第275話「魂を打ち砕く!」
ディーノが剣を抜き放つと……
通路の奥にちょうど『敵』が現れた!
波動と気配で察知をしていたが……
やはり数種の不死者から構成されたクランというか、小さな群れである。
更に背後から、ウッラとパウラが出現した不死者どもの『解説』をしてくれた。
「おい、ディーノ! 奴らの構成だが、ウィルオウィスプが5体、スケルトン5体、そしてスペクターが3体だ」
「ディーノ君! ウィルオウィスプは相手を呪い燃やそうと自爆的な体当たりをして来る。スケルトンは肉体の制限がないから、生前より数倍上手く武器を使いこなすわ。スペクターは弱い瘴気を吐き、正気を失わせるおぞましい怨念を放って来るの。以上! 早口になったけど分かった? 気を付けて!」
「了解! ありがとうございます、おふたりとも。大いに助かります!」
ウッラとパウラの迅速且つ明瞭な解説により、ディーノは敵の数と特徴を把握する事が出来た。
だがディーノのとる戦法は既に決まっていた。
愛する想い人エマと共に、第二の故郷たる楓村を守り切った、
古の魔法剣士ブレイズ・シャリエ。
彼から伝授された究極の秘剣『ゼロ迫撃』を使うのだ。
これまでにディーノは1回だけゼロ迫撃を使った。
ぶっつけ本番で対ゴブリンシャーマン戦に使ったのだ。
そして2回目は発動するまでには到らなかった。
今や戦友となったファイへとどめを刺そうとした時、火界王パイモンが現れ、ディーノを止めたのである。
今回の課題は……ゼロ迫撃の不死者への効果を見極める事である。
骸骨のスケルトンへ、文句なく物理的な攻撃は効くだろう。
しかし!
実体なき幽体たるウィルオウィスプは?
そして亡霊スペクターは?
彼等にゼロ迫撃は必殺のダメージを与え、倒す事が出来るのか?
だが……
ゼロ迫撃は不死者へ必ず通用する。
ディーノはそう確信している。
根拠というか理屈は簡単だ。
単なる剣撃ではないゼロ迫撃は、肉体だけではなく魂をも打ち砕く。
あの悪魔メフィストフェレスもゼロ迫撃の威力を認め、まともに戦おうとしなかった。
そして……
不死者の本体はその魂の残滓……つまり単なる残りかすなのである。
よし!
ヴィヴィ様直伝の戦法を使いながら、奴らを殲滅する!
「ふう」と軽く息を吐いたディーノは、ダン!と迷宮の床を蹴り、
凄まじい速度で駆け出していたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
向かって来るディーノへ対し、まずはスペクターが冥界の大気、瘴気を吐いた。
パウラが告げたように濃度の薄い瘴気である。
だが、吐いた量自体は結構多い。
同時におぞましい怨念の波動も放って来た。
実体なき幽体だが、スペクターの外見はほぼゾンビと同じ、腐りかけた肉体である。
常人ならばスペクターの不気味な姿を見るだけで、気を失う。
しかしディーノは平気であった。
ほんの少しだけ「気持ち悪い」と感じたくらいだ。
怨念の波動も全く影響はない。
ヴィヴィとオリエンスの加護は勿論、悪魔メフィストフェレスとの対峙経験も大きかった。
上級悪魔を目の前にしたあの時の緊張感に比べれば、スペクターが放つ怨念など児戯に等しい。
ドラゴンとスライムの差くらいはあった。
不死者は相手の波動、つまり放つ魔力を感知し、敵とみなすと襲って来る。
その攻撃パターンは極端だ。
ディーノが以前戦ったゴブリンゾンビは、何の戦法も統制もなく、ただ無秩序に襲いかかって来るだけだった。
しかし今回の不死者の小群は違ったのだ。
スペクターの攻撃と時間差で、まるで誰かに命令されたかのように、ウィルオウィスプがディーノへ向けて殺到する。
今までのディーノならスピードを活かし、軽く躱していただろう。
ニヤリと不敵に笑ったディーノは逆に自ら接近、カウンター気味にウィルオウィスプへ、剣を振るう。
まずは最初のゼロ迫撃発動!
ばち! びし! ぶし! ぼん! ばん!
と同時に、剣撃を受けたウィルオウィスプが閃光を放ち、四散する。
ごくごく小さな花火のように魂の残滓が飛び散ったのだ。
「やった!」
と、そこへ今度はスケルトンが得物を持って「ぎくしゃく」とした動きで襲いかかった。
まるで攻撃直後に隙が生じるのを狙うかのように。
しかしスケルトンの動きはディーノから見たら、はっきり言って遅い。
ディーノは後方5m、一気に飛び退る。
スケルトン達の振るう得物は虚しく空を切った。
「遅い! お前ら止まって見えるぞ! その上、隙だらけだ!」
ディーノは着地すると、再び床を蹴った。
魔法を使い短く飛翔、一気にスケルトンへ迫る。
ふたつ目のゼロ迫撃発動!
ごしゃ! ごしゃ! ごしゃ!
物理攻撃が通じるスケルトン達は全て魂ごと粉砕された。
こちらは予想通り。
残るはスペクターのみ!
スペクターどもは相変わらずディーノへ向かって瘴気を吐き散らし、
怨念を送って来る。
「他の攻撃方法に切り替える」という発想はさすがにないようだ。
ふう!
再び軽く息を吐いたディーノはダッシュし、スペクターへ超接近。
腐りかけた姿を間近で注視しても全く動じない。
とどめのゼロ迫撃発動!
神速で剣を振るう。
しゃ! しゃ! しゃ!
鋭く大気を斬る音と共に、スペクター達が煙のように消失した。
空を切ったかに見えた剣撃は、現世へ留まる亡霊の魂を見事に両断していたのである。
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