第244話「誰、それ?」
ディーノとの愛の成就を、そしてヴァレンタイン、ロドニア両国において、
難度が高い貴族家女子当主になるべく、共闘する事を決め……
その為、地の精霊ヴィヴィへの誓いを立ててから、1時間……
気合の入った女子4人はディーノの件を含め、たっぷりと話し合った。
そんなこんなで……
外の窓から見える景色は既に夕焼け空、
そして魔導時計の短針はもう4時を回っていた。
「あら、もうこんな時間。時差もあるけど、そろそろ頃合いかしら。じゃあステファニーをセントヘレナへ送って行くわ。従士のカルメンが心配するからね」
時計を見たヴィヴィが告げ、『記念すべき邂逅』第1回目はお開きとなった。
「あ、そうそう。ステファニーとエレオノーラのふたりにこれをあげる。秘密保持の為、本人以外には使用出来ないわよ。誰かに聞かれたら、ディーノから貰ったと答えれば良いわ」
そう言ってヴィヴィが鎧のポケットから取り出したのは、小さな水晶がついたアミュレットふたつである。
「ヴィヴィ様、これは?」
「むむ、これはヴィヴィ様ご加護の熱いお気持ちが込められた、地の精霊の御守りか、何かですか?」
ディーノが気が付けば、エレオノーラがヴィヴィに対し、敬語を使っていた。
突然、闖入した初対面のヴィヴィを、
当初は「何者?」と疑ったエレオノーラであった。
だが……
揺れ動く自分に道を拓き、加護を与えてくれる偉大な存在だと、
はっきり認識したようだ。
何故ならば、一時的なものとはいえ、ディーノとの別離に悩める自分へ、
ステファニーを『恋と人生のライバル』として邂逅させてくれた恩を……
また公爵家の女性当主を目指す気持ちを奮い立たせ、支えてくれた恩などを、
感じているに違いないから。
さてさて!
ヴィヴィは取り出したアミュレットを、3人へ提示しながら説明する。
「いえ~す! 大当たり! これこそ地の精霊の特製アミュレット。護符になるのは勿論、遠く離れた相手でも念話……つまり心と心で話せる優れモノ。但し話せる相手は限定されるわ」
「え? 話せる相手が限定?」
「決まった相手のみ話す事が可能という事ですか、ヴィヴィ様」
「そうよ。私へのお願い連絡は当然だけど、ステファニーだったら、ディーノとエレオノーラ。エレオノーラだったら、ディーノとステファニーのみって事ね」
ここで、口をはさまず、会話を聞いて見守っていたシグネが、
ヴィヴィに向かって身を乗り出し、おねだりする。
「ね~ね~、ヴィヴィ様、シグネは、これ使えますぅ?」
「うふふ、シグネやセントヘレナの女子達は、仕える主と手をつなげば使用可能よ」
「仕える主?」
「ええ、シグネはエレオノーラを、セントヘレナの女子達はステファニーを、主として、友として深く信頼し、尽力する気持ちが失われないのなら、使えるから」
「本当? ラッキー! シグネ、嬉しいっ!」
シグネが万歳した瞬間。
すかさず『チェック』を入れたのが、エレオノーラである。
「ヴィヴィ様!」
「なあに?」
「今、仰った中で気になるお言葉がありました。セントヘレナの女子達とは誰ですかっ! ステファニー以外の女子という意味だと受け取りましたが」
ここで「はい!」と追随したのがシグネである。
「あ、それ、シグネも興味がありまっす!」
「あはは、気になるのなら、ふたりとも後でダーリンに聞いて。という事で、魔法水晶付き、地のアミュレットを渡しとく!」
「ありがとうございます! ヴィヴィ様!」
「これは凄く重宝します! ディーノの生存確認、そしてステファニーとの情報交換も思いのままです!」
「うん! 大いに有効活用して! じゃあ、最後に念押し! 地の精霊ヴィヴィは居る。存在自体は認め、喋って構わない。いいえ、むしろ地の精霊は、世の女子全ての味方だと宣伝して構わない」
「…………」
「…………」
「…………」
「だけど、普通は私ヴィヴィとこんなに気軽には会えない。このような素敵なアミュレットも貰えない。だから今、こうして実際に会い、話した事は奇跡だし、厳秘! どうしてもって誰かに聞かれたら、不思議な夢を見てお告げがあった! そういう事にする! OK?」
「はい! 当たり前です」
「充分、理解しています」
「肝に銘じまっす」
「良いかしら、しつこいようだけど、これはちゃんとした契約。書面はないけど、約束厳守ね!」
「「「はい!」」
「主たる王族や貴族、親兄弟も含め、私と直接会った事は絶対誰にも喋っちゃダメ! そしてステファニーとエレオノーラも今の時点では面識はナシ! お互い知らないって事。忘れてぺらぺら喋ったら、大ペナルティ発動! 私は勿論、ディーノの記憶も削除するから。覚悟するように!」
「「「了解です!」」」
自分の布教活動を終えたヴィヴィ、そしてライバル宣言を果たしたステファニーは、来た時と同じく……
転移魔法により、ヴァレンタイン王国セントヘレナへ戻って行った。
見送られるステファニー、見送るエレオノーラの表情は、
とても晴れやかであった。
こうして……
エレオノーラの私室は、再びディーノとエレオノーラとシグネの3人となった。
大きく頷いたエレオノーラがディーノへと向き直る。
「さて、ディーノ」
「何か」
「何か……ではない。ステファニーとの関り、ヴィヴィ様との出会いは本人達から聞いて良く分かった」
「そうか、ならば話が早い。俺の説明は不要だ。良かった、良かった」
「ノー! 良かった、良かった、ではないぞ! 改めて聞こう! ヴィヴィ様が仰っていたセントヘレナの女子達とは誰だ!」
「そうそう、シグネも気になってた! 女子達って具体的に誰なのかなぁ? 白状しなさい、ディーノちゃん!」
真剣な表情で、身を乗り出し迫りながら繰り出される、
容赦ないふたりの『口撃』に、ディーノは思わず部屋の隅へ後ずさる。
「い、いや、誰とか、白状って……そ、その……全員、友達ですよ」
全員、友達……
けして偽りではない。
ニーナもエミリーも、
クラン鋼鉄の処女団の女子メンバー達も、
確かにディーノの『親しい女子友達』である。
しかし、エレオノーラとシグネは全然、納得しない。
「はあ? 友達だと! いや! 絶対に普通の友達ではないはずだ! 吐け!」
「そうそう、すっぱりゲロしなさいって!」
「わあ!」
ディーノの辛い人生の中で、やっと幸せが巡って来た。
傍から見たら……いわゆる『モテ期』
一生に一度だけ、来るか来ないかという伝説の超ハッピータイム。
大爆発して塵になれ!
跡形もなくなれ!!
と男子達から、罵倒される幸せな環境にディーノは置かれていたのである。
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