お米の冒険
童話を書いてみたいと思っていたので、ちょうど良い機会かと投稿しました。童話っぽくならなくてかなり試行錯誤しましたが、読んでいただけると幸いです。
山の向こうに太陽がさよならする、そんな時間。今日もどこかの台所から、トントン♪すてきな音がする。野菜を切っているのかな?
今日のメニューはなんだろう。とろ~り♪チーズの洋服を着たハンバーグ?それとも、コトコト♪お鍋のお風呂に入ったシチュー?
台所のあっちからも、こっちからも、色んな音が聞こえてきて、まるでオーケストラのよう。あれあれ?また違う音が聞こえてきたよ。
ジャッ ジャッ ジャッ ジャッ♪
ジャッ ジャッ ジャッ ジャッ♪
これは何の音かな?
あぁ、お米を洗っているんだね。
ジャッ ジャッ ジャッ ジャッ♪
ジャッ ジャッ ジャッ ジャッ♪
水を変えるときは、ゆっくりゆーっくり、気を付けないと、
あぁ!!
お米が1つこぼれちゃった。こぼれたお米は、水で流されて流されて。細くて真っ暗な道(水道管)を、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
ぐーるぐ~る♪ごっつんごっつん♪
ぐーるぐ~る♪ごっつんごっつん♪
ちゃぽんっ♪
細い道の次は、大きな道(下水道)に出たようだけど、相変わらず真っ暗。また、流されて流されて。
ふーらふ~ら♪ゆらゆらゆらゆら♪
ふーらふ~ら♪ゆらゆらゆらゆら♪
そんなお米を見付けたねずみくん。
「おーい、お米くん。そんなに急いでどこに行くの?」
「別に急いでるわけじゃないさ。探し物を見付けるために、
流れに身を任せているのさ。」
「探し物って?」
「それは秘密さ。」
「そっか。早く見付かるといいね。よい旅を!」
「ありがとう。」
ねずみくんと別れてどのくらい経っただろう。遠くの方が何やら明るく光っているみたい。
「あれはなんだろう。」
どんどん光が近付いてきて、流されているだけのお米は、あっという間に光に飲み込まれちゃった。
「うわぁ……!!」
眩しすぎて目を閉じてしまったお米が目を開けると、これまで暗くてほとんど黒一色だった世界から、一面の青、青、青の世界。
見渡す限り雲一つない真っ青な青空、どこまでも広がっていそうな海、きれいな魚も泳いでいる。あまりの美しさにお米は、しばし言葉も忘れてボーッと。
どれくらい時間が経っただろう。お米は探し物をしているのを思い出し、波の行くまま気の向くままに。またまた、流されて流されて。
チャプチャプチャプチャプ♪スッスッスー♪
チャプチャプチャプチャプ♪スッスッスー♪
そこへ今度はうみどりくん。
「おーい、お米くん。そんなに急いでどこに行くの?」
「別に急いでるわけじゃないさ。探し物を見付けるために、
流れに身を任せているのさ。」
「探し物って?」
「それは秘密さ。うみどりくんは何をしているんだい。」
「ぼくは、寒くなってきたから、向こうの島へ引っ越しさ!」
「そっか。気を付けてね。」
「ありがとう。君も早く探し物が見付かるといいね。
それじゃ、また会おう!」
「またね。」
うみどりくんと別れたお米は、またまたまた、流されて流されて。あまりの波のリズムの心地よさに、いつの間にやら、うとうとうとうと……。
「何だかおいしそうな白い食べ物だな。それじゃあ、
いただきまーす。」
ガリッ!
「痛いっ!」「固いっ!」
かじられた痛さで飛び起きたお米。目の前には、きれいな赤い鱗の魚が歯をおさえながら、にらんでいる。寝ている間にご飯と間違えられて、食べられそうになったみたい。
「ぼくは食べ物じゃないよ!」
と少し怒りながら言うお米。かじられたのが相当ショックだったみたい。
「紛らわしく漂ってんじゃねぇ。」
こちらも、歯が相当痛かったのか、乱暴に言う赤い魚。
「食べ物じゃないなら、こんな海でぽつんと一人、
何してるんだ?」
疑わしげにお米に尋ねる。
「ぼくは、探し物をしているんだ。」
「探し物だとぉ?何を探してるんだ?」
やはりお米のことを疑っている様子の赤い魚。
「言いたくない。秘密なんだ。」
探し物のことを、頑なに話そうとしないお米。
魚もどんどん意地になってきて、
「教えてくれるまで、お前のそばを離れない。」
なんて言い出した。
このときから、一粒と一匹の奇妙な旅が始まった。すぐに飽きてどこかへ行くかと思いきや、風が強い日も、嵐が来ても、赤い魚はついてきた。時にはけんかをし、時には協力して旅を続けたお米と魚は、いつの間にか仲良くなっていた。
お互い、この旅が楽しくなり、いつまでも続けばいいなと思い始めていたある日、
「とうとう見付けた!」
遠くの島を見たお米が興奮した様子で言った。
「何を見付けたんだ?」
「ぼくの探し物さ。」
「何を探してたんだ?」
「……ぼくの、居場所さ。」
水に流されたあの日から、お米はずっと自分の居場所を求めて探し続けてきた。そして、とうとう納得のいく場所を見付けたのだ。そしてそれは、旅の終わりを意味していた。
「ずっと食べようと思ってたのに、結局食べられなかった。」
さみしさからか、そんなことを言う魚。
「君がいてくれたから、ぼくはここまで来られたんだ。
ありがとう。」
お礼の気持ちを伝えて、お米は島へ向かった。
長い道のりを冒険し、たくさんのことを経験したお米は、すくすく元気に育って、黄金色の強くて立派な稲穂になりました。暖かい島の片隅で、今も一面黄金色した稲穂が、風に吹かれてうれしそうにサラサラ揺れているそうな。
赤い魚のパートは、ないほうがテンポ良かったかな?