第42話「山賊退治⑧」
ディーノとケルベロスは足音を立てないよう、忍び足で上へ上へと向かう。
目指す指令室は一番上にあるらしい。
『ディーノよ、俺には気配で分かるぞ。最上階にバスチアン共が居る……』
『ああ、ケルベロス、俺にも感じる』
『ふっ、まさに真理だ。俺が先ほど言った通りだな』
馬鹿と煙は高いところへ上る……
ケルベロスが皮肉まじりに告げた諺。
ひどく怒られながらも、教えられ意味を理解していたディーノは、今度こそ笑いそうになった。
そんな事を考えながら……
遂にディーノ達は頂上階へ到達する。
目の前に大きな両扉があった。
しかし扉は何者かに怯えるように堅く閉ざされていた。
だが間違いなく、部屋の中には人間が発する波動、気配がある。
ここでケルベロスが指示を出す。
『ディーノ、まず中に居る奴らの様子を探れ。お前の聴力は指輪の力で大幅アップしているはずだ。……よく耳を澄ませてみろ。もしも聞こえなければ読心魔法を使え』
『りょ、了解!』
ディーノは嬉しくなる。
ケルベロスの指示はいちいち丹念、且つ的確でもあり、ディーノの持つ現時点での能力をしっかり把握しているからだ。
もっと聞こえるようにと、ディーノは気持ちをこめ、耳を澄ませてみた。
すると……バスチアンらしい声が聞こえて来る。
「くそ! 何だ、あのおぞましい化け物は! とんでもない声で吠えやがって! さすがの俺も気絶しそうになったぜ!」
「ボス! どうします? 手下ども、殆ど逃げちまいましたよ。街道へ『狩り』に行った連中も行ったまま戻って来ないし」
「奴らめ、職場放棄しやがって! ふん、去る者は追わずだ。未払いの給金も払わねぇぞ」
「ま、当然ですね」
「ふん、金はまだまだたっぷりある。派手にちらつかせれば、新しい奴らがまた、雇ってくれとハエみたいに群がって来るだろうよ」
「へへへ、地獄の沙汰も金次第って奴ですね」
「はっ、そういう事よ」
話しているのは、どうやらバスチアンと側近クラスの配下ふたりらしい。
殆どの配下が逃げてしまったので、戦意喪失したようだ。
そしてケルべロスが居なくなる……
つまりほとぼりがさめるまで、この部屋へひきこもり、
やり過ごそうとする腹積もりらしい。
バスチアンがのたまう『悪口』を聞き、ケルベロスが怒りを燃やす。
『ふん、おぞましくて悪かったな、ぶち殺す!』
憤るケルベロスをディーノがなだめる。
『まあまあ、俺が思うに、ケルベロスは強そうだし、とてもカッコいいと思うぞ』
『はっ、気休めありがとう……まあ普通に嬉しいぞ』
『そりゃ、ど~も』
『ふん、ここでディーノに課題を出そう』
ここでケルベロスの口調が変わった。
どうやらディーノに『攻略法』を考えさせるらしい。
『お前ひとりなら、部屋に閉じこもったバスチアンをどう取り押さえる? 方法を考えてみろ』
『う~ん、俺ひとりか……でもこっそりか、派手にするかで全然やり方が違うと思う』
ディーノはそれなりに考えて、解答したつもりであった。
だがケルベロスは厳しかった。
『それでは全く答えになっていないぞ』
『ご、ごめん!』
『まあ、良い。当然、こそこそせず正面から派手にだ。俺の悪口を散々抜かした、 くそ野郎共に思い知らせてやれ!』
『ははは……』
くそ野郎共に思い知らせてやれ!
あまりにも口汚い言葉を聞き、ついディーノは可笑しくなった。
しかし、ケルベロスは眉間に皺を寄せる。
『笑っていないでもっと真剣に考えろ。俺が常に傍に居るとは限らないのだぞ』
たしなめられたディーノは、悩みに悩む。
『で、でも難しいな、正面から派手にか……』
『……ヒントをやろう。お前はまだ15歳、青臭いガキだ。バスチアンみたいなベテランが相手ならどんな手を使っても構わない』
『俺がまだ15歳でガキ……だからどんな手もか?』
『うむ! 多少卑怯でも構わない、なりふり構わずでOKだ。さあ時間が無いぞ。大至急で知恵を絞れ』
『わ、分かった……』
『…………』
『よ、よし! 作戦は決まった』
『うむ、じゃあ俺は一旦身を隠し、後方から援護に回る、落ち着いてやってみろ』
そう言うと、ケルベロスはディーノを置いて、すっと物陰に隠れた。
一方ディーノは足を忍ばせ、閉ざされた扉の前に立った。
己ひとりで知恵を絞り、難題をクリアし、切り抜ける。
これがその第一歩……
ディーノは気合を入れるが如く、息を大きく吸い込む。
そして吐きながら、言い放つ。
無論肉声でだ。
扉も思いっきり叩く。
ダンダンダン!
ダンダンダン!
「すいませ~ん! すいませ~ん!!」
当然部屋の内部からは反応があった。
「な、何だ、おい!?」
「ボス! 子供みたいですぜ」
戸惑うバスチアン達であったが、先に落ち着いたらしい配下が、声をかけて来る。
「何だ、お前。声を聞いたところガキみたいだが……そのまま扉越しに話してみろ」
対してディーノは、考えて考え抜いた物言いを告げる。
「た、助けてくださいっ! さっき森の中で、すご~くおぞましい化け物に追っかけられて、この砦があったんで必死に逃げて来たんですっ!」
「…………」
「…………」
バスチアン達から答えはなかった。
ディーノの話を信じるか、考えているらしい。
まず言葉を投げかけたのは配下である。
結構用心深い性格のようだ。
「やっぱ、信じられねぇ! 何でガキがここに居るんだ?」
しかし首領のバスチアンは違う見解らしい。
「いや、よ~く考えてみろ。逃げ出したガキとあの怪物に接点はねぇ。それに怪物が居たらガキは絶対タダでは済まない、とっくに喰われてるはずだ」
「な、成る程! さすがボスだ! あったまい~っ!」
いや、残念ながら俺とケルベロスに接点はある。
あるどころじゃない。
おおありだ。
そして確かに一旦喰われかけたけど、今や深い絆に結ばれた戦友同士だ。
ディーノは声を出さずに笑った。
さて……結局はどうなるのか?
と、身構えていたディーノではあったが……
やがて、扉はきしみながら、ゆっくり開けられたのであった。
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