表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/337

第4話「不思議な夢①」

 ディーノを乗せ、王都を目指し、エモシオンを出発した馬車は……

 途中ボヌールという小さな村に立ち寄った後、

 本日の宿泊場所であるジェトレへ到着した。


 だがディーノはオベールの温情に甘え、ただ馬車へ乗せて貰っていただけではない。

 商隊リーダーのマルコ・フォンティへ自ら雑用を買って出て、

 誰もが嫌がる仕事まで率先して引き受け、懸命に働いた。


 マルコはそんなディーノを好ましく思い……

 取り引きや商売に興味を示すディーノに基本的な事を教えてやった。


 やがて夕方となり、後片付けが終わった。

 スタッフへ支給されるまかないの食事も済み、ディーノはようやく雑務から解放された。

 就寝までの自由時間を与えられたディーノは、ほんの好奇心からジェトレを探索して見る事にした。


 このジェトレはヴァレンタイン王国建国前から存在する歴史のある村である。

 一応『村』という名称が付いているが、人口は5千人を超えるれっきとした町だ。

 今迄ディーノ親子が住んでいたエモシオンが人口約1,500人だった事を考えると、遥かに大規模で王都の雰囲気に近い。


 定められた法律により、ヴァレンタイン王国は満16歳で成人となる。

 ディーノはまだ15歳の未成年なのでカジノや酒場などはパス。


 ディーノはふと16歳になったステファニーを思い出す。

 下手をしたら、来年あの子と結婚するところだった。

 

 そうなったら間違いなく尻に敷かれる最悪の日々が待っていた。

 死ぬまで続く無間地獄の確定……とんでもない結婚話である。


 さてさて!

 ディーノが商店街の各店を冷やかしながら歩いていると、やがて通りを抜け小さな墓地へ行き当たった。


 きびすを返し、商店街へ戻ろうとしたディーノだが、

 父が死んだばかりでもあり、何となく気になった。


 改めて墓の様子を見やれば、おかしな事にどの墓標にも名が刻まれていなかった。

 ……どうやら無名墓地のようだ。


 周囲を見回したが、墓守りも居ないようで、墓標は汚れ切っていた。

 供えられている花も皆無。

 それどころか、雑草が伸び放題で荒れ果てている。


 ディーノは墓場を眺めていて葬られた者達が哀れになり悲しくなった。


 死せば人間の魂は天へ還ると、この世界の宗教・創世神教の教えにはある。

 墓場に眠っている亡骸は単なる器に過ぎないとある。


 しかし父を失ったばかりのディーノは……

 死して打ち捨てられた者達の無念さを感じ、少しでも供養してやりたくなった。


 ディーノは急ぎ商店街へ戻ると、雑貨屋で雑巾、バケツを買い、

 花屋にも寄って大きな花束をいくつか買った。


 まとまると結構な荷物量であったが、途中にある井戸でバケツにも水を満たし頑張って墓地内へ運び込む。


 時間があまりない。

 まもなく商隊の人達が宿泊する宿へ戻らねばならない。


 ディーノは早速、掃除に取りかかった。

 「ぼうぼう」に伸びた雑草がとても厄介であったが……

 父の形見となった剣が鎌代わりとなり、何とか上手く刈る事が出来た。


 2時間後……ようやく掃除は終了した。

 雑草は完全に刈られ、墓標はぞうきんでピカピカに磨きあげられた。

 

 仕上げに、ディーノは各墓標に一輪ずつ花を供えて行く。

 そしてそれぞれに頭を下げ、黙とうした。


 満足したディーノは墓地を出た。

 振り返ると、最初に見た時とは見違えるくらい墓地は綺麗になっていた。


 どうか……

 安らかに……眠ってください。

 そう念じて後にした。


 結局、予定していた街の見物は出来なかったが、ディーノは大いに満足であった。

 宿へ戻り、身体を拭いてさっぱりすると、そのままベッドに潜り込んで眠ってしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……ここは、どこだろうか?

 気が付けば、いつの間にか、ディーノは見た事もない場所に居た。


 緑深い広大な森の中であった。

 ぐるりと見渡したが、人の気配はなかった。


 はっきりと言い切れる。


 ここはエモシオンではない。

 幼い頃住んでいた王都でもない。

 本日、たどりついたジェトレでもなかった。


 一体どこで、何故自分はここに居るのか、皆目見当もつかなかった。


 その瞬間。


『ディーノ君』


 耳が拾う肉声ではない。

 心の中で不思議な声が響いた。


『え?』


 聞こえたのは……全く覚えの無い声である。

 

 だが声の主は何故かディーノの名を知っていた。

 一体、どこの誰であろうか?


『こっちだよ、こっち』


 ディーノが声のした方を振り向けば……

 背後に古風なデザインの濃いグリーンの法衣ローブを着込んだ、

 長身痩躯の男がひとり立っていた。


 男の顔は……法衣に付いた頭衣ドミノにより隠れていて、良く見えない……


「あ、貴方は?」


 ディーノが尋ねると、男は名乗る。

 相変わらず心に響く不思議な声で。

 声の調子からすれば少年とはいえないが、けして年寄りではなく比較的まだ若い男らしい。


『僕はロランという者だ。かつての仕事は君のお父さんクレメンテ・ジェラルディと同じ、元は冒険者だった』


『ロランさん……俺のお父さんと同じ……元冒険者』


 男……ロランの告げた内容をディーノであったが、ハッとし、我に返った。

 浮かんだ疑問は全く解けていないからだ。


 まず今居る場所がどこなのか?

 目の前のロランは何者なのか?

 

 そして見ず知らず、初対面のロランが、何故自分の名と父の名、

 加えて父が冒険者であった事を知っているのか?


 ディーノが首を傾げた瞬間。


 ロランは意外な行動に出た。

 何と、ロランはディーノに向かって深々と頭を下げたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。


東導号の各作品を宜しくお願い致します。


⛤『魔法女子学園の助っ人教師』

◎小説版第1巻~7巻

(ホビージャパン様HJノベルス)

大好評発売中!

◎コミカライズ版コミックス

(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)

第1巻~2巻も大好評発売中!

※月刊Gファンタジー大好評連載中《作画;藤本桜先生》


「帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者」も宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ