第242話「ステファニーとエレオノーラ③」
真剣な顔付きになったヴィヴィ。
釣られて、ステファニーとエレオノーラも表情が引き締まる。
「本題ですか? ヴィヴィ様」
「よし、気合を入れ直すぞ」
ヴィヴィはふたりの気が緩まぬうち、
速攻で話すつもりらしい。
「ステファニー、エレオノーラ」
「「はい!」」
「貴女達ふたりは、ディーノと結婚したいが為に、身分の差に折り合いをつけるが為に実家を継ぐ。つまり上級貴族家の女性当主となってね」
「その通りです、ヴィヴィ様」
「うむ、結婚しても、平民のディーノは貴族家の当主にはなれないからな。ロドニアもヴァレンタインもほぼ同じだろう」
「でも、身分違いの結婚は勿論、両国とも女性貴族となる事も、勝るとも劣らないくらい高難度。これから貴女達ふたりが歩むのは、厳しい道となる」
「確かにそうです」
「覚悟の上だ」
「でも、もう一度考えてみて欲しいの。ディーノと結婚したいが為に、身分の差に折り合いをつける為に、家を継ぐ。女性当主となる、それは本末転倒かもしれないわ」
事前に根回しした上で、ステファニーとエレオノーラは家を存続させる為、
自身が当主となる。
その上でディーノと結婚し、彼を婿にする。
それがいけない行為だと言うのだろうか?
物事の根本的な事と、そうでない事とを取り違えるとでも言うのだろうか?
「え? 本末転倒?」
「ど、どういう意味だ? ヴィヴィ様」
「貴女達は知らないかもしれないけれど……ディーノの持つ特殊スキルは導き継ぐ者……彼はもう何人もの遺志を受け継ぎ、何人もの迷える者を導いて来たわ」
「導き……」
「……継ぐ者」
「貴女達ふたりもディーノの特殊スキルにより導かれ、貴族家の女性当主になる運命だと考えたらどう?」
「私とエレオノーラが導かれる? 運命?」
「私とステファニーが導かれる? 運命なのか……」
「ええ、運命よ。そして貴女達ふたりとも、難儀する者のたっての依頼により、赴いた戦いの中で、リアルな厳しい現実を知ったはず」
「…………」
「…………」
ヴィヴィの言う通りである。
ヴァレンタイン王国の楓村でステファニーが体験した。
ロドニア王国のヴィオラ村、リーリウム村では、エレオノーラとシグネが体験した。
魔物の過酷な迫害に蹂躙され、領主から見捨てられた、
人々の厳しい現実があった。
「戦う者が義務を放棄している怠慢を。その怠慢によって引き起こされるとんでもない悲劇をね」
「…………」
「…………」
「ディーノは、これからも数多の遺志を受け継ぎ、世の難儀する大勢の者達を救い、心身共に導いて行く。だけど、彼の妻たる貴女達はどう生きるの?」
「…………」
「…………」
「ディーノと結婚したら、それで安心しちゃうの? もしかしてそこが最終ゴール? 単に当主となった実家を盛り立てるくらいのレベルで頑張るの?」
「…………」
「…………」
「私ヴィヴィの個人的な意見だけど、ディーノの妻たる女子にも、夫に勝るとも劣らない崇高な志があって然るべきよ」
「…………」
「…………」
「貴女達が導かれ、愛する夫とともに難儀する人々を助ける! そう覚悟を決めて邁進すれば、女性当主になるという険しい道は拓け、悲願の恋も成就するかもしれない。保証は出来ないけれどね」
「…………」
「…………」
「その覚悟がないのなら……厳しい言い方だけど、ディーノとの恋から思い切ってリタイアすれば良い」
「…………」
「…………」
「ふたりとも、いずれお父上から、相応の相手が紹介され、貴族家の妻として、楽ちんで、平々凡々な人生が送れるはずよ」
「…………」
「…………」
「それもひとつの幸せの形。誰もその生き方を責める事は出来ない。時間は想い出全てを風化させて行く。ディーノへの熱く深い想いも徐々に薄れ、終いには彼の存在すら忘却するわ」
「…………」
「…………」
「でも……貴女達をライバル同士として、今日ここで、私が引き逢わせた意味、邂逅させた意味を、改めて考えてみて」
「私とエレオノーラがライバル同士?」
「私とステファニーがライバル同士?」
「そうよ。互いに切磋琢磨する素晴らしいライバルが居てこそ、得る勝利はより大きい。苦難の道も却って励みとなり、結ぶ信頼の絆も固く、そして強くなる」
「…………」
「…………」
「どちらにしても、近くディーノは、ここロフスキを旅立つ。待っている人が大勢居るもの。彼等彼女の求める心がディーノを呼ぶの」
「…………」
「…………」
「もしも、ディーノの妻になれば、とても心配よね? とんでもなく凄い奴だと分かっているけど、その分、無茶もするからね」
「…………」
「…………」
「これからもディーノの行く手には数多の危険、苦難が襲いかかるでしょう。でも大丈夫! 私ヴィヴィは未来永劫、地の大いなる加護を与えるつもり。貴女達が、遥か遠くに在りても、全然案ずる事はないわ」
「…………」
「…………」
「ステファニー!」
「は、はい!」
「エレオノーラ!」
「お、おう!」
「だから、ディーノを快く旅へ送り出し、その間、貴女達は夫たるディーノに負けないよう、自己研鑽し、実家を継ぐべく大いに努力するのよ。そしていつか貴女達は愛する想い人と結ばれる日が来る。必ずね!」
「…………」
「…………」
「それにディーノだけじゃない。貴女達にも秘められた素質がある! 発揮出来る素敵な才能が眠っているわ!」
「…………」
「…………」
「何故この世に生まれて来たのか、ふたりとも実感してみたいはず! 私ヴィヴィは地の最上級精霊であると同時に、頑張る女子達の守護精霊でもあるの!」
「…………」
「…………」
「さあ、ステファニー、エレオノーラ。己の人生を懸けた一世一代の恋ならば、すぐに答えは出るはずよ。私へ示してみせて!」
ヴィヴィはそう言い放つと……
無言となったステファニーとエレオノーラを、じっと見据えたのである
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