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第44話「山賊退治⑩」

 ディーノの一撃を喰らった山賊の首領バスチアンは呆気なく気絶してしまった。

 これでディーノは見事依頼を半分だけ完遂した事となる。


 「半分だけ? 嘘ぉ? ひゃっは~な首領を倒したら依頼はもう終わりじゃん」

 そう仰る方が居るかもしれない。


 しかしギルドの規定では、依頼受諾者は本部または支部の担当者へ報告し、正式に認定された上、初めて依頼の完遂が認められる。


 ここでもケルベロスは教師然として振る舞う。


『ディーノ、ここからどう仕切る?』


『仕切る?』


『うむ、まず必要なのはギルドへの連絡だが、どうする?』


 ケルベロスの問いに対し、ディーノは自信たっぷりに答える。


『ノープロブレム!』


『というと?』


『うん、さっきケルベロスの暴れまくりが終わった直後、高速魔法鳩を飛ばしたんだ』


『ほう! 高速魔法鳩か! やるじゃないか』


 魔法鳩とは……

 この世界の一般的な連絡手段である。

 伝書鳩を魔法で強化してあり、高速の名称が付く鳩は、

 通常の3倍の速度で飛行出来る。


『うん、通常の魔法鳩よりちょっち高かったけど、こんな場合もあると予想して、出発前にギルドから1羽1日金貨1枚で借りていたんだ』


『はは、準備が良いな』


『ばっちりさ! 鳩の足に付けた魔法筒にはこの近辺の地図を入れておいたから。印をつけ、救援待つという伝言と俺の名前も書いて、ギルドマスターのミンミさん宛で送ったよ』


『成る程』


 段取りを聞いてケルベロスは感嘆した。

 ディーノはやはり只者ではないと思う。


『念の為、2羽飛ばした。もう少ししたらギルド本部へ到着して、ミンミさんが目にするはずだ』


『ふむ、その後は?』


『荷馬車の回収をして、オルトロスも一緒にこの砦へ戻る。食料を2日分用意したから、今夜はここで夜明かし、明日にはギルドの応援が来るだろう』


 何から何まで完璧だ。

 嬉しくなったケルベロスはにやりと笑う。


『よし、では念話でオルトロスへ出発のスタンバイをするよう連絡しておこう』


『頼む!』


『それと……荷馬車がある場所まで俺の背に乗れ、移動時間の短縮となる』


『え? でもさすがにケルベロスを馬代わりには出来ないよ』


『ははは、普通に嬉しいぞ。だが、そう気を遣うな。誇りより今は実を取ろう』


『も、申しわけない!』


『さあ! 正門を閉め、さっさと出かけようではないか。待ちくたびれてオルトロスがぶうぶう言っているだろう』


『でも門のかんぬきは、外側から閉められないんじゃ』


 ディーノの言うかんぬきとは、左右扉の双方にまたがるように通し、

 門を開かないようにする為の部材だ。

 この砦の正門は内側から丸太を通し、施錠するようになっていた。

 砦の守りの構造上、内側からしか作業出来ない。


『ふ! 俺を舐めるな。あんな柵は楽勝だ』


 鼻を鳴らしたケルベロスは顎を振り、とある方向を指した。

 指した方向には、崩れかけた石壁がある。

 砦を外敵から守る為の防護壁だ。


 所々穴が開いていて、その部分は丸太を使って補修?してある。

 高さは……10mくらいだろうか。


『よし! じゃあ頼む』 


 ……ケルベロスの言う通りであった。

 正門のかんぬきを内側から閉めた後……

 ディーノを背に乗せたケルベロスは、軽々と砦の防護壁を跳び越え、

 壁の反対側へ降り立ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 荷馬車とロバを回収したディーノ、そしてケルベロスとオルトロスは……

 捕えたバスチアン以下山賊ども一緒に、砦で一晩を過ごした。

 ちなみに目覚めそうになった山賊どもは、ケルベロスとオルトロスの咆哮で再び気絶させた。


 翌日の昼近く……

 ディーノが要請したギルドの『応援』がやって来た。

 冒険者30名あまり、馬車5台を連ねた『一個連隊』である。


 驚いた事に、マスターのミンミが陣頭指揮を執っていた。

 監視塔から様子を見ていたディーノは彼女の放つ波動を確認、

 安堵して、正門を開け放った。


「はぁ~い! ディーノ君、来たわよ~っ」


 砦の内側に立つディーノを認め、笑顔で手を打ち振ったミンミではあったが……

 まるで戦場の死体のように累々と散らばる、気絶した山賊どもを見て、

 同行の冒険者共々、息を呑んだ。 


「こ、これは!」


「ちょっとした作戦を使いました」


「な!? ちょっとした作戦って……」


 ミンミは全くの思い違いをしていた。

 ネリーから報告を受け、ディーノが協力者か、どこぞのクランと組み、

 依頼を完遂したと想像していたのである。

 彼の亡き父クレメンテ・ジェラルディか、元冒険者であるダレンのツテを使って。


 そもそもこの無茶な依頼を振ったのは、自分と引き分けたディーノの『器』を見たいが為であった。

 ひとりでは到底完遂不可能な依頼を、受諾したディーノがどう工夫して完遂するか期待していたのだ。


 高速魔法鳩で連絡を貰い、自分の見込み通りだほくそえみ、

応援を手配し、喜び勇んで現場に到着してみれば……


 居たのはディーノただひとりと、小さな犬2匹だけだった。

 そしてディーノの背後には大勢の気絶した山賊どもが……

 不可解に思うのも無理はない。


 ディーノは考えた『理由』を話す。


「ええ、俺って実は、少々召喚魔法の心得こころえがありまして……」


「少々……召喚魔法の心得……」


「この犬2匹は俺が呼んだ子達で、本気を出して吠えたら、結構な金縛りの力を使えるんです」


 ディーノが指さしたケルベロスとオルトロスは、本来の姿ではなく、

第一形態となっていた。

 当然擬態なのだが、見た目の姿は可愛い子犬に過ぎない。


 ミンミは基本的に現実主義者である。

 難解な『へ理屈』よりも、出した結果を優先する。

 犯罪さえ犯さなければ、方法は問わない。


 自分の剣を楽々躱した体さばきも含め、ディーノには何か秘密があると直感したが、彼は見事に期待以上の結果を出してくれた。

 それで良いとミンミは考えた。


 つらつら考えるミンミに対し、デイーノは報告を続ける。


「思ったより奴らの人数が多くて、作戦遂行の際、少し逃げられてしまいましたが、首領のバスチアンと幹部の配下は確保してあります」


「ありがとう! 良くやってくれたわ」


「はい、何とか……バスチアンとその部下、都合2名をあの司令塔に監禁しました。あと砦内を探索しましたら、奴らが旅人から奪ったお宝が多々ありましたが、当然手を付けてはいません」


「成る程」


「バスチアン、及びお宝も、諸々の処理はミンミさんにお任せします。元々ミンミさんから頂いた依頼ですし、ギルドの手柄にしてくださって構いません」


 先ほど、ケルベロスへディーノが告げた『良い事』とは、

 今告げたミンミへの『お願い』である。

 

 諸々の処理をミンミへ頼み一切を任せる事で、

 円滑且つ円満な依頼の完結を、

 更にマスターとしての彼女の顔を立てる旨をアピールしたのだ。


 ミンミもすぐディーノの意図に気付いた。

 気持ち良く快諾する。


「了解! じゃあ、私に任せてくれる? 悪いようにはしないから」


「ありがとうございます。じゃあ準備を整えたら、帰りましょう」


「うふふ、了解!」


 こうして……

 ディーノの冒険者デビューは大成功の結果となったのである。

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