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第252話「双子の姉妹②」

「こら、貴様! 私達の何をしゃべっていた?」

「きっぱりと白状しなさい」


 冒険者3人組が逃げ出し、その後にどっかり座った双子の冒険者女子。

 相当機嫌が悪そうだ。

 美しい顔が怒りにゆがんでいる。


 しかしディーノはこのふたりとは初対面。

 どのような素性なのか全く知らない。

 それに興味もない。


 先ほどヨハンナが大騒ぎした時、このふたりは宿泊している部屋から出て来なかった。

 ディーノの素性は知らないはずだ。 


「いや、俺、何もしゃべっていませんよ」


「ごら! 嘘を付け!」

「少年、あの冒険者どもは私達をナンパした。ある事ない事面白おかしく話題にしていたのではないのか?」


「いえ、俺が、女子にもてないと言ったら、ナンパをしろと勧められただけです」


「おい! 往生際がわり~ぞ、正直に吐け!」

「ふうむ、本当か?」


 グリーンの瞳を持つ女子は相変わらず一方的であった。

 だが、ブラウンの瞳を持つ女子は、

 ディーノの言葉に少しは耳を傾ける気になったようだ。


 ここで「ピン!」と来た。

 ブラウン女子とだけ話せば良いと、ディーノは決めた。

 

 ケンカ腰のグリーン女子はスルー。

 ディーノは、ブラウン女子を視線に据える。


「はい、初対面のあの人達から腕相撲をやろうと誘われ、その流れで話していただけなので」


「てめぇ! 言わないのなら、腕ずくでも!」

「姉さん、待て!」


「何だ? パウラ」

「ウッラ姉さん、どうやらこの少年は嘘を言っていない」


 分かり切っていたが、ふたりの女子はやはり姉妹であった。

 そして呼び合う名前には聞き覚えがあった。


「パウラ? ウッラ姉さんって……もしや」


「何だ、お前、やはりぃ!」

「姉さん、ジャストモーメント!」


 ディーノは大きく息を吐いた。

 そして苦笑する。


「双子の女子だと聞いていたので、何となく感じてはいましたが、吸血鬼の始祖を倒したのは、貴女方でしたか? 凄いですね」


「ほらぁ!! やっぱ、私達を知ってるんじゃねぇかぁ!!」

「待てったら、姉さん。……少年その事をどこで聞いた?」


 ブラウン女子――妹パウラは姉ウッラを再び制止。

 ディーノへ『情報』の出所を尋ねて来る。


「ロフスキの支部で、マスターから聞きました」


「嘘つけ! 私達をつけてたんだろ!」

「うむ、話の辻褄は合ってる。こちらの誤解だったようだ。申しわけなかった」


「はあ、分かっていただけましたか」


「パウラ! 私は信じないぞ。こいつは嘘を言ってる!」

「ウッラ姉さん、この子はロドニア支部のマスターから聞いたと言ってる。間違いない。少年もう一度念の為、マスターの名は?」

 

「はい、ラディム・バルトンさんです」


「嘘だ! 嘘だ! 嘘だぁ! マスターの名前なら誰でも知ってる!」 

「姉さん、シャラップ! ありがとう、その通りだ。……最後に君の名を聞こう」


「ディーノ・ジェラルディです。じゃあ、もう失礼します。明日の朝、早いんで」


 ディーノが名乗り席を立とうとしたその瞬間。


「「待て!」」


 それまでふたりそれぞれ発していた物言いが、「ぴたり」と重なったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 冒険者双子女子ウッラとパウラはディーノを呼び止めた。

 口調がはっきりと変わっている。


「ここへ座れ! ディーノ!」

「座ってくれる、ディーノ君」


「あの……俺、朝早いんですけど」


「黙れ! しのごの言うな!」

「姉さん、その言い方はさすがに失礼よ。ごめん、ディーノ君、がさつな姉で」


「こら、パウラ! 誰ががさつだ! 誰が!!」


「そこまで仰るなら、分かりました」


 ディーノは苦笑し、仕方なく再び座った。


「で、ご用件は何でしょう?」


「ディーノ・ジェラルディとはお前か!」

「噂は聞いているわ。若干15歳の逸材だって」


「いえ、逸材なんかじゃありません」


「何言ってる、ランクAが!」

「そうよ、15歳でランクAなんて凄すぎるわ」


「でも、おふたりだって、ランクA。女子の年齢を言うのは失礼ですけど、俺より少し上くらいじゃあないですか」


「な、何言ってる! 私達は!」

「シャラップ、姉さん! ディーノ君、単刀直入に言うわ。私達とクランを組まない」


「いえ、申しわけありませんが……」


「うぬぬ……こ、断るのか!」

「ディーノ君、雰囲気で分かるけど、明日の朝って……ファイアドレイクへ挑むんでしょ?」


「そうです。明日の朝挑みます」


「……………」

「私達も今日、ファイアドレイクへ挑んだわ……でも歯が立たなかった。すんでの所で逃げ出した。焼かれる前にね」


「そうだったんですか」


「……………」

「ええ、今夜ここでディーノ君と会ったのも何かの縁。もう一度、言う。3人で組み、ファイアドレイク討伐へ挑んでみない?」


 パウラの顔付きは真剣だった。

 吸血鬼の始祖を倒した凄腕の冒険者コンビから、組まないかという誘い……

 いつものディーノならば、OKしていたかもしれない。

 

 実は、戦友達へは告げていなかったが……

 ディーノは単独で、ファイアドレイク討伐を遂行するつもりだ。

 己自身の力がどこまでのものか、試してみたかったのである。


 なので、やはりパウラの提案を断る。


「申しわけありません。俺を見込んで頂くお気持ちはありがたいのですが……やはり、お断りします」


 ディーノはそう言うと、立ち上がった。

 そしてウッラとパウラへ深く礼をし、食堂を後にしたのである。

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