第284話「どのような事があっても!」
ディーノは心に浮かんだ推測に危惧の念を抱き……
ウッラとパウラへ地上への帰還を勧めた。
しかし、当然ながら姉妹は激しく反発する。
突如且つさしたる理由もなしに帰還せよとは、ランクAの冒険者には、
到底受け入れられるものではない。
「おい、ディーノ! いきなりどころか、そんなイミフの説明で、はい、わかりましたと、叱られた子供のように帰れるわけがないだろが!」
「姉の言う通りよ。君の話は曖昧過ぎてわけがわからない」
「…………」
ディーノは迷っていた。
ふと心に浮かんだのは推測というか、予感に近いものだ。
ウッラとパウラへ、具体的に告げるべきなのか、悩みどころだ。
「推測でも構わん! ちゃんと説明しろ!」
「ええ、仮定の話でもちゃんと聞いてあげるから」
姉妹は引き下がりそうにはない。
ふたりの言う事も尤もである。
仕方なく、ディーノは正直に告げる事とした。
「……分かりました。じゃあ話します」
「…………」
「…………」
「ウッラさん、パウラさん、以前、俺が悪魔に遭遇した話をしましたよね?」
「それがどうした!」
「あ、まさか、ディーノ君!」
勘の良いパウラは、すぐに気が付いたらしい。
さすが!
と、ディーノは苦笑した。
「パウラさん、分かりますか?」
また置いてけぼりのウッラがディーノと妹パウラを交互に見る。
「何だ、何だ?」
しかし、ここは話を進めた方が良いだろう。
ウッラもすぐ、話へ追いついてくるはずである。
「人狼どもが言っていた王とは、俺が出会った悪魔ではないかと思ったのです」
「な!? あ、悪魔! このフォルミーカ迷宮の王が悪魔だと!」
「やっぱり! だから私達姉妹の身を案じて、退けと言ったのね」
驚くウッラ。
しかし、パウラは「うんうん」と頷いていた。
完全にディーノの意図を察したようだ。
「ええ、俺が会った時、人をたくさん殺して魂集めをしていた奴は、邪魔をする俺に対し、ひどく怒っていました、それで命を取ると脅されたのです」
「成る程……この迷宮は、生と死の狭間に在る場所、人間どころか様々な生き物が大量に死ぬ……悪魔の魂集めにはもってこいだものね」
パウラの言葉を聞き、ディーノは記憶を手繰った。
悪魔……
メフィストフェレスは魂を集めていると言っていた。
ディーノが所持するルイ・サレオンの至宝を欲したのと同様、魔界の王となるのに、大量の魂が必要なのに違いない。
「そうです。だから、使い魔等に一見見返りがないのも納得がいく。悪魔が無報酬で、尽くすというケースは、自身の弱みでも握られない限り、考えづらいですから」
ディーノの言葉を注目して聞いていたウッラが、大きく頷いた。
ようやく「話へ追いついた」ようである。
「おお、今の話で、私にも全て理解出来たぞ。ようはこの迷宮を魂収集装置にする為、悪魔が降臨し、一見無償で褒美を与えるふりして、迷宮で死んだ冒険者の魂を回収している……そうだな? ディーノ」
ウッラもランクAの冒険者……
今のコメントが、ディーノの推測をズバリ告げていた。
「はい、さすがです。ウッラさんの言う通りです」
一方、パウラは腕組みをしていた。
腕組みは拒否を表す仕草だと、ディーノは亡き父から聞いている。
案の定、パウラの答えは「NO!」である。
「ディーノ君の話は、ようく理解したわ。そして私達を危険にさらしたくないという気持ちも良く分かった。良くあるセリフだけど、だが断る!……って感じかしら」
「何故です?」
「そんな怖ろしい悪魔が、もしこのフォルミーカ迷宮に居るのなら、必ず倒さなきゃいけない。そして絶対に逃せない相手も居るのよ。ねぇ、姉さん」
まとも意味ありげなコメントを告げるパウラ。
姉ウッラへ同意を求める。
当然!
という感じで、ウッラは頷く。
「ああ、そうだ、パウラ。絶対に許せない、私達姉妹が何を置いても、この世から根絶すべき敵が居る!」
「ええ、そうよ、姉さん!」
ウッラとパウラが、ここまでこだわる相手とは……
多分、吸血鬼の王であろう。
吸血鬼の王は、彼女達が倒した始祖の上を行くと情報屋のメリッサは言っていた。
であれば、この王はノーライフキングと並ぶ、不死者の頂点に位置していると言えよう。
吸血鬼の王を倒そうとしているのは、単にエメラルドタブレット奪取の為ではない。
姉妹の目的は金品ではない。
そうディーノは確信していた。
「……分かりました。そこまで言われたら、もう帰れとは言えません。その代わり、俺の指示を守り、無茶はしないと誓って貰えますか」
「一応、約束しよう」
「分かったわ、無茶はしない。ディーノ君の気遣いは嬉しいし、私達も命は惜しいから」
「俺の指示に従って貰う代わりに、おふたりの命は俺が守ります。どのような事があっても!」
「ディーノ……」
「ディーノ君……」
きっぱりと言い放ったディーノの視線は……
まっすぐにウッラとパウラへ向けられていたのである。
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