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最終話 最高の仲間たち

 あれから結構な月日が経った。


 そしてその間に、俺はかつての仲間たちの消息を知ることになる。


 まずはヤムロイ(おっさん)についてだ。


 おっさんからの手紙で知らされたのだが、実家がどうやら豪商らしくてその商売を継いだとのこと。


 あの怠惰な言動は金持ちの余裕の現れだったのかもしれない。手紙の最後に『ハルト君も路頭に迷いそうになったら訪ねてきてよ。従業員として雇ってあげるよ』と書かれていたのを見た時、あやうく破り捨てそうになった。


 くやしいので『余計な心配をするな。俺は魔剣士として立派にやっている』と書きなぐった手紙を送りつけてやった。


 続いてモルグナン。


 モルグナンも魔剣士として冒険に出ることはなくなり、今は隣の街で演劇役者として活躍しているらしい。あいつの尊大な口調としぐさを思い出す。きっと舞台の上でもあんな感じで喋っているに違いない。


 ちなみに演劇の中で元魔剣士としての剣技や簡単な魔法を活用し、舞台をおおいに盛り上げているとのこと。少し前、現況を知らせる手紙とともに優先入場券が届いた。残念ながらまだ観には行っていない。


 トーメは一人で旅をしている時、魔物に襲われている村を助け、その時に出会った村の娘と結婚して村に永住することを決めたそうだ。結婚を知らせる一文と共に二人の肖像画が入った包みを受け取った時は、正直ちょっと羨ましいと思った。絵に描かれていた相手の娘もかなり美人だったし。


 まあ、世界を救うような英雄にはなれなくとも、小さな村を救う英雄にはなれるのだ、魔剣士は。


 そして俺についてだが……。


 今日、いつものように定番のパーティーから追放されて、一人さみしく料理と酒を楽しんでいる最中だ。


 もう何度目の追放かも分からない。下手をしたら追放された回数は百を超えているかもしれないな。


 だがもちろんこの程度でへこたれるような俺ではない。これからも魔剣士として生きていくと、あの日改めて誓ったのだから。


 俺が作った魔剣士パーティーはすでにない。でも魔剣士だけでパーティーを組んだことも、初めての依頼でゴブリンロードを倒したことも、少し背伸びをしてレッサーオーガと死闘をしたことも、そしてあの上級魔族相手に何もできずに絶望していたことさえ、俺にとっては大事なかけがえのない思い出だ。


 他の戦士や白魔法使い、黒魔法使いといった連中と組んだ時には、決して味わうことのできなかった充足感があった。魔剣士だった最高の仲間たちとともに戦った記憶は決して色あせるものではない。


 だから今一人さびしく飲んでいる酒も決してやけ酒ではない。そう、やけ酒ではないのだ。


 杯の中身を飲み干した俺はおかわりの催促をする。


 新たな酒が届くまでのわずかな時間、目の前の肉料理を味わいながら、未だに消息が分からないもう一人の仲間のことを思い出す。


 はたしてあいつはどこで何をしているのか。


 まだ魔剣士として冒険者を続けているのだろうか。


 それとも別の生きる道を見つけられたのだろうか。


 それとも……。


 ぼんやりとそんなことを考えていた俺の側に人影が立った。


 酒のおかわりが届いたのかと思ったが、そんな動きも見せずにじっと立ち尽くしたままだ。


 俺はそちらへと顔を向ける。そしてしばらくの間、体も思考も凍り付いた。そこにいたのは……。


 目の前にいる人物はためらいがちに唇を動かした。


「……今、何をやってるの?」

「……つい先ほど、パーティーを追放されたところだよ」

「そう……じゃあ、私を二人目の仲間にしてくれない? ……魔剣士として」

「ああ、いいぜ……」


 俺は一旦口を閉じる。そして笑顔と共に新たな言葉を紡いだ。


「おかえり、ルビィ」

「……ただいま、ハルト」






 魔剣士というクラスがある。


 そして俺はその魔剣士という道を選んだ。


 かつてそのことを猛烈に後悔したこともあったが、今では魔剣士というクラスに誇りを持っている。


 なぜなら、魔剣士パーティーとして組んだ仲間たちと過ごしたあの短い日々が、俺にとって一番の宝物となったからだ。


       ――終わり――

これにて完結となります。

最終話まで読んでいただきありがとうございました。

無双やチートといった言葉とは無縁の物語でしたが、いかがでしたか?

面白かったという方もつまらなかったという方もそれぞれいらっしゃると思いますが、評価ポイントや感想等をいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 皆の心が折れて自然解散的に別れてしまったけれど、それぞれがそれぞれの道で生きる場所を得たのがとても良かったです。 まさかのヤムロイが追いかけてきて合流のシーン、絆を感じて感動しました。 …
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