第34話「マスターからの依頼」
ネリーは軽く息を吐いた。
ディーノを意味ありげに「じっ」と見つめる。
いよいよ……
ディーノが請け負う初仕事の候補が告げられるのだ。
心の中で彼にしか聞こえない銅鑼が鳴る。
だらららららら、ジャーン!
「さあて、お待ちかね、いよいよ依頼のお披露目よ」
「はい、お願いします」
どうやら、今回は複数の依頼があるようだ。
「ぺらぺら」と紙片をめくり、ネリーはそのうちの一枚を取り出した。
「まずは何より、ギルドマスターから頂いた依頼の案内を優先ね」
マスターから頂いた?
と、思わずディーノは驚いた。
目をかけて貰ったと、何となく感じていたが、
あくまでも少し気にするくらいだと思っていたから。
「え? ミンミさんから頂いた依頼って、直接ですか!?」
「ええ、その通りよ」
「マスターからはあくまでも業務命令として、お願いレベルで俺の事を念押しされただけではないんですか?」
「うふふ、違うわ、今回に限ってはマスターミンミが直接、ディーノ君へ発注して来た依頼なの。だから私もびっくりしたのよ」
ネリーも驚いた、
という事は……
通常あまりない事なのだと、ディーノは認識した。
「うう、ミンミさんが? 今回に限ってですか? 凄く緊張します、一体どんな依頼なんですか?」
尋ねたディーノを、更に驚かせる依頼内容をネリーは告げる。
「ズバリ討伐系ね、それも相手は魔物じゃなく、人間」
「え? 人間?」
初級冒険者が討伐依頼へ挑む場合、低級な魔物の無期限討伐へ挑むのが普通だとディーノは思っていた。
低級な魔物の無期限討伐とは……
スライムなどを期限を決めずに狩り、1匹いくらで報酬が受け取れるという、
低ランカー向けの依頼である。
デビューまもない冒険者が鍛錬の為に受注する依頼でもある。
何故、人間の賊相手の討伐依頼をミンミが出したのか?
それもデビュー前のディーノへ……
全く理解出来なかった。
「王都の南正門から出て、以前貴方が住んでいたエモシオン方面へ向かう街道を、少し下った場所で凶悪な山賊どもが出没するの」
「山賊?」
「ええ、山賊。この山賊の為に南へ行く旅人が大いに悩まされているのよ」
「な、成る程」
「奴らは略奪、殺人は当たり前、果ては女性に乱暴した上、遠国へ奴隷として売り飛ばすの。幼い子供だって容赦なく商品として奴隷で売るのよ」
「成る程。それで依頼完遂の条件は? そいつらを具体的にはどのように対応すれば良いんですか?」
「対応か……ディーノ君は知ってるかもしれないけど、人間相手の討伐は魔物を倒して討伐するのとは全く違う」
「ですよね。人間の場合は生け捕りと殺すのでは報酬がだいぶ違うと、父から聞いた事があります」
「ええ、生きたまま捕縛し、王都まで連行、衛兵隊へ引き渡した場合、特別手当てが割り増しされるの」
「特別手当?」
「ええ、犯罪を犯した者は一旦確保し、出来る限り王都において裁判を受けさせるというのが王国の基本方針なのよ。ちなみに生け捕りにして衛兵へ渡せば、報酬が対象を死亡させた場合よりぐっと割り増しされる」
「ええ、この料金制度の趣旨も父から聞いています。敢えて犯罪者を生かし、裁判を受けさせる為に、ですよね?」
「ええ、その通りよ。基本期限は依頼の受諾から1か月以内、成功条件は山賊の首領バスチアン・アジェの身柄確保、報酬はバスチアンのみで、確保の場合、金貨400枚、死亡の場合は先ほどの話通り半額に減額されるわ」
「ふむふむ、やはり期間内に完遂するのがベストですね? あとは殺さずに出来るだけ生きたまま捕えるのをこころがける」
「その通り! それと念の為、バスチアンには結構な数の手下が居るらしいわ。だから手下の確保にも、ひとりにつき金貨10枚の追加報酬が出るわ。ちなみに死亡させた場合はこちらも半額の5枚に減額されるの」
「手下にも報酬が! それはありがたいですね」
「但し、遂行指定期間を過ぎたら更に全てが半額となる。だから受諾から1か月以内に完遂しないと大幅減額ね」
「成る程、大体把握しました。ちなみに山賊一味の人数は?」
「どんどん増えてるみたいだけど……現時点でギルドの調査によれば、総勢約30人らしいわ」
「さ、30人!?」
げ!
とディーノは思った。
こちらはケルベロスの助力があるといえ、たったひとりだ。
それにミンミはケルベロスの存在を知らない。
久しぶりに王都へ戻って来たばかりのディーノが、
冒険者としては『仲間』も居ないと認識しているはずだ。
なのに……何故こんな無茶ぶりをするのか分からない。
「どう? 受けてみる?」
「う~ん……」
「あの……念の為、聞くけれど……ディーノ君は現時点でソロプレーヤーでしょ?」
「ええっと、ソロプレーヤーって、……確か『ぼっちのひとり』って事ですよね?」
「そうよ。だから普段単独で冒険者をしている者は、このような依頼を受諾する場合、信頼出来る協力者を募るか、どこかのクランへ自己負担で報酬を払い、臨時雇いし、助力して貰ってるわ」
「成る程、そういう事もあり……なのですね?」
「ええ、この依頼に限らず、内容を聞いて単独受注では難しい、もしくは荷が重いと感じたら、そこらへんは貴方の裁量で仕切ってね」
「な、成る程……」
「多分、マスターもそれを見越して、この依頼を出したのではないかしら」
「う~ん」
ディーノは思わず唸ってしまった。
旅立ってから、いろいろなプラス材料が加わったが、
結局自分には、共に冒険が出来る仲間は居ない。
少なくとも人間には……
ミンミからの直接依頼だからぜひ受けたい、そして必ず完遂したい!
その為には、指輪とペンタグラムの効果を最大限に発揮し、
ケルベロスを上手く使いこなすしか道はない。
と、ここでネリーが手を挙げた。
何か、言いたい事がありそうだ。
「ねぇ、あくまでも私ネリーの個人的な意見があるけど、ディーノ君は聞きたい?」
「ええ、ぜひ聞かせてください、お願いします」
「じゃあ、あくまで参考意見として聞いてくれる? ……いくらディーノ君がいきなりランクCに認定されたといっても、この依頼に関しては結構荷が重いと思う」
「う~ん、確かにひとりでは厳しいかも……さすがにデビュー戦ですからね」
「そうよ! 正直言って、私はかなり心配してる。だから、もしも『助っ人』のあてがなかったら、ギルドから信頼出来るクランを紹介してあげても構わない。いえ! ぜひぜひ紹介したいの!」
ネリーは真剣にディーノの無事を案じている。
『人』には本当に恵まれているとディーノは強く感じた。
「ネリーさんのお気遣いは凄く嬉しいです」
「だって! 私ディーノ君に万が一何かあったら、また大泣きしちゃうもの」
ネリーが大泣き……
先日、仲直りした時、ネリーが目を真っ赤にしたのを思い出し、
ディーノは辛くなった。
しかし……今回はひとりでやろうと決めた。
金だけのつながりで、見ず知らずの人間へ助力を頼むくらいなら、
絆を結びつつある頼もしい戦友と組んだ方がずっと良い。
自分には、召喚した冥界の猛き魔獣ケルベロスが居るのだから。
「……ご心配をおかけしますけど、今回はあてがあるから大丈夫です」
「今回は『あて』があるって、もしかして、既に頼れる『仲間』が居るのね?」
「まあ……そんなところです」
曖昧な言い方でディーノが返すと、
ネリーは少しだけ安心したらしい。
「うふふ、マスターが自慢気に仰っていたわ」
「え?」
「ディーノ君は、この私と引き分けた強い男の子だから絶対に大丈夫だって」
実技試験で対戦したミンミが、太鼓判を押してくれたという事実。
ケルベロスが戦友だという秘密。
そして討伐対象となる凶悪な山賊バスチアン……
つらつらと考えていたら、
ふと、怒り狂った幼馴染?ステファニーの顔が浮かんだ。
そうだ!
と、ディーノは心の中で手をパンと叩いた。
悪鬼のようなあいつに比べれば、どんな奴だって怖くはない!
ディーノは依頼成功をイメージし、改めて気合を入れ直したのであった。
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