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第298話「助けてあげれば良いのよ①」

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「わはははははははは!」

「あはははははははは!」


「ははははははははは!」


 フォルミーカ迷宮地下50階層小ホール……

 携帯用の魔導灯に照らされた空間に男女3人の大きな笑い声が響いていた。

 笑っているのは当然、ディーノと、ウッラにパウラ。


 双子姉妹に対し邪な感情を持つガエル・カンポ率いるクラン大狼の総勢10名を、

 完膚なきまで叩きのめし、二度と付きまとわないよう撃退したのだ。


「わははは! 本当にざまあだ! ざまあみろだっ! ガエルの奴ったら、負け犬のようにしっぽを巻いて逃げやがった」

「うふふっ、ディーノ君にぶっとばされて、顔が腫れて真ん丸になってた! いい気味!」


「ええっと、ウッラさん、パウラさん、お茶を淹れ直しましたから、もう一回飲みましょう」


「おお、頂くぞ!」

「ことさら美味しいお茶ね! ばんざ~い!」


 という事で、再びリラックスした3人は今度こそ寝る事となった。


 ここで何と!

 驚愕の提案があった。


「おいディーノ、私達姉妹と3人、テントで一緒に寝るか!」

「私と姉さんで、ディーノ君をはさんで、ぎゅっとサンドイッチにしてあげる」


「え? い、いや結構です」


「私達姉妹は着やせするタイプだ。胸は結構豊満だぞ」

「うふふ! 男子の誰もが大好きなぱふぱふをしてあげるわ」


「え、遠慮しておきます」


「何だ、ディーノ。お前、ドスケベな大狼ビッグウルフの奴らと真逆だな、女が好きじゃないのか?」

「ディーノ君は、もしかして、草食系?」


「い、いや……」


「あ! 分かった、ディーノ、お前、女が居るな?」

「私達へ深入りすると、浮気だって怒られるんでしょ? 白状しろ! ディーノ君! 彼女居るでしょ?」


「えっと、居るような、居ないような……」


「おお、その言い方は怪しい!」

「ええ、姉さん、今のは彼女が確実に居る男子特有の言い回しね」


 散々いじられたディーノであったが……

 ウッラ、パウラと同衾する事は、何とか回避する事が出来た。


 疲れていたのか、寝付きが良いのか……

 双子姉妹はあっという間に寝てしまった。

 軽い寝息が聞こえて来る。


 戦友達の見張りもあると安心し、いつもより深く眠ってしまったようだ。


 一方、ディーノは迷宮の床に毛布を敷き、横になって目を閉じたが……

 中々、寝付けない。

 何度、目を閉じても眠れなかった。


 仕方なくディーノはずっと起きている事にした。

 4つの通路に陣取る戦友達を労わったりしているうちに……

 どこからともなく声が聞こえて来る。

 ディーノの心に直接響いているようだ。


『ダーリン』


 これは……念話である。

 それも大いに聞き覚えのある声だ。


『ヴィヴィ様!?』


『あったり~! おひさぁ!』


 明るい声と共に、いきなり何もない空間が割れ、小柄な少女が現れた。

 くるりと空中で一回転。

 ひらりと、床へ降り立った。


 少女の身長は150㎝に遠く及ばない。

 130㎝前半といったところ。

 年齢は12,3歳だろうか。

 

 健康そうな褐色の肌。

 ブラウン髪のショートカット。

 複雑な刺繍ししゅうが施された、茶色の革鎧をまとう、愛くるしい顔立ちの少女。

 そう、空気界王オリエンスと共に、ディーノへ加護を与えし、地界王アマイモンの愛娘ヴィヴィである。


 ディーノの顔を見て、ヴィヴィは悪戯っぽく笑う。


『うふふっ、地脈を通ってここへ来たよ。寂しかった?』


『ま、まあ……』


『そんな事言っちゃって、このこの~、しっかり浮気してるじゃない』


 さきほど、ウッラとパウラから誘われた

 『サンドイッチ&ぱふぱふ』の事を、ヴィヴィは言っているのだろう。

 

 だが完全にカマかけである。

 ディーノはきっぱり断り、ひとりで寝ていたからだ。


 なので、首を横に振り、否定する。


『いや……浮気してないっす。ヴィヴィ様は見てたでしょう?』


『うん、見てたよ。確かにしてない。エッチ心を寸止めして偉い、偉い』


『もう……あんまり騒ぐと気付かれますよ、ウッラさん鋭いから』


 ディーノはテントを「ちら」と見た。

 しんと静まり返っており、ウッラとパウラは起き出して来る様子はない。


 だが、それには理由があった。

 ヴィヴィはVサインを突き出した。


『だいじょうぶい! 魔法で眠らせてるから』


『はあ、そうなんすか』


『うん、それより、いくつかダーリンに伝えたい事があって来た』


『いくつか?』


『やっぱ、火界王パイモンが現れたでしょ? 見張りをしてるあのファイアドレイクは、彼からのプレゼントだもの』


『ファイ……ですよね? そうです。パイモン様から授かりました』


『まあ、成り行き上、仕方がないわ。パイモンの顔を潰すわけにはいかないから』


『そんな感じでした。断れる雰囲気じゃありませんでしたから』


『だからね、使い魔のプレゼントを受け取った時点で、ダーリンは火界王の加護も受けた事になるのよ』


『成る程……俺は火の使徒にもなったって事ですね』


『うん! それともうひとつ! ダーリンは、まもなく覚醒するよ』


 覚醒!?

 ここまで凄い能力を得ているのに?


『え? ヴィヴィ様が仰ったじゃないですか? 俺は覚醒して既に魔人ですよ』


『うん、確かに今でも魔人級。でも更に覚醒して、魔人をも超越する存在になるのよ。ならないと、この迷宮の王には勝てないわ』


『ゼロ迫撃だけじゃ、ダメっすか?』


『ええ、苦戦するわ』


 ヴィヴィの言葉でピンと来た。

 予感が確信へ変わって行く……


『う~ん。やっぱ、甘くないですね。王ってのは、俺が以前に会ったあいつっすよね?』


『ええ、あいつよ。悪魔メフィストフェレスよ』


 ディーノの確信通り、ヴィヴィはズバリと『王』の正体を言い切った。


 やはり……

 フォルミーカ迷宮に降臨した『王』とは、人間の魂を集めていた大悪魔メフィストフェレスであった。


『どうしたら、良いんすかね……奴を倒す為には……』


 最強奥義だけでは倒せないと言われ、苦渋の表情を浮かべるディーノ。

 しかし、ヴィヴィはあっさりと告げる。


『ダーリンが、あの子達の宿命を受け止め、助けてあげれば良いのよ』


『え? あの子達って、ウッラさんとパウラさんですか?』


 双子姉妹が時たま発する言葉から、何か陰があるとは感じていた。

 思わず聞き返すディーノに対し、ヴィヴィは「そうだ」と大きく頷いたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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