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第296話「闖入者①」

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 ウッラとパウラは見た目は華奢きゃしゃな女子だが、食欲は旺盛である。

 あっという間に肉セット、野菜セットを完食してしまった。


 食欲だけでなく、ディーノが作った料理が美味かったせいもある。


「うむ、はっきり言ってネーミングは超ダメだ。しかし、激うまだった」

「ええ、美味しかったわ。でも名前は、姉さんの言う通り、行けてない。改めて私達で考えましょう」


「え~! ど~してですか? このままで良いっす。肉セット、野菜セットで」


「駄目だ! 駄目だ! 駄目出ししてやる! 超ダサい!」

「子供でもつけないわ、そんな名前」


 調理用具を仕舞い、後片付けをした後……

 熱い紅茶を飲みながら、いじりいじられを続けていた3人である。

 だが、突如ディーノがハッとした。


 戦友達からも念話で連絡が来る。


「この小ホールへ近付いて来る奴らが居ます……これは人間の男、それも複数です」


 ディーノが言えば、ウッラが「うんうん」と頷いている。


「うむ、この、いや~な気配は私達姉妹が良く知る気配だ」


「良く知る嫌な気配……ウッラさん達の知り合いですか?」


「うむ! ランカーの冒険者だ。一応、顔だけは知っている。深い付き合いではないというか、はっきり言って、かかわりたくない赤の他人だ」

「ええ、姉さんの言う通り。あっちは……私達と深い仲になりたいみたいだけど。全くのノーサンキューだわ」


 ウッラとパウラの言葉を聞き、ディーノはピンと来た。

 以前『狐亭』で、双子姉妹はナンパされた事がある。

 接近して来る中に含まれているのは顔見知りの男。

 そいつも、何度もふたりを口説いているらしい。

 

 しかしウッラとパウラは、その男を好まず、きっぱりと拒絶しているようだ。


「そいつも含め、腕はそこそこ立つ奴らだ。しかし所詮は人間。ファイ達には敵わないだろう」

「但し、あっちはファイちゃん達を敵だと思い、いきなり攻撃して来るでしょうね」


 ファイ達へ攻撃を仕掛けた場合、並みの冒険者なら、瞬殺されてしまう。

 ランカーであっても、あっさり倒されてしまうだろう。


 全く知らない相手なので、ディーノはウッラとパウラへ判断を仰ぐ事にした。

 

「奴らは大狼ビッグウルフという冒険者クランだ」

大狼ビッグウルフのリーダーが、そのうざいストーカー男、ガエル・カンポなの」


「ええっと、そのクラン大狼とやらは、どう始末しますか?」


「うむ、始末か。よし、あいつらはうざい! ぜひそうして欲しい!」


 ウッラはガエルという男と仲間が生理的に苦手のようだ。


 一方、パウラは姉よりも冷静だ。

 

「殺すまではどうかな……でも、確かにうざいわね」


 これでガエル達、大狼ビッグウルフへの対処は決まった。

 

 殺しはしない。

 でもウッラとパウラの目の前に、二度と姿を見せないようにすると。


「ちょっち、作戦があるんですが……協力して貰えますか?」


「ディーノに作戦?」

「私達が協力?」


「ええ、こういう段取りなんですが……ファイ達にも協力して貰います」


 ディーノの話を聞き……

 ウッラとパウラは大いに面白がった。

 そしてディーノの『作戦遂行』をOKしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「この紅茶、美味いな!」

「ええ、姉さん、美味しいわ」


「でしょ? 俺のお気に入りなんです」


 何事もなかったかのように、ディーノと、ウッラ、パウラがお茶を飲んでいると、

 ひとつの通路から、どやどやとクラン大狼ビッグウルフが現れた。

 男ばかり、総勢10人居る。


 ディーノの指示で、ファイ、ケルベロス、オルトロスは指輪へ戻っていた……

 ジャンは、黒猫の姿へ戻っている。


 改めてディーノが見やれば……

 リーダーのガエルは背が高く筋骨隆々、日焼けした40代の中年男だ。

 顔は下半分が髭ひげに覆われていて、目が鋭い。

 見た目で判断は出来ないが、けして正義の味方という雰囲気ではない。


 ガエルの仲間も同じようなタイプであり、魔法使いや僧侶さえ、マッチョなタイプである。

 全員、ウッラとパウラを好色な目で見つめ、ずかずかと近付いて来た。

 一緒に居るディーノなど、完全にアウトオブ眼中という雰囲気だ。


 ガエルは馴れ馴れしい態度で双子姉妹へ声をかける。


「おほう! 苦労したよ! とうとう追いついたぜ、ウッラにパウラ。こんなガキとおままごとして遊んでたのか」


 対して、ふたりは完全に無視。

 言葉を発さない。


「……………」

「……………」


「おいおいおい! もう、手間かけさせるな! ふたりとも俺達の女になり、クラン大狼へ入れ! 全員で思い切り楽しもうぜ!」


 俺達の女?

 全員で思い切り楽しもう?


 ……どうやらガエルは、ウッラとパウラを仲間というだけでなく、全員共通の愛人にしようと誘っているらしい。

 こんな誘いは断るのが当然である。


「断る!」

「ふざけた事言わないで、お前らなんか二度と会いたくないわ」


 ウッラとパウラの「拒否」の言葉を聞き、ガエルはにやりと笑い、ぺろりと唇を舐めた。


「ほう! じゃあ、力づくで俺達のモノにしてやる」


「何だと! この外道!」

「最低ね!」


「何とでも言え! 快楽は全てに優先する。こっちはランクB以上の腕利きが10人だぜ。10人がかりなら、いくらお前ら姉妹がランクAでもふたりじゃ敵うわけない」


 ディーノはやはり眼中になく、完全に無視されている。

 

 となれば答えは出た。

 こいつらを再起不能になるくらい、思い切りぶっ飛ばすと。


 ディーノは立ち上がると、ガエルの前に立ちふさがった。

 背後のウッラとパウラの間に入る形となる。


「おじさん、強引すぎます。女子達は凄く嫌がってますよ」


「何だと?」


「あまりしつこくせず、大人しく街へ帰った方が良いっす」


 どがん!


 ディーノが帰還を促す言葉を発した瞬間。

 ガエルの大きな拳が、ディーノの顔面を捕えた。

 同時にディーノは、小ホールの隅へ吹っ飛んでいたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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