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第250話「ファイアドレイク問答」

 ここはロドニア王都ロフスキを出て、馬車で西へ10日。

 アラウダ村狐亭。


 ディーノは宿泊する部屋へ落ち着いた後……

 宿の少女ヨハンナの忠告に従い、ジャンを相手にして、

 ファイアドレイク戦のおさらいをしている。


『ファイアドレイクの名前の由来は、火の息(ブレス)と、全身が火炎に包まれている。その姿に由来している……か』


『その通りにゃ。名前から分かるように、完全に火属性の魔族だにゃ。ファイアドレイクの中でも上位に在る者は、高貴なる4界王のひとり、パイモンの眷属だにゃ』


『火界王パイモンの眷属? ならば火蜥蜴サラマンダーと同じか』


『そうにゃ! ファイアドレイクはパイモン麾下きかの火の一族にゃ。一説によれば熱い雲と冷たい雲の交わりによって生まれる魔族とも言うにゃぞ』


『成る程。全長は20mから30mだったよな。改めて思うが、でっけ~。自在に空を飛び、降下する際に、地上が昼間のように明るくなる……だったな』


『そうにゃ! それとファイアドレイクの武器は、さっきディーノが言った火の息(ブレス)、それと一番恐ろしいのは、巨大な翼の風圧と全身から湧き出る猛炎で巻き起こす《炎の嵐》にゃ!』


『うっわ! 炎の嵐か、すっげぇ』


『ああ、すげぇにゃ! 奴の周囲100m以内にあるモノ全てを焼き尽くすんにゃぞ』 

『じゃあ、下手に近付けんな。遠くから魔法を使うしかないか』


『それは確かにひとつの手にゃ。だけど並の魔法にゃ、奴の分厚い皮膚に阻まれ、はじき返される。かすり傷ひとつ付けられないんだにゃ』


『そうか! じゃあだいぶ接近しないと魔法剣は効かないな』


『念の為、炎は全然効かないにゃ! 無効化されちまうにゃ。だから火以外の3属性の魔法で攻撃するしかないにゃ』


『そうか、かと言ってゼロ迫撃を撃つ時間もないのか……』


『そうにゃ! だけどディーノはヴィヴィ様から瞬間移動を習得しているにゃ。奴が炎の嵐を巻き起こすタイムラグが生じた際に、隙が出来る。そのタイミングで攻撃するにゃ』


『成る程、炎の嵐は相当な必殺技だけど、発動する瞬間には無防備になるんだな。その時に風のゼロ迫撃をぶちかますと』


『そうにゃ! 例えれば上級魔法使いが高位攻撃魔法を発動する際、複雑な言霊を詠唱するその間、無防備になるのと一緒にゃ』


『よし、そこを狙おう』


『でもタイムラグはほんの数秒にゃ。少しでも、もたつくと、万事休すにゃ』


『う~ん……絶対ドジは踏めないって事か』


『うしし、俺様が良い方法を思いついたにゃ!』


『何? その意味ありげな笑いは』


『聞け、ディーノ。犬兄弟は純粋な火属性にゃ。ファイアドレイクの炎で結構焦げるが、死ぬ事はないにゃ』


『おいおい、死ぬ事はないって、一体何を言いたいんだ?』


『奴らを両方、囮&盾にすれば良いのにゃ。犬どもが炎で焦げる間に、お前がファイアドレイクを攻撃すれば良いんだにゃ!』


『ひっで~、あいつら怒るぜ』


『にゃははははははは! 戦友のお前の為に盾となるのは本望にゃろ? ちなみに俺様は今回高みの見物とさせて貰うにゃ。炎の耐性がにゃい上、さすがに100mは一気に逃げられないからにゃ』


 他にも地の魔法でゴーレムを複数召喚し、囮と盾に使うとか、

 いろいろと案は出た。

 

 ディーノがジャンと「わいわい」対ファイアドレイク戦の『おさらい』をしていたら、あっという間に夕食の時間となった。


 上級の妖精で戦友だが、『黒猫のペット』にしか見えないジャンと、

 食堂で一緒に夕食を摂るわけにはいかない。


 ディーノはヨハンナに頼み、ジャンの為に食べ物を分けて貰い、渡した。

 そしてジャンに留守を頼むと、改めて食堂へ……


 食堂は、他にも宿泊客が何人も居た。

 ディーノと同じ冒険者が3人、旅の商人が5人である。

 

 全員先ほどの『騒ぎ』でディーノがランクAの上級ランカーだと知っていた。


 出された夕食は大きなライ麦パン、塩ゆで豚、テーブルビートをメインに鶏肉のだんごと数種の野菜を使ったスープである。

 

 このスープは典型的なロドニア料理で、ディーノもガイダル邸の料理長に教えて貰い、今やディーノの得意料理のひとつだ。

 いずれ愛する女子達にふるまいたいと思うし、英雄亭のメニューへ加えても良い。

 狐亭のスープは、ロフスキで食べたものとは少し違う味付けであったが、ディーノは気に入った。

 後で、ヨハンナへ味付けのコツを聞こうと思う。


 食事を終え、熱い紅茶を飲んでいるディーノへ、食堂に居た3人の冒険者が近寄って来た。

 いずれも20代半ばの男だ。

 3人はクランを組んでいるらしい。


「おい、少年、いっちょ勝負しないか?」

「ひと勝負、銀貨1枚賭けようぜ」

「ほんの準備運動だよ」


 男達は腕まくりをしていた。

 ディーノはピンと来る。


「おっと、腕相撲か」


「当たり前だ」

「ケンかなんかして暴れたら、ここのオーナーにつまみだされる」

「ランクAなら、受けるよな?」


「よし、やろう!」


 これぞ、冒険者がする旅のだいご味。

 様々な人々と出会い、触れ合う。

 

 たまには命にかかわるヤバイ事も起こるが……

 男達から放たれる波動に殺気はない。

 今回は大丈夫だろう。


 ディーノは笑顔で大きく頷いたのである。

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