第232話「圧倒返し」
東導 号 書籍化作品⛤『魔法女子学園の助っ人教師』
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ディーノは一見、無防備且つ無造作に門へ近付いて行く。
門番役のオークサージェント2体が気付き、つかつかと歩いて来た。
やはり上位種である通常のオークよりふたまわりくらい大きく、
身長が2mを超えていた。
全身筋骨隆々だ。
ディーノから見れば、見上げるような相手となる。
常人なら圧倒されるだろう。
オークサージェントも人間など歯牙にもかけない。
「ちっぽけな人間如きがたった1匹、何をしに来たのか?」という表情である。
しかしディーノも全く臆さない。
面白そうに笑っている。
そんなディーノの態度がむかついたのか、オークサージェントは大きく咆哮、
いきなり襲いかかって来た。
一体は大きな剣、もう一体は斧を振り下ろして来る。
瞬間!
ディーノの身体が、オークサージェント達の目の前からぱっと消えた。
倒すべき獲物を見失い、きょろきょろするオークサージェント。
しかし突如、背後から声がかかる。
「おい、こっちだ」
「!!!」
「!!!」
どぐぅお!
どぐぅお!
肉塊を思い切り、こん棒で叩くような重い音がした。
ヴィヴィ直伝!
超単距離転移間魔法で、背後に移動したディーノは、
戸惑うオークサージェント一体の背中から、
神速で繰り出した拳を深々と打ち込んだのだ。
そして間を置かず真横へ移動。
もう一体の背中へも拳を打ち込んだのである。
「げは!」
「ぎゃう!」
背中から腹へ突き抜ける凄まじい衝撃。
オークサージェントは内臓が破裂し、口から青い血の塊を吐くと、
ばったりと倒れ、そのまま動かなくなった。
「な!? なんだあの動き!!」
ディーノが消えた!?
それだけではない。
たったひとりで!
一瞬にしてオークサージェント2体を倒した!?
離れた場所から、ディーノを見守るヒルデガルドは……
白昼夢でも見ているようだった。
今までオークサージェントと戦った事はある。
まともに戦ってもまず勝てない。
相手はとてつもない膂力を誇り、スタミナは無尽蔵。
そして全身には、固い筋肉の鎧をまとっている。
どうにか勝った時は、全てが奇襲。
森を単独で歩くオークサージェントを見つけた時、
完全武装した自警団、全20数人がかりで何とか倒した。
しかし、それでも怪我人が何人も出たのである。
呆然とするヒルデガルドの耳に、女子ふたりの誇らしげな声が響く。
「見たかぁ! ヒルデガルドよ! あ、あれが私の夫ディーノ・ジェラルディだぁ~っ!!」
「うふふっ! シグネの夫でもありま~っす!」
「………………」
歓喜する女子ふたり、
呆然とする女子ひとり。
しかし、当のディーノは何事もなかったかのように踵を返し、
すたすたと古城の中へ入って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
所々、がれきと化した、古城の中は静まり返っていた。
かといって無人ではなく、オークの気配は満ちている。
まさか人間如きが単身乗り込んで来るなど、想像もしていないのだろう。
仲間が倒されたというのに、未だに迎撃はない。
身を隠すことなく、堂々と乗り込んだディーノ。
グレーヴから聞いた通り、四方に監視塔があり、
入り込んだディーノの姿にようやく気付いた見張り役が、
奇声をあげ、騒ぎ立てた。
「ふん、ぎゃあぎゃあ、うっせ~な」
ディーノは軽く指先をあげ、騒ぐオークどもへ狙いを付けた。
どしゅ!
どしゅ!
どしゅ!
日頃の鍛錬の賜物。
風の魔法剣の制御は抜群。
否、鍛錬の結果……
今や使用可能となった重く鋭い風の魔法弾が、
オークどもの分厚い肉体をあっさりと打ち砕いた。
「ぎゃう!!」
風の魔法弾で大穴を開けられ、肉体を破壊されたオークどもは、
短い悲鳴の後、あっさり息絶える。
こうなると、さすがにオークどもも異変に気付いた。
正面の兵舎らしき建物から、夥しい数のオークが現れる。
やはり全てが上位種のオークサージェントだ。
仲間を殺され、いきり立ったオークどもは一斉にディーノへ襲いかかって来る。
四方からは、矢も数多射かけられた。
「ふっ」
またも不敵に笑ったディーノは、
どんっ!
という擬音が聞こえるように、思い切り大地を蹴った。
その後に、放たれた矢が何本も突き刺さる。
高速で駆けながら、ディーノは剣を抜き放つ。
向かって来るオークどもの真っただ中へ突っ込む。
抜き放ったのはヴィヴィが名付けた至宝ディーノの剣。
亡き父クレメンテが愛用した剣に、
精霊の秘宝オリハルコンの武具が合体したものである。
その切れ味は凄まじい。
ナイフで柔らかいバターを切るが如く、
ディーノが数回剣を振るうだけで、
たちまちオークどもは、命亡き大量の肉塊と化した。
剣だけではない。
先ほど同様、鋭く突き出す拳、そして薙ぎ払う蹴りを、
ディーノは襲いかかるオーク達へ叩き込んで行く。
次々と仲間を殺される、憎悪に満ちた怒号、
この世と別れを告げる断末魔の悲鳴、
オークどもの叫びと感情が混在し、旧き城内に満ちた。
そして20分経たないうち、
気が付けば……
累々と積み重なるオークどもの死体の山に囲まれ、
ディーノはひとり立っていた。
「手応えが無さすぎる……ヴィヴィ様の仰る通り、俺は魔人か」
改めて見渡しても、周囲に動くモノは全くなかった。
「……今の俺には、常人を圧倒する上位種のオークでも、相手には不足って事か」
独り言ち、苦笑したディーノは一瞬迷う。
死体が不死化しては困る。
だから、威力を増した火の魔法剣で一気に炭化させようと考えたのである。
しかし、思い直す。
ヴィオラ村同様、グレーヴ、
そしてヒルデガルド達リーリウム村の自警団員に、
戦いの顛末を見分して貰う方が、得策だと判断したからだ。
オークどもが全滅したとはっきり目の当たりにすれば、
村民達は、前向きに生きて行く事が出来る。
冒険者への偏見も少しは減るに違いない。
よし、仕上げだ!
首魁オークカーネルを一気に倒す。
村民の恨みを……
両親をオークに殺されたヒルデガルドの復讐を……
俺が代わりに果たす。
やや大きな気配を左奥の塔から感じる。
確実にオークカーネルは居る。
大きく頷いたディーノは……
力強く一歩を踏み出したのである。
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「元ジャンク屋追放勇者のんびり辺境開拓記。怖い魔族と仲良くなって、いつのまにか賢者魔王と呼ばれてた?」
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