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第287話「真っ向勝負!?」

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 地下30階層小ホール……


 このフロアで存分に、昆虫軍団とバトルを繰り返した一行は……

 もう充分だと判断し、小休息していた。


 ちなみに、地下40階層への魔導昇降機はすぐ最寄りである。

 ゴキブリに恐怖し、びびりまくっていたディーノであったが……

著しく変貌していた。


「よっし! もう大丈夫っす! 来るならいつでも来いって感じですね」


「ディーノ、お前極端だな……」

「ゴキブリが全然怖くなくなれば、もしかして無敵状態? まあ私達姉妹にはありがたいけど……」


「ははははは! 盾役タンクは任せてくださ~い!」


「むむ、キャラも全く変わってるぞ」

「あ~あ、慎み深いディーノ君は、一体どこへ行ったの?」


「おふたりとも、聞いてください。そりゃ、このフロアのゴキブリを殆ど倒せば、人格ガラリと変わりますって」

 

「まあ、なあ……」

しまいには、ディーノ君。突き抜けちゃって、このフロア中、ゴキブリ探し回っていたもんねぇ……途中で出現したアリ、蜘蛛、カマキリには思いっきり無双してたし」


 パウラの言う通りであった。

 「開き直った」ディーノは、自ら天敵『コードネームG』を索敵、

 逃げた者さえ、フロアの隅まで追跡し、徹底して殲滅したのである。


「おい、ディーノ、魔法剣を撃ちまくって、散々魔力使ったが、どうなんだ?」

「魔力ポーション使っとく?」


「いや、全然大丈夫っす。魔力はちょっと減ったけど、もう満タン状態ですから」


 地の精霊ヴィヴィの告げた事は偽りではなかった。

 常人の100万倍かどうかは分からないが、数千発以上魔法剣を撃っても、ディーノの魔力は大して減らなかった。

 ちなみに減った分も、数分で復活していた。


「はあ?」

「MP使い放題?」


「と、いう事で、このフロアはクリアです。ひと休みしたら、とっとと地下40階層へ行きましょ。それで質問でっす」


 魔導昇降機で10階下層へ行く度に、ディーノは質問していた。

 なので、双子姉妹は来るべき展開を充分予想していた。


「わ! お決まりパターン来た!」

「そろそろ聞かれると思って、答えは用意してあるわ」


「ではではお願いしまっす。毎度ですが、おふたりへお聞きします。次の地下40階層の強敵は何ですか?」


「地下40階層の主力は脳筋トリオだ」

「そうそう、悪く言えばね。良く言えばパワー系よ」


「脳筋トリオにパワー系……何となく想像付くっす」


 ディーノの脳裏に数種類の魔物が思い浮かんだ。

 果たして、想像は……当たっていた。 


「うむ、腕力と体力だけが取り柄のやからだ」

「うふふ、具体的に言うと、オーガ、ミノタウロス、そしてゴーレムよ」


「うっわ! やっぱそうっすか。確かに脳筋トリオっすね」


「うむ、奴らは力こそが正義。魔法は使わん。ミノタウロスだけが武器を使う。斧か打撃系の武器だ」

「と、いう事で、ディーノ君、どうするの?」


「はい、今お聞きして、一応は考えました。……戦うの楽しみですよ」


 地下40階層の敵情報を聞き、ディーノは不敵に笑っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そして一行は地下40階層に来た。

 ウッラから再び希望が出たので、ファイの先頭にケルベロスとウッラ、ジャンが続き、その背後にディーノとパウラ、最後方へオルトロスという配置に戻っていた。


 望みが叶い、嬉々として歩く姉ウッラを見守りながら、妹パウラは問う。


「ディーノ君、良かったら教えてくれない? パワー系と戦う方法って何?」


 対してディーノは苦笑した。


「いえ、方法ってほどじゃないです。力で対抗するだけなので」


 パウラはびっくりした。

 姉は茶化して『脳筋トリオ』と言っていたが、オーガやミノタウロス、ゴーレムへ人間がまともに力で太刀打ちして、絶対に敵うはずがない。


 彼等は皮膚や装甲も、とてつもなく頑丈であり、人間の柔な生身の拳でダメージを与えるのもひと苦労だ。


 聞き違い?

 勘違い?


 念の為、パウラは尋ねてみる。


「ええっ、力で対抗って、真っ向勝負!? ま、まさか、き、君の膂力りょりょくで、奴らとまともに力比べするつもり?」


 パウラはディーノを改めて見た。

 やや長身で痩躯。

 どこから見ても筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の『偉丈夫』という感じではない。


 しかし……

 やはりディーノが奴らに挑むのは……


「はい! 真正面から力比べします」


「真正面って!? 呆れたわ、君には! ……って、もう毎度のセリフになってるわね」


 だが、ディーノは単に無謀なだけではなかった。


「はあ、俺の経験した戦いで、一応パワー系の物差しはあります」


「パワー系の物差し?」


「ええ、パウラさんは、オークカーネルって上位種知ってます?」


「そんなの当たり前! 知ってるわよ……でも……え? まさか! で、でも!!」


 パウラの脳裏には、いろいろな想像が現実と交錯したらしい。

 そして最後に、ディーノなら奴らパワー系とまともに戦える!?

 という半信半疑状態になったようだ。


「予想以上にガタイは、でかかったっすけど……俺、そいつの拳を受け止めた上、素手で倒したんで……あいつと普通種のオーガと、どっちが強いすかね?」


 やはり……

 ディーノはとんでもなかった。


 パウラの持つ知識において、オークカーネルはオークの中でも最強を誇る上位種である。

 ガタイの大きさも強さも半端ない。


 戦闘に長けた人間なら、剣や魔法を使えば、オークカーネルとまだ戦える。

 しかし、素手?

 そんな怪物を素手で倒した!?


「はあ!? な、何それ!! ディーノ君!! も、もっと!! 詳しく話を聞かせて!!」


 ますます驚いたパウラが大声で叫んだ瞬間。


「おい! 敵だぞ、パウラ! ディーノ! 戦闘準備だ!」


 シーフ役のウッラから敵襲が伝えられた。


「お! 早速っすね。……まあ、見ててください。俺ひとりでやりますから」


 ディーノはそう言うと、拳を「ぎゅっ」と握りしめたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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