺はヤムロイ(おっさん)と共に前へとでた。俺たちの剣にはそれぞれ強化の魔法がかけられている。トーメに黒魔法を使ってもらったのだ。


 魔力で淡く輝く剣を手に、俺は突っ込んでくる敵たちに注意を払った。隣に並ぶおっさんも、さすがに構えは様になっている。


「ルビィちゃんはワシが守ってあげないと。そしたらきっと……」


 おいおっさん今小声で何て言った。まさかその年でルビィにちょっかいかけるつもりか? あきらめろ。万に一つも可能性はないから。


 ちょうどその時、後ろからルビィの詠唱と魔法の完成を告げる声が響く。


「シールド!」


 言葉とともに、俺とおっさんの体が一瞬、青白い光に包まれた。ここからでは見えないがトーメも魔法の対象になっているはずだ。初歩の白魔法だが、敵の攻撃の威力をやわらげる効果がある。ゴブリン族相手なら十分な効力があるだろう。


「頼むね!」


 後ろからかけられたルビィの言葉に、俺は前を見据えたまま頷いて応えた。


 やがて外に出てきたのはホブゴブリンが三体。あとはゴブリンが五体。ゴブリンたちは明らかにトーメに狙いを定めている。


 数の多いゴブリンたちがトーメに一斉に襲い掛かったら少々やっかいかもしれないが……。


「アースブレイド!」


 想定通り、後ろで控えているモルグナンが再び黒魔法を使う。地中から飛び出てきた土の刃が複数のゴブリンをまとめて切り裂いた。範囲に入ってなかったゴブリンは無傷だが、あれはもうトーメに任せても大丈夫だろう。


 とりあえず俺とおっさんでホブゴブリンを始末すれば、この場はしのげたと言えそうだ。


 先頭のホブゴブリンがこん棒をふりあげた。ホブゴブリンはゴブリン族の中では最大の大きさだ。その力はゴブリンロードすら上回るだろう。


 しかし、俺の相手をつとめられるような戦技は持ち合わせていない。


 目の前の敵がこん棒を振り下ろすより先に、俺の戦士スキルが発動していた。


 素早い二連撃がホブゴブリンの胴を横に往復する。ダブルスラッシュだ。


 俺は手ごたえを確信し、ホブゴブリンはこん棒を俺に振り下ろすことも叶わずあっさりと地面に倒れた。すぐに絶命するだろう。


 隣ではおっさんがホブゴブリンのこん棒を盾で受けたようだ。まあ腐っても3レベル。一対一で不利になることはあるまい。


 ちらりとトーメの方に視線を向けたが、さっそくゴブリン一体を剣で始末するところだった。あちらも問題なさそうだ。


 俺の敵はまだ残っている。仲間の死体を乗り越えて向かってこようとしているもう一体のホブゴブリンに意識を集中した。


 自分の前の奴がやられる様を見ていたからか、こいつは大きく振りかぶることなく、こん棒を前に突き出しながら突っ込んできた。タックルといったところか。


 ホブゴブリンにしては良い動きだと思うが、さすがにそれくらいでやられる俺ではない。


 慌てず身をそらし、すりぬけざまに足を切り裂いた。よろけた相手が立ち直る機会を与えず、俺は後ろからその首を打ち払った。


 瞬く間に二体のホブゴブリンを屠った俺。ちょうどこちらを見ていたルビィと目が合ったが、その瞳には賞賛が込められているように思えた。ああ、なんか久しぶりだわこんな気持ち。


 しかし近くで響いた剣戟の音に俺はふと我に返る。まずいまずい、まだ戦いのさなかだったな。俺はおっさんの方を振り向いた。


 ……おいおっさん。あんたなんでホブゴブリンに苦戦してんだ。戦士スキルが3レベルもあるなら比較的楽に勝てる相手のはずなんだが? なぜところどころ傷まで負ってる?


 ちなみにこの時点で、トーメはすでに残ったゴブリンを始末していた。


 俺はおっさんに助太刀しようか迷ったが、ようやくおっさんの剣がホブゴブリンの心臓を貫いた。絶命し、地に倒れ伏すホブゴブリン。


 目の前の敵に勝利したおっさんは『ねえねえ見た? 今の見た?』といった感じのドヤ顔を俺に向けてくる。


 傷だらけになっておいてなんでそこまで自信満々になれるのか分からないが、まあ一対一で倒したことくらいは褒めておいてやる。心の中で。


 ひとまずこの場は勝利したが、ディテクトの効果がこっちに近づいてくる新たな敵の存在を知らせてくれる。そろそろゴブリンロードもお出ましになるかもしれない。俺は皆に注意を促した。


 そしてトーメにおっさんの手当てを指示する。白魔法の一番初歩である回復魔法、キュアウーンズをトーメが唱えた。


 たちまちおっさんの体につけられた傷が癒えていく。傷はそこまで深くないようだし、これで十分だろう。


 しかしなにやら不満そうにつぶやくおっさんの声が俺の耳に届いた。


「ルビィちゃんに回復してもらおうと思ったのに……」


 あんたまさかそのためにわざと怪我したんじゃないだろうな?


 疑念は尽きなかったが、さすがにそれを問いただす暇はない。ゴブリンロードが出てきた時の為にメンバーの配置を入れ替えることにした。少なくともこのおっさんがロードとやりあったらまずいことになりそうだ。

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