3話 魔剣士パーティー、討伐依頼を受けて出発する
受けた依頼はゴブリンロードが率いるゴブリンの群れの掃討だった。近隣の村の側にある打ち捨てられた砦に住み着いたゴブリンたちが、村に対してちょっかいをかけ始めているらしい。その被害が大きくなる前に依頼が来たようだ。
ゴブリンの群れを構成するのは王であるゴブリンロード、大きな体と怪力が自慢のホブゴブリン、そして雑兵のような扱いのゴブリンだ。
ゴブリンロードはすぐれた剣技と一部の黒魔法を使う、未熟な冒険者にとっては強敵と言える存在だ。こいつをあっさりと倒せるなら中級者を名乗っていいかもしれない。
ホブゴブリンもその怪力によるこん棒の一撃は強烈で、駆け出しには少々きびしい。ただのゴブリンは戦士スキルが1レベルあれば基本的に負けることのない相手だが。
俺がこの依頼を受けた理由は、パーティー全員に役どころを見つけられそうだからだ。
この依頼なら最年少でまだレベルの低いトーメだって活躍の機会がある。さすがにゴブリンロードには手も足もでないだろうし、ホブゴブリンにも苦戦するだろうが、ただのゴブリンならすでにあいつにとっても雑魚のはずだ。
……ヤムロイも戦士スキルのレベルだけは3あるし、ホブゴブリンの相手でもしておいてもらおう。
戦士レベルが4である俺はゴブリンロードに遅れをとることはまずない。俺と同じ戦士レベルのモルグナンもだ。この二人でロードをはじめとした敵の精鋭連中を抑える。もしくはどちらかが黒魔法に専念して雑魚どもを一掃するか。
白魔法スキルが最大レベルであるルビィには基本的にサポートにまわってもらおう。もし敵がルビィを狙ったとしても、あいつの戦士スキルは3レベルだからロード以外ならどうとでもなる。いざとなれば俺だって回復支援は可能だ。
お、完璧じゃね? 魔剣士パーティーって実は強くね?
……と自分でも勘違いしてしまいそうになるな。
改めて言うまでもないが、もちろん今回の討伐対象であるゴブリン族があまり強くないだけだ……。
俺と同じ時期に冒険者になった連中は、もうゴブリン族相手の依頼なんてとっくの昔に卒業している。俺が大苦戦するオーガだってひとひねりだろう。ひょっとするとドラゴンや上級魔族を倒せるようになった奴だっているかもしれないな。
あ、いかん。悲しくなってきた。
俺は頭をふって暗くなりはじめた思考を追い出し、組んだばかりの仲間がいるテーブルに戻った。皆が俺に注目する。
「依頼を受けてきたぞ。内容はゴブリンロード率いるゴブリンの群れの掃討だ」
再び席についた俺は、依頼の詳細をざっと仲間たちに説明した。ゴブリン族は冒険者にとってはよく出会う相手だ。トーメはゴブリンロードだけはまだ見たことがなかったようなので、特徴をもう少し詳しく解説してやった。
「ゴブリンロードとその群れの掃討ね……うん、分かった。何度も戦ったことあるし、任せておいて」
依頼の内容について伝えた時、ルビィは一瞬だけちょっと残念そうな顔をしたが、すぐにその表情を打ち消してうなずいた。
やっぱりもっと上級の依頼を受けたいんだろうなあ……経験だけならすでに専門職の6レベルに相当するはずだからな、ルビィは。
おっさんは明らかに嫌そうな顔をしていたが、もちろんルビィのような向上心があるわけじゃなくて、ただ単に仕事をするのが面倒なだけだろう。おっさんが気乗りしない顔のまま口を開く。
「ワシ、ゴブリンの相手だけしててもいい? あっ、よく考えたらワシ白魔法得意だし、後ろでサポートにまわってもいいかな?」
黙れおっさん。何が白魔法が得意だ。あんたはかろうじて3レベルある戦士スキルでホブゴブリンの相手でもしていろ。
報酬を五等分にすると書いたのは失敗だったかもしれない。俺が内心歯噛みしているとモルグナンが椅子の上でふんぞり返る。
「フハハハハハハ! ゴブリンどもなど我の剣術、もしくは黒魔法で粉砕してくれる!」
モルグナン、頼むから大声を出すな。変な身振りをするな。お前の言動は俺から見てもちょっと痛い。ただ戦力としては期待しているぞ。
「ぼくも足を引っ張らないように頑張りますね! ……本当に久しぶりです、こういうの!」
トーメは目をキラキラさせて俺を見た。なんだかまぶしい。
お前もいつか俺のようにやさぐれたり、おっさんのように堕落しちまうんだろうか。
そんな未来がやってこないことをわずかに願いつつ、俺は先ほど考えた戦闘中の行動方針を皆に伝える。
全員、不満はなさそうだった……おっさん以外は。
楽したいとごねるおっさんを適当に言いくるめ、俺は仲間たちに準備を整えるように指示した。
支度が終わったらすぐにでも出発するとしよう。
……しかし俺がリーダーか。果たしていつ以来だろうな。