第238話「貴重なひと時」
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翌朝……
ディーノ達はリーリウム村を出発した。
村民達は村長カスパル、姪のヒルデガルド以下、全員で見送ってくれた。
実は村民達はもっと居て欲しいと引き留めていた。
だが、そうもいっておれなかった。
ロドニア王国軍統括、騎士団長たるグレーヴの業務が溜まりに溜まって、
滞っていたからである。
相手がそんな『上級貴族のお偉いさん』と知らない村民達は、
一般の冒険者と同じく、グレーヴに接した。
グレーヴも気さくに応じた。
そんな父の態度に感化されたのか、エレオノーラも高慢な態度を取らなかった。
彼女はディーノに出逢った時より、人間的に着実に成長していたのだ。
「ディーノ、元気でなぁ~! お前の無事を祈っているぞ~!」
ディーノの背へ、ヒルデガルドの大きな声がかかった。
振り返ると、ヒルデガルドは大きく手を打ち振っていた。
微笑んだディーノも、振り返って手を振った。
隣に座るエレオノーラも、荷台に座るグレーヴもシグネも、
村民達とヒルデガルドへ手を打ち振った。
ディーノは昨夜の出来事を思い出す。
今まで出会った女子達に、同じタイプは誰ひとり居なかった。
ヒルデガルドも同じだった。
気性の激しさは、ステファニー、エレオノーラに通じるものはある。
でも彼女は彼女。
ヒルデガルドは世界にひとりしか居ない。
それは当然、ステファニーもエレオノーラも同じである。
3人以外の女子達も皆全く違う。
誰もが、世界に唯一無二の素敵で魅力的な女子達なのだ。
さて、ヒルデガルドと再会を約束はしたが……
もしも折り合えば、リーリウム村を再訪したいとは思うのだが……
ヒルデガルドには……もう二度と会う事はないだろう。
ディーノは何故かそんな気がした。
「ディーノ」
と、ここで同じく御者台に座るエレオノーラから名を呼ばれた。
「すまない、エレオノーラ」
ディーノはつい謝ってしまった。
無論、昨夜のヒルデガルドとの『一件』である。
ディーノはヒルデガルドと愛を交歓した。
キスを交わし、抱擁しただけではあったが、
純粋な想いを通じ合った、確かな愛の形であった。
ヒルデガルドは、ディーノと散々踊った後……
エレオノーラとシグネも無理やり引き込み、4人で思い切り踊った。
女子同士の友情、同じ男子への愛情が混在する中、
4人は熱く踊ったのである……
ちらと見れば、エレオノーラの目が遠い。
記憶を手繰っているらしい。
「何言ってる。……素敵な夜だったさ」
「エレオノーラ……」
「ははは、シグネで他の女子からのアプローチはもう慣れた」
「…………」
「それにヒルデガルドは私から見ても、素晴らしい女子だった」
「…………」
「村の教会で吐露したあいつの気持ち……実は私も同じだった。……怖かった」
「…………」
「女子に容赦なく残虐行為を行うオークどもを前にし、私の身体は強張り震えていた。信じるという感情で、お前への心配を無理やり抑え込んでいた……」
「…………」
「お前が、単身古城へ乗り込むのを止める事さえしなかった」
「…………」
「だがヒルデガルドは……同じく怖かったのに、勇気を振り絞り、お前の後を追った。ディーノを助けに行くと叫び、ひとりで城へ乗り込んだ」
「…………」
「あいつは騎士ではない。農民だ。しかし私よりも、遥かに崇高な騎士の心を持っている!」
「…………」
「やはりロフスキへ引きこもっていてはダメだ。お前のようにいろいろな人と会わなくてはな。心身とも成長など出来ぬ」
「…………」
「ヒルデガルドは、私へ女子の生き方のひとつを見せてくれた。あいつとの出会いはお前と同じく私の人生において貴重なひと時だった。……そう思うのだ」
やはり、エレオノーラは大きく成長している。
あっという間に終わった短い旅ではあったが……
同じ時間をこの子と共有出来て良かった。
ディーノは心の底からそう思ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数日後……
王都ロフスキへ帰った一行には、また通常の日々が戻って来た。
溜まってした仕事を処理する為、グレーヴはまた多忙となった。
ディーノは敢えて言わなかったが……
グレーヴが冒険者として依頼を遂行する意味が他にもあると推測していた。
難儀する人々を救うだけではない。
小回りが利かない、騎士団や王国軍のフォローだけではない。
各町各村へ赴き、実情を確かめる。
つまりグレーヴは『監察官』の役割も担っていると。
今回のヴィオラ村、リーリウム村の領主達には、何らかの形で、
グレーヴからのアプローチがあるに違いない。
その後の事は推して知るべし……であろう。
さてさて!
しばらくガイダル家へ入り浸りだったシグネは実家へ戻った。
いろいろディーノの事を話すという。
そしてエレオノーラは……
何故かぼんやりする事が多くなった。
たまに愚痴が出ていた。
ディーノはあまり突っ込まないようにしていたが、
「このままでは駄目だ」と何度も呟いていた。
ディーノ自身はといえば、グレーヴからガイダル家に詰める若手騎士達の指南をするよう頼まれた。
改めて実感したが……
ディーノは他者へ教えるのがあまり苦ではなかった。
但し懸念はあった。
自分の武技はあくまで我流であり、正統な剣技、もしくは拳法、格闘術とは違う。
魔法だってほんの基礎しか学んではいない。
しかし論より証拠。
主のグレーヴからこれまでの実績、そして今回の戦果の説明を受け、
ディーノに対し、若手騎士達は尊敬、否、畏怖の念さえ持つようになった。
そして実際に武技の相手をして貰い、その事実を己自身で体感したのである。
当然だが、ディーノは自身の鍛錬も欠かさなかった。
武技も魔法も……
そして戦友達とのコミュニケーションも欠かさない。
また依頼を完遂し、報奨金も受け取って、ひと息ついたこの時間。
いろいろな知識を習得するのに良い機会だと思ったディーノは……
エレオノーラとのデートを兼ね、王立図書館や冒険者ギルドへ赴き、
様々な書物、閲覧可能な資料に目を通した。
……そんなある日の午後、「大事な話がある」とエレオノーラから言われ、
ディーノはガイダル邸の彼女の私室へ出向いたのである。
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