6話
「お兄ちゃんは洗濯機を回して。私は食洗機をつけるから」
「はいよ」
俺は家族全員の洗濯物を魔法を使うことなく自分の手で入れる。うちの洗濯機は縦型で上まで持ちあげないと入れることが出来ない。かなり苦労するやつだ。勇者の力ならそんなものへでもないが。しかもその中に咲雪や姉さん。母さんの下着があれば家族といえど否応なく反応してしまう。俺はそれを目の橋で見つけてしまい、瞬時に目を逸らし、洗濯機の中に放り込む。
「こういう反応が童貞っぽいんだよな〜」
と自分でも思ってるが、実際に直視出来ないのが現実。仮想と現実の差に悩まされるのも青春男子の特権だろう。俺はそう区切りをつけて思考を打ち切る
「お兄ちゃーん。終わったー?」
咲雪の方はもう終わったみたいだ。そりゃ皿をセットして洗剤入れてボタンポチッとする方が楽に決まってる。俺は自分の興奮を悟られないようになるべく平静に返した。
「だ、大丈夫だぞー」
全然隠せてないことを悟られる前に【風魔法】を使い全てを洗濯機に突っ込み、洗剤も超速でぶち込み、洗濯機を閉めてスイッチオン。
「お兄ちゃーん。ってもう終わったの!」
咲雪が丁度やってきて、俺が息を切らさずに全てを終わらせたことに驚いているが、俺はそれどころじゃない。精神の昂りを抑えるのでま精一杯だ。俺は即座に【精神魔法】を使い気持ちを落ち着ける。
「ふぅ、他にすることはないか?」
「皿洗いと洗濯物が終わったからあとは夕飯の買い出しだけだよ」
「そっか。俺が外に出てくと迷惑になるって言ってたし、俺は待ってるよ」
「うん、そうだね。でも誰がノックやピンボンしても出ちゃダメだよ。お兄ちゃんごここにいることが分かると色々と面倒なことになっちゃうから」
「ああ、それぐらい分かってるよ」
この前の動画サイトの件で嫌でも分かった。この世界で男とバレること。それすなわち、生活がとにかく面倒になる。
「だからお兄ちゃんのためにお母さんがこの家の窓は全てマジックミラーにしたって言ってたから安心だよ。後は窓もドアも鍵をつけたから安心してね。だからこの家の中にいれば安心だよ。だから絶対に絶対に庭とか家の外に出ないでね」
「ああ、分かってるよ。お兄ちゃんはここで待ってるから咲雪もちゃんと帰ってこいよ」
「っ!うん!絶対に帰ってくるよ!」
海翔としては前世のように大切な人を自分が居ないせいで守れなかったことが自分の身内にあるようなことを無くしたいと思っての発言だったが、咲雪は自分がいなくて寂しいから早く帰ってきて欲しいと理解した。
この食い違いが後にどう影響してくるのか··········。
「あーあ。咲雪がいないと暇だな。せっかくだしゲームでもするか」
俺はパソコンでゲームをインストールをして、それが終わるまでしばらくの時間を待たされることになっていたが、その時間がもうそろそろ終わるはずだ。
俺が部屋に戻ると既に終わった音を出している。
「さて、結構な量のゲームとったし、どれからやろうかな」
俺は色んなジャンルのゲームをとっている。『MMORPG』や『ストラテジー』など色々だ。俺はせっかくなので前世でよくやってた戦いとは少し離れたゲームをしようと思う。そのゲームの名前は【シティクリエイト】名前の通り街を作るゲームだ。自分は市長として工場を建てたり、市民が住む家を建てたりのゲームだ。
俺は早速ゲームを起動し、初めのチュートリアルを聞く。
「···················あー。思った通りのゲームだな。でも要望も聞き入れないといけないのか。意外と難しいな」
俺は早速言われた通りに家を建て、工場を作り、発電所を建てていく。
そして時間は鬼のような早さで過ぎていく。
固まった体をほぐすために体を呼ばすついでに時計を見ると既に10時を回っていた。
「あ、もう咲雪帰ってきてんじゃね!」
「うん、帰ってきてるよ」
「うおっ!」
俺は隣でした咲雪の声につい変な声を漏らしてしまう。
「い、いつからいたんだ?」
「ついさっき。家に帰ってもお兄ちゃんいなかったから部屋かな、と思って行ったからゲームに集中してたから待ってたの」
「そうか、ありがとな」
俺は咲雪の頭を撫でる。すると顔をポッと赤らめる咲雪。こういう初心な反応が可愛いんだよな〜
「お、お兄ちゃん、は、恥ずかしいよぅ」
「うん、可愛い、可愛い」
俺は更に撫でる。しかしこれ以上やったら止まらないと分かっているので、少しやったら終わろうと思う。本当だ。
結局妹をベッドに誘い、抱きしめてただ撫で続けることを1時間近くやっていた。
「お兄ちゃんはいじわるです」
「まあまあ、そんなにいじけないで。ほら、もう昼の時間だ。昼ご飯を一緒に作ろうよ」
俺はそう言ってベッドでうずくまってる咲雪を立たせ階段を下り台所までやってくる。
台所は普通に広く、八畳はある。そこで料理していく訳だが、せっかくだから俺が宿る前の海翔が好きだったカレーライスを作ろうと思う。幸いにも咲雪がルーを買ってきてくれてるし、ご飯は昨日のあまりがある。材料もさっきの買い出しで十分にある。
「せっかくだからカレーでも作ろうか。ルーもあるし、夜ご飯に作り置きしてればいいしね」
「うん、そうだね。それなら姉さんもお母さんも好きだからいいね」
「なら2人で作るか。まだ10時だからご飯を炊いて、軽くツマミを作るか?」
「ツマミ?お母さんがお酒飲む時に食べてるものですか?」
あ、俺まだ15だった。前世は20でお酒飲んでたから普通だと思ってたわ。
「いや、なんでもない。俺は前菜作ってるからご飯炊いてくれるか?」
「うん、分かった。でもお兄ちゃんは料理できるの?」
「あー、うん。任せとけ。簡単なものなら作れるぞ」
そう言って2人は別れる。
「俺はツマミって言っても何作ろうかな。取り敢えず、なに買ってきたんだ?」
俺は咲雪が持ってきたレジ袋の中を見る。肉、米、パン、麺、牛乳、ルー、···············これをよく持ってこれたな。意外と力持ちなのか?
あ、これいいな。刺身がある。これを使うわけじゃないけどね。確か【収納】の中にいい感じの魚がいた気が、あ、あったあった!
「これこれ、【エルダーシャーク】の刺身。前世は生だと金がどうのこうのだったけど、この世界なら除菌の仕方もしっかりしてるし、刺身で食べられるでしょ」
そう言って俺は適当な剣を取り出し、いいサイズに切り分ける。前は時間が無くて取り敢えず首をかっさばいて、すぐ【収納】にしまったせいでサイズがそのままで3mくらいある。それを綺麗に切り分ける作業が大変だ。まぁ、魔力で擬似の剣筋を作るから面倒なのはそれを操ることだ。
「これくらいでいいか。あ、結界張らないとこの作業がバレる」
俺は慌てて結界を張る。咲雪は米とぎに夢中で気づいてないようだ。
「OK。なら刺身でいいか」
俺は切り分けたうちの一つを手に取り、その他を【収納】にしまう。そして手に取った1つをさらに切り分けて刺身にする。
そして醤油をにつけて1つつまみ食いをする。
「うん、美味い。これなら満足だろ」
俺は刺身をさらに盛り付け、醤油を片手にリビングに戻る。
「あ、お兄ちゃん。あれ?その手にあるのって刺身!お兄ちゃんなんでそれを使ったの!」
「ん?美味しそうだったし、今晩カレーなんだから別にいいだろ?それにまだまだ残ってるし」
俺はちゃっかり全ての刺身をさっき切った刺身に変えている。だから味が違っても何も言われない。対策は完璧だ。
「えー。それ今度食べようと思ってたのにー」
「美味しいものは美味しい時に食べないとだろ。ほら、あーん」
俺は箸で刺身を1つ取り、咲雪の口の前まで持って行く。
「お、お兄ちゃん!」
「ほら、食べないと俺が食べちゃうぞ。咲雪だって刺身は食べたいだろ?」
「うう、分かったよ。あーん、ん」
咲雪は俺お手製の刺身を食べ、驚愕の色で顔が塗りつぶされている。
「お兄ちゃん!この刺身美味しい!」
「だろ?だから美味しいものは先に食べるべきなんだよ。まだまだあるから咲雪も食べな」
俺はそう言ってから自分の分も醤油につけて食べる。うん、美味い。
そしてしばらくの間美味しすぎる刺身を2人とも無言で食べた。
「ふぅ、ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
俺たちは手を合わせて挨拶をして、皿の片付けを始める。食洗機は咲雪がまだ回っているため、この皿は全て手洗いだ。
「なぁ、咲雪。この後何して遊ぶ?」
「お兄ちゃんはゲームしてていいよ。私が残りの家事やっとくから。でもお昼になったら降りてきてね」
「それは却下。家事なら一緒にやるし、俺は咲雪と遊びたいの」
俺は思った。この和やかな風景がまさか男女比1:1000の風景なのか、と。普通に仲良くしてるし、もっと拝められるとか思ってた。それはやめて欲しいけど。
「咲雪、男ってこの世界でどれぐらい貴重なんだ?」
「お兄ちゃん忘れちゃったの?」
「忘れたわけじゃないけど、咲雪が俺とこんなに仲良くしてるから、他のみんなもそうなのかなと思って」
「仲良くしたいけど、できないってのが普通なんだよ。この国は男のことを過剰に保護するの。悪いことではないと思うけど、その法律がかなり過激なの。例えば男を襲った場合は無期懲役か死刑他には男の嫌がる行為をしたら罰金3000万とか。結構ヤバいんだよ?」
他の刑を聞くと、男の情報を無断で漏洩した場合10年の懲役。男の物を盗んだ場合罰金2000万。
とかなり重い罪になる。
「でも男には義務があるの。1つ目は結婚すること。この国は一夫多妻制だから何人でもいいけど、1人とは絶対に結婚すること。2つ目は子供を作ること。何人作ってもいいけど、1人は絶対に作ること。この2つが30歳までにできない場合は支援金を打ち切りにする。でも2つの義務はやればやるほど政府から金が貰える。むしろ金目当てで結婚や子供を作ることが多い」
義務の内容がただただ嬉しいことでしかないな。これが義務ならいくらでもこなせるわ。でも性欲がない男にとってはただただ面倒なだけだろうな
「普通は男を見れる人の方が少ない。結婚できる人はこの国中で0.0001%いるかいないかくらいだと思う。それぐらい男は貴重な存在」
「へぇ。変わってんな。ま、いっか。俺は俺で咲雪達と仲良くすればいいし、お金が無くなったら咲雪達と結婚すればいいしな」
「おおおおお兄ちゃん!?な、何言ってるの!」
「ん?なんのことだ?」
俺はいじわるな笑みを浮かべて咲雪に返す。
「··········いじわる。でもその言葉忘れないから」
すると家中にピーンポーン!と鳴り響き、ドアがノックされる。
「あ、もしかして支援金渡しに来た人かな。お兄ちゃんは部屋に戻ってて、絶対に出てきちゃダメだよ!」
「あ、ああ、分かった」
俺は咲雪の凄い剣幕に押され部屋に戻って行く。
部屋に戻り、ドアを開け俺は感覚を研ぎ澄まして下の声を聞く。
「はーい。今出ます」
これは咲雪の声だな。てかまだ出てなかったのか
「お待たせしてすいません。部屋の片付けをしてまして」
「いえ、こちらこそ急な訪問ですいません」
これが家に来た人の声か。いい声してんな。メガネかけてそうな声だ。できる美人みたいな
「今回はお宅の例の子が病院から退院したと聞き、やってきた次第です」
「いえ、あの子も心配してくれて嬉しいでしょう」
これが社交辞令か。俺を男だと主張しないのは安全対策かな
「これは今月の分も含めて渡しに来ました。これを必ず渡してください」
「はい、勿論です」
「それでは失礼します」
そしてドアが閉まる音が聞こえた。俺は1階のリビングに移動する。
「もう大丈夫か?」
「うん、それとこれがお兄ちゃんのお金だよ月の30万に加えて退院祝いで100万くらい。計130万円だね」
「そんなに貰えるのか。なら20万は咲雪が使ってくれ」
本当は全てあげても良かったが、そうすると貰おうとしないことは目に見えていた。しかしどうしても貰って欲しいため、あげるお金を少なくしてあげることにした。
「そ、そんなに貰えないよ!」
「貰ってくれないとお兄ちゃん咲雪のこときらいになっちゃうぞ?」
「うう、分かったよぅ。ありがとうお兄ちゃん」
「咲雪だって中学1年なんだから友達と出掛けることだってあるだろ。その時に使ってくれていいよ」
「ありがとう!お兄ちゃん大好き!」
そして咲雪は俺に抱きついてくる。
「ああ、俺も大好きだよ、咲雪」
ピーンポーン!
「「っ!」」
俺は一斉に扉の方を見た。さっきのお金の人で人は終わりではないのかと