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第269話「冒険者ギルド フォルミーカ支部③」

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 冒険者ギルド、フォルミーカ支部のギルドマスター、

 マクシミリアンは「にいっ」と嫌らしく笑った。

 蛇のような笑いである。


 悪意の波動が伝わって来る。

 どうせ裏がある、ろくでもない話に決まっている。


 しかし、このような時のディーノはポーカーフェイスだ。

 感情を表には出さず、淡々と尋ねる。


「マスター、簡単な仕事って、一体何でしょうか?」


 ウッラとパウラは以前、同じ依頼を打診された事があるらしい。


「まさか、私達が断った?」

「あの仕事ですか?」


 双子姉妹の言葉を聞き、マクシミリアンは再び嫌らしく笑った。


「ふふ、ぴんぽーん! あの時は断られちゃったけど、気が変わったとか言って、引き受けてくれない? 片手間で構わないからさ」


「片手間? あんなの、けして片手間で出来る仕事ではない! 断る!」

「姉の言う通りですよ。きっぱりお断りします」


 取り付く島もないという雰囲気で、双子姉妹は断固拒否。

 

 受けるか、断るのか……

 どちらにしろ、マスター直々の依頼である。

 

 詳しい話を聞いた上で判断したい。

 そう、ディーノは考える。


「あの~、全く話が見えないんですけど……でもおふたりが強く断るのなら、そんなに良い話じゃないですよね?」


「いやいや、良い話だよ、世の為になり、人の役に立つ仕事だ。ランクAの君達なら、楽勝だって! 良かったらディーノ君だけでもやってみる?」


「とりあえず、お話だけお聞きしましょう。俺達3人はクランですから個人行動は出来ないっす」


「ふうむ。ディーノ君はやっぱり年齢以上に落ち着いてる。15歳には全く見えない。冷静だねぇ……」


「普通です」


「いやいや、君は普通じゃないって。……じゃあ、説明しよう。仕事というのはね、迷宮における害虫駆除をする事なんだ」


 迷宮の害虫?

 ディーノは、いくつかの魔物を思い浮かべる。


 まだ戦った事はない。

 だが、亡き父クレメンテから聞いた魔者達だ。


「はぁ……ビッグマンティスとか、キラーアントとか、昆虫系の魔物を狩るのですか?」


 ビッグマンティスは、3mもあるカマキリ。

 キラーアントは、固い表皮を持ち、大群で獲物を食い殺す蟻の化け物だ。


 しかしマクシミリアンは、「ぶんぶん」手を横に振った。


「違う、違う、昆虫違う」


「でも害虫だって、今マスターは仰いましたよね?」


「うん、確かに言った。でもね昆虫系の魔物じゃない。ズバリ人間の害虫なんだよ」


 人間の害虫だと言われ、ディーノはピンと来た。

 アラウダ村の宿『狐亭』で腕相撲をした冒険者達から聞いた話である。


「迷宮で、人間の害虫……それって、もしやルーキーキラーの事ですか?」


 ディーノは、さりげなく尋ねてみる。

 果たして……ビンゴであった。

 

 『ルーキーキラー』とは冒険初心者を専門に狙う強盗である。

 いきなり襲ったり、親切を装ったりして、

 あの手この手で、経験の浅い冒険者を狙う。 


「そうそうそう! ルーキーキラー! このフォルミーカの評判を地に堕としかねない害虫! 冒険者の皮を被った最低の面汚しどもさ!」


「成る程……マスターの話が見えて来ましたよ」


「おお、私の言う事を理解してくれるのか!」


「はあ、何となく」


「嬉しいぞ! ディーノ君!」


 マクシミリアンは感極まったのか、素早く手を伸ばし、

 ディーノの手を握って来た。


 うわ!


 という顔で思わずディーノはドン引きした。


 片やマクシミリアンはおかまいなし。

 自分に酔っているらしい。

 熱く語って行く。


「奴らは最低だ! そもそも冒険者は! 生と死の狭間に立つ危険な職業だ! それゆえ、冒険者同士の連帯は欠かせない! その信頼を逆手にとり、騙し陥れ、命も金も奪うあいつらは外道! 全員地獄へ堕ちれば良い!」


 マクシミリアンの言う事は正論だ。

 しかし、この正論の裏には確実に何か『裏』がある。

 それを踏まえた上で、ディーノは同意する。


「はあ、マスターの仰る通りです」


 ディーノが自分の話に納得した。

 それゆえ、本題に進めると、マクシミリアンは認識したようだ。


「だろ! そんな外道を撲滅する為! 上級ランカーである君達が! 奴らを地獄へ送る! 正義のデスサイズを振るう、ジャスティスな死神になる! フォルミーカ公認のね!」


「はあ、ご依頼はようく理解出来ました」


「報酬は弾むよ! 出血大サービスの大盤振る舞い! 男女種族問わず、生き死にかかわらず! 基本ひとりにつき、金貨50枚あげちゃうよぉ! そしてぇ! 不届きにも万が一、ギルドのランカーだったら別途手当ても付けるぞぉ! ランクBで何と! ひとり500枚だよぉ! ランクAなら凄いぞぉ! 倍の1,000枚払っちゃう! 更に更に! 依頼受諾のみで! フォルミーカ永久名誉市民に認定するぞ! どこでもタダで宿泊出来て、迷宮の入場料もずっと無料! ナッシングだあ!」


「凄い条件ですね。依頼を受けるだけで名誉市民。宿泊費無料で迷宮へもタダで、入り放題ってわけですか?」


「うん! その通りぃ! 栄えある正義の使徒となり、タダで迷宮入って、本来のお宝ゲットと、片手間のバイトでがっぽり稼げる! 凄いだろ?」


「確かに凄い、至れり尽くせりですね」


「よし! じゃあ、文句なく依頼受諾と! 口約束じゃない証拠に! 契約書もすぐ用意するからさ!」


 マクシミリアンが「にいっ」とあの笑いを浮かべた瞬間。

 ディーノも真似して、「にいっ」と笑った。

 そして、「しれっ」と告げる。 


「いえ、お断りしますよ」


 持ち上げられて、一気に落とされた!?

 マクシミリアンは面白いくらいに驚愕した。


「はあああっ!!??」


 そんなマクシミリアンへ、デイーノは念を押す。


「お断りします」


「な、何故だぁっ!!」


「俺、普通に生きたいし、コツコツやって行くのが性に合ってます」


「何? 普通にこつこつ? 何言ってる! 派手にやってるじゃないかぁ!」


「いえいえ、正義のデスサイズとか、使徒とか無理です。自分が生きるのに精いっぱいで、そこまでの崇高な道へ踏み込めないんですよ」


「な、何!! 崇高な道へ踏み込めないだと?」


「ええ、申しわけないですが、依頼は受けません。でもルーキーキラー含め、敵に襲われたら自衛はします。無抵抗で命を奪われるわけにはいきませんから」


「自衛をする……無抵抗で命を奪われるわけにはいかない……成る程」


「はい、どんな相手でも同じです。例え、悪魔でも」


「う~む……」


 曖昧な理由で、ディーノに断られた後に、現実的な対処を告げられ……

 マクシミリアンは唸り、考え込んでしまったのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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