第32話「ネリーが先生②」
ネリーが提示した約定書は下記の通りである。
確かにディーノは同じモノを昨日ミンミから見せて貰っていた。
だが、もう一度……目を通してみよう。
ディーノは再び『冒険者約定書』を念入りにチェックして行く……
冒険者基本約定書
①契約について
冒険者ギルド《以下ギルドとする》に登録者は、
登録した時点で、ギルドと冒険者の間において自動的に雇用契約が発生する。
雇用契約解除の理由に関しては、冒険者の自己都合、引退、解雇他がある。
②冒険者レベル
最低ランクのGから最高ランクのSまでの8種類がある。
ランクに関しては登録証発行の際に試験官との面談、
及び実技試験で認定し、最終決定される。
ランクB以上のランカーを上級とする。
③依頼について
依頼には全てランクが設定されている。
基本的に自分のランクより、ふたつ上のランクまで依頼の請負いが可能となる。
但しギルドマスターが認める特例もある。
依頼を一旦受諾した上で、正当な理由がない場合の未達成や放棄、一定時間以上の放置、もしくはギルドへ未報告の上での未達成や放棄、一定時間以上の放置は、
ギルドが行う審査を基に、罰金及びランクダウンの対象となる。
また契約の中途解除が冒険者の自己都合の場合、
冒険者はギルドが定めた規定の違約金をギルドに支払う。
逆に依頼主やギルドの都合で契約を中途解除する場合は、
ギルドが定めた範囲内で違約金を受け取る事が出来る。
付帯条件や報酬の相違、契約内容に誤記、不備があった場合は、
ギルドが定めた範囲内で規定の違約金をギルドから受け取る事が出来る。
但し、時期や内容によっては違約金は異なり、具体的な内容を加味して金額を決定する。
なお違約金の最高額は報酬の満額までとする。
④ランクアップについて
ギルドが紹介する依頼には全てポイントが設定されており、
受諾した冒険者が依頼を遂行する度に貯まって行く。
各ランク毎の達成ポイントになると、冒険者のランクはその都度アップする。
また冒険者がランクアップを希望する場合は、内容を確認の上、
基本的には本人がギルドへ直接、更新申請をする必要がある。
例外としてギルドマスターが認め、手続きを簡略化する特例の場合がある。
⑤ギルドを介さない直接の依頼について
死亡、負傷等、何があってもギルドは一切責任を負わない。
⑥指名依頼について
ランクB以上の冒険者には指名依頼が入る場合がある。
また王国、貴族や各ギルドからの指名依頼が入る場合もある。
指名された当人及びクランが受けるかどうかは一応任意である。
受けなくてもギルドからの罰則は無い。
国難レベルの指名依頼の場合は基本、冒険者に拒否権は無い。
但し冒険者の有する国籍によって若干は考慮される。
⑦違反及び犯罪行為について
犯罪行為、ギルドに対しての規則違反、同じく不利益や名誉を損ねる行為をした場合は、ギルドが定めた規定の罰金を支払い、除名、捕縛、鞭打ち、入牢、追放等の対象となる。最終決定はギルドマスターの判断を優先する。
なお、犯罪行為に対する司法処分とは別途の処分となる。
⑧冒険者同士の争いについて
ギルドは基本的に不介入である。
但し、例外もある。
⑨上記条項内の特例について
内容、実施に関しては、ギルドマスターがその都度判断する。
⑩上記以外の条項に関して
ギルド、当事者間で話合い、解決に向けて努力する事。
必要ならば、ギルドマスターの判断で新たに条項へ加える場合もある。
以上。
ディーノは、冒険者基本約定書を2回、3回と読み返した。
……ひとつだけ気になる箇所があった。
「ネリー先生」
「はい! 記載内容に関して質問でしょうか?」
「は、はい……第8項なんですが……」
「第8項……冒険者同士の争いについて……ね?」
「は、はい……」
「何かしら? この前起こった英雄亭乱闘事件ではないよね? あれは正当防衛だったから」
「ち、違います。英雄亭の件ではないです」
ディーノは即座に否定した。
動揺が見て取れる。
珍しく動揺するディーノを目の当たりにして、ネリーは訝し気な表情となる。
「ディーノ君、何か心当たりとか、後ろめたいところでもあるの?」
「な、ないですけど……仮にというか、イフの話として聞いて貰えますか?」
イフの話?
もしものって事?
変だとは思ったが、ネリーはとりあえず話を聞く事にする。
「いいわよ、話してみて」
「ええっと、少し遠回しな言い方で申しわけないのですが……」
「何でしょう?」
「地方貴族、仮に辺境伯としましょう」
「ふむふむ」
「辺境伯にはひとり娘が居て」
「ふむふむ」
「仕えていた少年――従者の幼馴染を自称していました」
もしや恋愛の話!?
少年の恋愛話とはいえ、ネリーは胸が高鳴る。
「わぁお! 幼馴染? 貴族令嬢ね。そして従者として仕えていた少年?」
「はい」
「それって貴族令嬢と平民という身分の差を乗り越えるロマンチックな愛の話とか?」
「いえ! 断じて違います!」
「き、きっぱり否定するわね……それで」
「ある日少年が突然、か、解雇されて王都へ、そ、それで、ひ、ひとり娘も後を追っかけて、王都へ来て」
「ひとり娘も? 王都へ? やっぱり恋バナじゃないの、それ?」
「い、いえ! 全然違います!」
「……続きを話してくれる?」
「はい、仕えていた少年は冒険者となって、ひとり娘も同じく冒険者になって」
「冒険者となって、ふたりは王都でめでたく結ばれるって事?」
「いえ、ふたりはめでたく結ばれないんです! 少年にとって、そのひとり娘は全く恋愛対象ではないんです」
ひとり娘は全く恋愛対象ではない!
断言するディーノを見て、ネリーにはピンと来た。
「ははぁん、ディーノ君はその子から一方的に追いかけられているわけね」
「そ、そうなんです! 一方的で困るんです! えらい迷惑なんです!」
ネリーの問いかけに対し、ディーノは否定せず、同意した。
それもひどく激しく。
「やっぱりそうか! あはは、困ってるのね?」
「笑い事じゃないですよ、困ってるなんてもんじゃないです」
ネリーは当事者ではない事もあり、
ここまでは殆ど笑い話だと思った。
つい、軽口を叩く。
「だって! 好きな人を追いかけるなんて、可愛いもんじゃない、そんなの」
「全然可愛くないですよ、オークをグーパン一発で殴殺するような子ですから」
は?
何?
今、衝撃の事実を聞かされた気がする。
……恋バナの浮き浮き気分は完全に吹っ飛んだ。
しかしすぐには信じられない。
かよわい貴族令嬢が凶暴なオークをグーパン一発なんて……
「オークをグーパン一発!? う、嘘!!」
「ホント! 俺、目の前で見ましたから!」
「…………」
「ネリー先生、ここからが本題です」
「…………」
「ある筋から情報が入りまして、彼女が王都へ来るのは確実なんです、冒険者になる事もです」
「…………」
「欲しがるものは、どのような手段を使っても、手に入れようとする子なんです」
「…………」
「もしも俺が無理やり、且つ一方的に巻き込まれても、ギルドは完全に不介入なんでしょうか?」
「…………」
「どうなんでしょう?」
それまで、立て板に水。
とても流暢な話しぶりだったネリーだったが……
いびつな愛に悩めるディーノに迫られても、良き答えが見い出せず、
ずっと黙っていたのである。
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