表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/337

第57話「罠という名の旅①」

 旧アルドワン邸の『調査』が済んだ翌日の午前11時過ぎ……

 ディーノは、冒険者ギルドのサブマスター室に居た。


 午前10時に冒険者ギルドへ赴いたディーノは、一旦ネリーに話を入れた上、

 発注者であるブランシュの下へ、依頼完遂の報告に参上したのだ。


「ええっと、サブマスター」


「ふふ、私もこの前みたいにブランシュと、名前で呼んでくれるかな?」


「わ、分かりました、ブランシュさん」


「宜しい! 早速だけど、依頼は完遂したようね」


「はい、まだマルコさんの最終確認が残っていますが、結局、幽霊は出ませんでしたし、それに具合が悪くなるなどの事象もありませんでした」


「そう……全く異常なしって事? まあ、ディーノ君が無事戻ったのが何よりの証拠よね?」


「はい! この通り元気でピンピンしていますから」


 腕まくりして、小さな力こぶを誇示、必要以上に『無事』なのをアピールしたディーノではあったが……

 さすがに、『真実』は話せなかった。

 亡きアルドワンの幽霊と出会い、彼から秘められた真相を知ったなどとは。


 そしてもっと大切な事がある。

 「無念のうちに獄死した、アルドワンのこころざしを継いだのだ」

 とも、けして言えないのだ。

 

 アルドワンが昇天する際に託してくれた、彼がこの世に生きたあかしたる、おそるべき古代魔法の秘密は尚更明かせるはずもないのだ。


「あの屋敷の問題が単なる噂に過ぎないのであれば、ノープロブレムね」


「はい、ノープロブレムです」


「で、あれば! 近日中にマルコさんの指示でキングスレー商会が最終確認をしたら、貴方はトータル100枚の金貨を受け取れるわ」


「依頼を完遂したのは、どうすれば分かるのですか?」


「ギルドから連絡を入れますから、待っていて。連絡先は英雄亭で良いかしら?」


「はい、構いません。英雄亭宛でお願いします。但し明日から1週間くらい暫く依頼を兼ねた旅に出ますから、ダレンさんあたりへ、伝言しておいてください」


「依頼を兼ねた旅?」


「はい! ネリーさんから依頼を受けまして、薬草採取の無期限依頼を受諾しました」


 薬草採取の無期限依頼とは……

 特に期限的なリミットを設けない依頼である。

 

 冒険者が採取可能な時に、回復系含む各種の薬草をギルドへ納品するという、

 初級冒険者向きの依頼なのだ。

 

 デビューしたディーノが、いきなり高難度の依頼をこなすとは思っていなかったネリーが、気遣って用意してくれていた案件である。


「へえ! 結構稼いだのに働き者ね、ディーノ君は。その意気込みなら、私と同じランクAに昇格するのもまもなくね」


「いえ、父もランクBの冒険者でした。父曰くAとBの間にはとても高い壁があるとか。……だから焦らずじっくりとやって行きますよ」


「うんうん、その通り! 焦りは禁物。でもディーノ君はやはり冒険者になるべくしてなった、そう思うわ」


「はい!……俺、頑張ります、報奨金は前回同様ギルドにキープしておいてください」


「了解!」


 しかし……

 ブランシュへ伝えたディーノの旅には、名目となる薬草採取の依頼をこなす以上に、ある特別な『思惑』があったのだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝……

 王都北正門を出たディ―ノは、わざとゆっくり歩いている。

 周囲を注意しながらも、考えているのはアルドワンを陥れた憎き犯人の事ばかりである。


 古参の名門で上級貴族たるアルドワンを破滅させて一番喜ぶのは誰だろうと、

ディーノは改めて考えていた。


 暫し歩き、ひと目のないところで、ディーノはケルベロスとオルトロスの兄弟を呼び出していた。

 

 ケルベロス達は目立たぬよう、第二形態、つまり毛並み違いの灰色狼風の容姿である。

 また妖精猫ケット・シーのジャンは別の任務を遂行させる為、ディーノの傍らには居なかった。


 そう、現在ジャンはディーノの指示で王都に残り、ある調査をしていたのだ。


 しばらく王都を離れていた上、平民であるディーノは、ヴァレンタイン王国の貴族社会事情には明るくない。

 王国軍の軍務統括というアルドワンの地位を狙っていたのは何者であるかも不明である。

 そこでディーノは『世界一の情報通』を自称するジャンに、貴族社会の内情とアルドワンに敵対していた勢力の詳細を調べるよう命じた。


 もしも『敵対勢力』が存在し、依頼を受けた冒険者ディーノがアルドワン邸を探索調査をしたと知れば……奴らが何らかの動きを見せるかもしれないと考えたのだ。


 獄死した当主の幽霊が出ると噂されたアルドワン邸で、もしや何かがあったのかと勘繰り、最悪、ディーノを襲撃し、自白を強要して来る可能性もある。

 その際、英雄亭の面々が巻き込まれ、迷惑がかかってはまずいと、

 ディーノは考え先手を打ったのである。


 また旅の目的はもうひとつあった。

 むしろこちらの方が優先するかもしれない。

 すなわち、今回アルドワンから受け継いだ古代魔法の習得及び訓練である。


 亡きアルドワンによれば、当該魔法は『秘中の秘』だという。

 そして王都の街中より、人けのない野外で訓練する方が向いているらしい。


 ここでもジャンの『情報』が役に立った。

 相談したら、王都のやや北方に、人間が滅多に立ち入らない小さな渓谷があるという。

 そのような場所なら人知れず行う古代魔法の修行にはピッタリだ。


 歩きながら、ディーノは改めて周囲を索敵した。

 ケルベロス達にも調べさせたが、まだ自分を害そうとする存在は感知出来ない。


 ディーノは、ジャンに教えて貰った街道から分かれる脇道へ入る。

 魔法訓練の目的地である渓谷へ向かう道であった。

 渓谷は最適な訓練場所であると同時に、そのまま罠ともなる。


 脇道を暫し歩くと、ジャンの情報通り、渓谷が見えて来た。

 やはり人影はない。


 とりあえず……

 魔法の修行をしながら様子を見る事としよう。

 そしてもしも『敵』が現れたら、手がかりを得る為にぶちのめして吐かせよう。


 冒険者として日が浅いディーノだが、

 ふたつの大きな依頼をこなし、ランクBに昇格した事で、徐々に風格が出て来ていた。


 油断は禁物なのだが、どんな敵が現れても不安はないと感じている。

 ケルベロス達、頼もしい戦友も居るから尚更心強い。


 渓谷の中心に到着し、ディーノは周囲を下見した。

 小さな川が流れ、周囲には洪水の際、流れて来たらしい巨大な岩がいくつかある。

 身を隠し、盾にするにはぴったりの岩である。


 この場所を『罠』としよう……

 襲って来る敵を想像し、ディーノは怖れるどころか、不敵に笑ったのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。


東導号の各作品を宜しくお願い致します。


⛤『魔法女子学園の助っ人教師』

◎小説版第1巻~7巻

(ホビージャパン様HJノベルス)

大好評発売中!

◎コミカライズ版コミックス

(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)

第1巻~2巻も大好評発売中!

※月刊Gファンタジー大好評連載中《作画;藤本桜先生》

☆4月17日発売のGファンタジー5月号には最新話が掲載されております。

また「Gファンタジー」公式HP内には特設サイトもあります。

コミカライズ版第1話の試し読みも出来ます。

WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。


マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が好評連載中です。

毎週月曜日更新予定です。

お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。


最後に、連載中である

「帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者」

も宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ