表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/337

第33話「ネリーが先生③」

 結局……

 『ステファニー問題』に関しては、ネリーから妙案が出なかった。


 ステファニーもいずれは冒険者になる事を思い出し、

 『冒険者約定書』第8項の内容から連想して、

 プライベートな事情を打ち明けてしまった。


 仲良くなった気安さから、つい成り行きで、ネリーに相談してしまったが……

 まずい事をしたのかもしれないとディーノは思った。


 何せ、ステファニーは上級貴族たる辺境伯の娘。

 身分差にうるさいヴァレンタイン王国では、ディーノ達庶民との力関係がはっきりしている。

 面倒事になった場合、ディーノへ力を貸した庶民のネリーが不快な思いをするのは目に見えていた。


 それ故、ディーノは後悔した。

 ネリーにはもっと違う別の案件を相談すべきだったと。

 適材適所という文字も心に浮かんで来る。


 結局、ステファニーとの事は、自分でカタをつけなければならない、

 そう感じていた。


「ネリーさん、ごめんなさい。そのお嬢様の件ですが、やっぱり俺、自分で何とかします」


「そ、そんな……」


「彼女の事は俺自身の問題です」


「…………」


「俺が自分の力で決着をつけないとだめだ、強くそう思いました」


「…………」


 ネリーはディーノの決意を聞き、苦しそうに顔を歪めた。


 ああ、やっぱり話さなければよかった……

 しかしディーノは「すぱっ」と切り替えた。

 こういう時はやはり、『別案件』でネリーへ頼るに限ると!


「ところでネリーさん、俺が初めて請け負う依頼の件なんですが……」


「…………」


 ディーノが問いかけても、ネリーは無言であった。

 何か、考えているようである。


「こんな遅い時間に来て、楽ですぐ終わって、その上報酬が高いなんて、虫のいい案件はありませんよね?」


「うふふっ! 依頼はいくつかあるよ~っ。でもランクCに相応しく……結構難度は高いかな!」


「え?」


「実は! ディーノ君のデビュー案件、しっかりキープしといたからね」


「な? で、でも……」


 それこそ……ネリーさんが他の冒険者から『エコひいき』と糾弾されるのでは?

 という懸念が強くよぎったが……


 そんなディーノの気持ちを読み取ったように、


「心配ない! ノープロブレム!」


 と言い、ネリーはにこっと笑った。

 彼女も気持ちを切り替えたようだ。


 まるで、大雨が降った後、大空にかかる美しい虹のような笑顔だと、

 ディーノは感じた。


 でも……

 ダメ元で言ってみたが、そんな優良案件があるなんて意外だった。


「ど、どうして」


「優良案件を敢えて公開せず、ディーノ君用にキープしたのはね、マスター、サブマスター、両名からの厳命なの、いわば業務命令よ」


「は? ミンミさんとブランシュさんが!?」


「ええ、君を気持ち良くデビューさせてやれって! それも別々に頼んで来たよ、この果報者ぉ!」


「果報者って……まるで違うと思います。多分、俺の事、頼りない弟みたいに思ってるんですよ、ミンミさん達」  


「あ! それ当たってる。私も凄くそうだから」


「な、成る程、ははは……」


 乾いた笑いを発したディーノは、力なくネリーを見つめたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 いよいよネリーから依頼を提示して貰える。

 つまりディーノの冒険者デビューである。


 ワクワクしていたら、何とストップがかかった。

 依頼発注に関して、ネリーは事前に『講義』を行うつもりらしい。


「そもそも! 冒険者ギルドが提供する冒険者の依頼案件は大別すると5つに分けられます」


「5つ、成る程!」


「まず、最も大人気なのが討伐系」


 討伐依頼が最も大人気……

 

 確かに……

 己が強くなりたいという決意は固い。

 だが……ディーノは基本的に戦いは苦手だし、大嫌いだ。

 話し合いで済めば、それに越したことはない、そう思っている。

 

 でも冒険者になれば『争い事』は付き物だと亡き父は語っていた。

 捕食者である人外の魔物は勿論、害意ある人間とも『戦い』は避けては通れないだろう。


「大人気……なんですか、討伐系? 魔物や賊が怖ろしくないんですかね?」


「ええ、ディーノ君みたいに実戦で、恐怖を克服し、己の腕を磨きたいっていう冒険者がわんさか居るから」


「わんさか居る……成る程」


「遂行内容は……我々に仇名す悪魔、魔族、魔物、魔獣、不死者アンデッド等を掃討し、討伐料を受け取るもの、報酬は相手の強さや達成条件によって異なるわ。……それに人外だけではなく山賊など人間の討伐依頼もあります」


「うん、分かり易いですね」


「うふ、続いては探索系の依頼、または調査系とも言うわ」


「何となく想像出来ます」


「何か事件事故が起こった時、または省庁や学校関係からの学術調査的な依頼が多いわ。また危険に満ちた未知の領域を確認する事もあるわね」


「な、成る程」


 未知の領域……

 ディーノは何となく、異界から来るケルベロスを思い出した。

 彼が棲む世界は一体どのような感じなのかと考えるが、想像すら出来ない。


「遂行の流れとしては探索し、調査も行い、ギルドを経由して、結果を依頼者へ報告します、当然ですけど、報告内容は事前に決めておきます」


「でしょうね、後で不充分だとか言いがかりをつけられ、挙句の果てに不払いというのトラブルもありえますもの」


「ディーノ君の言う通り、この依頼に限らず、達成条件認識の相違はトラブルの原因になりかねません。冒険者へ依頼提示前に達成条件を精査し、具体的で明確なものにする交渉はギルドの方でやります」


「それ、助かりますね」


 ギルドは依頼案件の報酬から手数料を取り、その利益等で運営している。

 つまり目の前のネリーの給金もディーノ達冒険者の働きから出る。


「うふふ、じゃあ次、採取系」


「あはは、これも分かり易いですね」


「そうね、採取する対象は多岐にわたるわ」


「ですね!」


「武具防具に使う、魔物や動物の部位、またはズバリ食料、魔法薬の材料等々、いくらでもあるわね」 


「で、依頼者が希望する数量を確保し、ギルドへ納品すると完遂」


「その通り! 採取する対象の価値により報酬は異なりまぁす。じゃあ、あと残りはふたつ」


「ふたつ?」


「ええ、まずは護衛系、これは要人警護を始め、商隊などの護衛も含まれる。一定期間、対象を害意を持つ相手から守り切る仕事」


「成る程」


「護衛対象の命を守るのは勿論、怪我もさせられないから、完璧な遂行を求められる難度が高い依頼なの」


「相当、神経を使いますね」


「ええ、護衛対象や条件によって報酬が極端に変わるのも特徴ね」


「ですね」


「最後は以上の範疇はんちゅうに入らない依頼、つまりその他」


「その他……ですか」


「ええ、これは基本的にギルドの仕事だけど、報酬を決める際、これまでの例や実績を基に依頼相手と交渉するの」


「成る程」


「その他依頼はあまりにもイレギュラー過ぎて、前例が皆無に近いものなどを指すわ」


「ありがとうございます。理解しました」


「はい、これで事前講義は終了、じゃあ依頼の提示を行います、準備はOK?」


「はいっ! お願い致しますっ」


 こうして……

 ネリーの事前講義は終了した。


 ディーノは徐々に、自分が冒険者になったのだと実感が湧いて来た。


 今度こそ!

 いよいよ冒険者デビューだ!


 俺は父の後を追う!

 ロランさんの遺志を受け継ぐ!


 ディーノの胸には……

 未来への強い決意が激しく燃え盛っていたのだった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。


東導号の各作品を宜しくお願い致します。


⛤『魔法女子学園の助っ人教師』

◎小説版第1巻~7巻

(ホビージャパン様HJノベルス)

大好評発売中!

◎コミカライズ版コミックス

(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)

第1巻~2巻も大好評発売中!

※月刊Gファンタジー大好評連載中《作画;藤本桜先生》

☆4月17日発売予定のGファンタジー5月号に最新話が掲載予定です。

また「Gファンタジー」公式HP内には特設サイトもあります。

コミカライズ版第1話の試し読みも出来ます。

WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。


マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が好評連載中です。

毎週月曜日更新予定です。

お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。


最後に、連載中である

「帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者」

も宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ